輝くダイヤモンドを隣でそっと見守るカエル。とある男性がプロポーズのためにオーダーしたエンゲージリングで、男性が母から譲り受けた婚約指輪をリフォームしたものだ。手がけたのは、福岡市の結婚・婚約指輪、ジュエリー・リフォームの専門店「Shirokuma」。親や祖父母がつけていた古い指輪や家に眠っていたジュエリーを、いま身につけてもセンスよく映えるものにリデザインしている。「そもそも宝石は受け継いでいくものなんですよね」と話す「Shirokuma」の宮田 要さん・由紀子さん夫妻を取材した。ジュエリー・リフォームで実現できる、サステナビリティの形とは。
「精緻」と「かわいい」が同居するデザイン
「Shirokuma」が店を構えるのは、福岡市天神の西通り。目の前には老舗百貨店、周辺にも名だたる宝石店が建ち並ぶいわばジュエリー激戦区だが、着実に顧客を掴み、2020年4月でブランド創業10周年を迎えた。
代表でデザイナーの宮田 要さんが手がけるジュエリーは、精巧なつくりの中に“かわいらしさ”が同居する。中でもクマやリス、ハリネズミなどがデザインされた「ミクロ動物園」シリーズは、どれも表情や動きがリアルで愛らしく、思わず話しかけてしまいそうなほどだ。
そのデザイン性と技術力が信頼され、オーダメイドはもちろん、ここ数年はリフォームの依頼も増加。現在は月10件ほどがリフォームで、これまでに手がけた総数は1000を超えるそうだ。

受け継がれるジュエリーで家族の想いを形に
リフォームでは、依頼者の家族が持っていた古いジュエリーや、家に仕舞い込んでいたものをベースにし、今の時代に身につけられるものに作り変える。デザインのイメージは依頼者の好きなものや、エピソードを元に形にしたものが多い。
主に由紀子さんが依頼者と話して要望を聞き、技術的な点を要さんと相談しながら、デザインを決めていく。
冒頭の“カエルのエンゲージリング”は「お客様のお母様の指輪をベースに婚約指輪を作りたいと。元の指輪は昔ながらの立爪のダイヤモンドリングでしたが、立爪を削り出して今っぽいフォームに仕上げました。奥様になられる女性の好きなカエルをあしらい、指輪の内側にはお客様が考えられた『同じ家に帰る』という意味のメッセージを彫っています。とても喜ばれて、プロポーズも成功したそうでよかったです」と話す由紀子さん。
結婚20周年を記念した結婚指輪のリフォームでは、野球で結ばれた家族の絆を表現するため、中央に野球ボールを配置した。「お客様からは『この指輪を見るたびに、家族と野球の大切な日々を思い出せます』というお声をいただきました」と要さん。依頼者の想いを形にでき、仕上がりに喜んでくれた時が何より嬉しいと二人は言う。



要望を叶えるために、可能性の範囲を決めない
「お客様の要望をどうにかして形にしようっていうことは、昔から大事にしています」と要さん。このスタンスは独立前、ジュエリーショップのデザイナーとして働いていた頃から変わらない。独立後、なんとか形にしようと方法を模索する中で独自のやり方を生み出し、技術的な選択肢は増えた。
例えば指輪の場合、宝石だけ元のものから取り出し、リング枠は店頭にあるデザイン枠を新たに見つけてきてリフォームすることが多いが、「Shirokuma」では元のリング枠を生かしたリフォームも行なっている。
「お店のオープン当時、おばあさまの指輪をお持ちになられたお客様で、元の枠も生かして欲しいと言われたんです」と由紀子さん。元の枠を生かしながら今のデザインに作り変えることはとても難しく、時間やコスト面で考えるとなかなか出来ないのだという。「元の形があるから、削れる範囲が決まってしまっている。その中でどうデザインするか。削りすぎてしまってもいけないし」と、要さんも技術面の難しさを語る。
このリング枠を生かしたリフォームを始めたことで、提案の幅が広がり受注も増えたのだとか。「できる範囲を自分で決めない。やったことがないことでもやってみて、要望を叶えられることが一番のやりがいですね」と要さん。
子や孫に残したくなる「かわいい」を目指して
子や孫に残したくなる「かわいい」を目指して
家族から受け継いだジュエリーを出来るだけ生かして、今も身につけられるものにアップサイクルする。リフォーム後のジュエリーには、家族の想いや願いなどさまざまな付加価値がプラスされているが、「Shirokuma」がもうひとつ大事にしていることは、持ち主に「かわいい」と思ってもらえるかどうかだと二人は言う。「リフォームして使いやすくなったけれど、デザインはあんまり好きじゃない」だと意味がないのだ。
「今はほとんどのお客様がSNSなどで『Shirokuma』のテイストをチェックした上で依頼されます。『ここなら可愛くしてくれる』と思ってオーダーしてくれたお客様に、絶対気に入ってもらえるものにしたい」と要さん。どんなに昔のものでも、いま目の前にいる依頼者の“かわいい感度”に合うものへ引き上げる。「かわいい」と思えるものこそが大切に身につけられ、また次の世代に引き継がれるはずなのだから。

家族の象徴を次世代につなぐ
婚約指輪を買う場合、宝飾店に行って並んでいる商品から気に入ったものを選ぶ、というのが一般的な流れだろう。しかし「Shirokuma」では婚約指輪を買いに来店しても、一旦帰ってもらうことも多いという。
「うちではまずご両親が婚約指輪を持っていないか聞くんですよ。それで帰って聞いてもらうと、お持ちのことも多いんです。そこからお客様のお話を聞いて、ご両親の婚約指輪を元にご要望に沿ったものにリフォームしていきます」と要さん。店の都合からすると、その場にある商品を買ってもらう方が早いし、何倍も効率がいいはずだ。だが、受け継いだ指輪をリフォームすることで、家族の絆も深まるし何より喜ばれる。
「宝石って受け継いでいくものだということが、私たちの根底にあるんですよね。もちろん新しく買ってもいいんだけど、婚約指輪など記念のものには、家族の象徴みたいなものを使えれば」と由紀子さんは言う。

技術の継承を100年後の未来に
コロナの影響で予約制にしたりしたため来店数は減ったものの、オンラインも含めリフォームのオーダー自体は増えているという。「これからも変わらず、自分たちのスタンスは守っていきたいですね。次にリフォームする時もうちにしたいと思ってもらえるように」と要さん。「特に宝石はアフターケアが大事ですし、何年経っても大切に使ってもらって、ケアが必要な時はいつでも持ってきてもらえるように店を開けておかないと。コロナに負けるわけにはいきません」と由紀子さんも続ける。
そしていつの日か、「Shirokuma」がリフォームを手がけたジュエリーが受け継がれ、未来の技術者にリフォームされるまで大切に持ち続けてもらいたいと二人は願う。
「昔の指輪のつくりを見て感心したり、学ぶこともたくさんあるんです。50年後、100年後にリフォームする人にも、自分の仕事を見て『この技術すごいな』って思ってもらえると嬉しい。そのためにも恥ずかしくないような仕事をしなきゃ」と、要さんが技術者ならではの大きな目標を語ってくれた。
ジュエリー・リフォームが実現するサステナビリティとは、モノを捨てずに再生するだけでなく、身につける人の想いと、作り手が残したい技術を未来につなぐことなのだ。

Shirokuma 宮田 要さん・由紀子さん
代表兼デザイナーの要さんがジュエリーメーカーで15年制作に携わった後、2010年4月に「Shirokuma」を立ち上げる。2011年4月、福岡市天神・西通りにショップオープン。2012年10月、株式会社しろくま設立。
Shirokuma