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仕事・働き方

ドライフラワーで世界に新しい循環を。花の廃棄を減らす4児のママの挑戦

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お花が好きだから花に関わる仕事がしたい、花屋さんで働きたいという女性は多いと聞きます。しかし、目に見える綺麗な表側の世界とは反対に、花の現場は過酷です。力仕事も多く繁忙期には長時間にわたる労働、また小売もブライダル装花の仕事も休日に集中するため、幼い子供のいる女性が独身時代と同じように働き続けることは難しい業種です。
そんな花の世界に一石を投じるフラワーショップが、秋田県秋田市にあります。
店の売りは『ドライフラワー』。生花を染めて乾燥させることで、お客さんはもちろん自分も店のスタッフも幸せにし、さらに花の廃棄を減らす…アイデアと行動力で花の世界に新しい循環を生み出そうとする4児のママの挑戦を紹介します。

カラードライフラワー画像

花の仕事は天職

秋田市にあるフラワーショップ『green piece』。SNSで花のワークショップ開催を告知すると、あっという間に参加者は定員に達し、キャンセル待ちをするファンからオンライン開催を求める声が相次ぐほど人気を集めています。
店の看板

夫とともにこの店を営むのは、金森鮎美さん。
花の仕事が好きで、若い頃から花の世界で腕を磨いてきました。
実家が美容院を営んでいたことから、たくさんのお洒落な大人に囲まれて美意識を育むとともに、特に色に強い興味を持っていたという鮎美さん。
鋭い感性を活かすには花の仕事が良いのではないかと、高校卒業後は迷わず花の世界に飛び込みました。
壁にドライフラワーを施工する鮎美さん

花に囲まれ、個性を思う存分発揮して仕事に熱中する日々。その姿を温かく見守り、花にかける情熱と才能を一番近くで認めてくれたのが、当時鮎美さんが勤めていた店で店長をしていた夫の弘至さんです。互いに惹かれあっていた2人は結婚し、鮎美さんは24歳で第1子、27才で第2子のいずれも女の子を出産します。

数千万円の負債を夫婦で返済

その頃、弘至さんはそれまで働いていたフラワーショップを退職し、2014年にgreen pieceを設立。仕事もプライベートも順風満帆な2人でしたが、その後弘至さんが経営上のトラブルに巻き込まれて数千万円の負債を背負うことになり、裁判に発展します。green piece側に落ち度はなかったものの、結局売掛金は回収出来ず、それが引き金となったのか弘至さんは体調を崩してしまいます。
鮎美さん「夫は精神的にダメージを受け、お客さんと会うことも子供の保育園の送迎さえもできなくなるほど辛そうだった。吐き気がすると言って何度も胃カメラで検査をしたが原因が分からず、これは私が働いて家族を養わなければと思った」
当時、小さな子供を抱えて花の仕事を続けることが難しいと思い、実家の美容院の仕事に就いていた鮎美さんですが、再び好きだった花の仕事で一緒に借金を返済していくことを決意します。
その後の数年間、夫婦で文字通り昼夜を分かたず死に物狂いで働き、無事に借金を返済。ちょうどその頃、ブライダルフワラーの仕事で多くの花が廃棄されるのを見て、このまま捨て続けていいのか疑問に感じていた2人は、ドライフラワーの持つ可能性に気がつきます。

ドライフラワーにはいくつもの価値がある!

ドライフラワー画像

弘至さんが、ブライダル用の白いバラを染めて遊んでいたところ、偶然乾燥した染め花の美しさに魅了され、試しに母の日に販売してみたところ好評を博します。ドライフラワーなら他の業者が生花を買わない時期に花を仕入れて乾燥させておくことができ、市場の需要と供給のバランスを気にせずに花を仕入れられます。これはビジネスになると2人は確信しました。
と同時に、最初は単純に綺麗だと思って作っていたドライフラワーに別の価値があることにも気づきます。
鮎美さん「最初は、ブライダルで廃棄させる花も価値のあるものに変えたいと思っていたが、作っているうちにドライフラワーは単純に綺麗なだけじゃないと気がついた。前からリンゴは傷があればジュースになるし、フランスパンはラスクになるのに、なんでお花は捨てられるのかと思っていたから、『ロスフラワー』という概念を発信する※株式会社RIN代表のフラワーサイクリストの河島さんに出会って、『私たちが思っていることを言葉にしている人がいる!』と刺激を受けて、私たちも花のアップサイクルについて発信を始めた」
※フラワーサイクリスト河島春佳さん-廃棄される生花『ロスフラワー』を再利用して新たな輝きを生み、再び世の中に送り出すという花のアップサイクルに取り組むhttps://lossflower.com/about
弘至さん「ドライフラワーに出会ってめちゃくちゃ価値観が変わった。生花はプロと一部の愛好家が扱うものという概念があったが、ドライフラワーは誰でも作れるし、生花に比べて長持ちするので飾り方や楽しみ方も広がる。花の廃棄も減って環境にも良い。ドライフラワーによって花屋さんの働き方の選択肢が増え、飾る人も花の楽しみ方が変わると思う」
カラードライフラワーを使ったアレンジ

NEXT‥‥病に直面することで働き方を考える
子供たちと金森夫妻店舗画像

店内で撮影したファミリーマタニティフォト

病に直面することで働き方を変える

花の仕事に打ち込みながら、その後男の子と女の子を出産し4児の母となっていた鮎美さん。彼女自身も第4子妊娠中に、ウイルスが原因で顔面神経の麻痺を引き起こすラムゼイハント症候群という病に見舞われます。
病に直面したとき、初めて鮎美さんは自分が無理をし過ぎていたことに気がつきます。
このままでは子どもたちと過ごす時間が足りない、さらに自分自身の体も壊れてしまうと思った鮎美さんは、働き方について真剣に考えるようになります。
鮎美さん「これまで通り自分が手を動かしてフラワーアレンジメントを作り続けるスタイルだと、時間がなくて子供達にもかなり我慢させることになると感じた。家族との時間を大事にするためにも、知恵を絞って色々な人に喜ばれて収益を生むようにしないといけない。その手段の一つがドライフラワー。プライベートでは、子供たちも少しずつ家事を手伝ってくれるようになり、洗濯物を畳むのが好きな5歳の次女が3歳の弟の保育園用の洗濯物を畳んでくれる。家庭と仕事のバランスが取れているとはまだ言えないけれど、子供たちに楽しく働くお母さんの姿を見せていきたい」
現在、green pieceのスタッフは、鮎美さんと弘至さんを入れて5人。お店がオープンしているのは、基本的に週末の土曜日と日曜日の2日だけという地方の花屋としてはかなり珍しいスタイルです。それまでメインの業務だったブライダル装花の仕事を減らし、定期的に顧客の自宅に花を送るサブスクのビジネスを展開するなど、工夫を重ねて売り上げの数字を伸ばしてきました。今は、花を仕事にしたい人向けのセミナーや既存のフラワーショップのコンサルティングを手掛けるなど、新しい花屋の形を模索しています。
店頭に立つ鮎美さん

GIVE &TAKEではなくGIVE GIVE GIVE!

鮎美さん「これからは、好きなことを仕事にしたいという個人がフォーカスされる時代だと思う。だからこそ、花を生業にしたいという人に知識や経験を伝えて、シェアすることで幸せになる人を増やしていきたい。SNSなどで花の取り扱いに関する技術や知識をオープンにすることで、さらにお店のファンが増えた。人から何か貰いたいと思ったら逆に与える。ギブアンドテイクではなく、ギブギブギブを意識し出したら自分たちも周りも変わってきた」
利益につながる独自の技術は門外不出というこれまでの商売のセオリーに照らし合わせると、鮎美さんがやっていることは一見無謀のようにも見えます。しかし、このギブギブギブの精神こそがgreen piece躍進の一番の原動力なのかもしれません。
最近、鮎美さんは新しいプロジェクトを立ち上げました。秋田県がナマハゲダリアの名前を掲げ全国に特産品として売り出しているダリアの廃棄を少なくするため、規格外の花を商品化する仕組みを考えています。
ダリア画像

鮎美さん「規格外だから安く仕入れたいという思いは全くなくて、環境にとっても生産者にとってもいい循環を作っていきたい。不安なこともあるけれど、絶対にワクワクや楽しさが勝っている。この先は、花だけではなくライフスタイルも含めてお客様に提案していきたいので、(人生のあり方や商売の方法など)これまで当たり前と思い込んでいる『枠』を外し、更に自分たちらしい生き方をするにはどうしたらいいかを学び、実践している」
花の命は短くて 苦しきことのみ多かりき
放浪記の著者である林芙美子さんが、女性の人生を花に例えて残したといわれる言葉です。そんな女性たちが生き抜いた苦しい時代を経て、令和の今、かつて花に例えられた女性の輝く時間は随分と長くなりました。


生の花に手を加えることでドライフラワーという新しい価値を生み出すように、鮎美さんは、逆転の発想から生み出される新しい価値感を武器に自分自身の人生を切り開いていきます。

取材・文 渡辺綾子
画像提供 green piece

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