先生たちでつくるダンス部を結成して活動する岡本さん。ダンスという武器を使って、先生だけでなく子どもたちも笑顔に変えていく取り組みを紹介します!
ダンスの力を使って
子どもたちと関わる、
新しい時代の
先生像を模索。
今回紹介させていただく公務員は、中学校の先生。元・ダンサーで、現在、東京都の区立中学校にお勤めの岡本和隆先生を紹介させていただきます。「先生が元気になれば、子どもたちも元気になる」。そんな考えから、ダンスの力で先生たちを元気にできないかと立ち上げた、先生たちでつくるダンス部は、学校の垣根を越えて広がっています。また、ダンスが子どもたちに与える影響について大学との研究も行っています。
どんな先生に出会うかは、子どもの成長にとって大きいもの。先生は、親よりも関わる時間が長い、一番身近な大人です。そんな先生も、ほかの公務員と同様、「先生ってこうだ」と一括りにされがち。でも、本当はそれぞれの方々が一生懸命に思いを持って働いています。岡本さんの活動を通じて、改めて先生の持つ仕事の価値や、新しい時代の先生像をお伝えできればと思います。
先生たちのダンス部で、
まずは先生を笑顔に。
身近な大人の変化で、
子どもたちにも好影響。
人の成長に関わりたいと、教育を専門に学ぶことができる大学に進学した岡本さん。そこで、ダンスによって人がワクワク・ドキドキしながら成長する魅力に取り憑かれ、ダンサーとして人を喜ばせたいと夢見るようになりました。そんな中、まだ学生の岡本さんがダンスの授業をやってみると、その場に立ったままの生徒や、恥ずかしがって少ししか動かない生徒が続出。とてもショックだったと言います。当時は、中学校の保健体育でダンスが数年後に必修化になるという話が出ていた頃。「これからの教育現場は大変なことになる」と危機感を覚えたと言います。少しでも多くの子どもたちにダンスのおもしろさを伝えたいという思いから、岡本さんは先生になりました。
そして目にしたのは、学校の先生が置かれている現実。病気で休まれている先生がたくさんいました。改めて調べてみても、精神疾患による休職者は10年で3倍にもなっていました。学校の先生を元気にすることが、その先生たちが関わる子どもたち、学校、そして地域を元気にするんじゃないか。外部との交流を深めている先生のほうが自己肯定感が強いと知った岡本さんは、2014年に、ダンスを手がかりに学校の先生と先生が交流して互いに学び合いを深める場「DANCE X“cross”」を立ち上げます。
対象は、保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校、専門学校、大学といった、教育に携わるさまざまな先生。最初は13人で始めたコミュニティが、今では100を超える学校から180人以上が参加し、首都圏の中では支部まで誕生するほどに広がっています。先日も、代々木公園で行われたストリートダンスフェスに登場し、お客さんの中には、出演している先生の生徒とその親の姿も。普段教壇に立っている先生が、素敵な笑顔で一生懸命ダンスに打ち込む姿を見て、とても心を打たれた様子だったと言います。その効果は大きく、これまでなかなか指導に従わなかった子どもが、急に関わりを持ってくれるようになったり、親もとても協力的になってくれたり。一番身近な大人である先生たちがイキイキ・ワクワクしていることは、子どもたちにとってとても大切なことだと改めて感じた瞬間でした。
ほかにも、組体操ならぬ「組ダンス」も開発しました。運動会で多くの学校が組体操を伝統的に行ってきましたが、危険が伴い、事故が多発し、最近ではその在り方が問われるように。行事から演目を外す学校も出てきていました。しかし、組体操の特徴は、大人数で1つの作品を作るところにあり、生徒のコミュニケーションを育む上で重要な役割も果たしていました。そこで、組体操に代わるものをとして考えたのが「組ダンス」です。2人組、5人組、7人組じゃないとできない振り付けを考え、体を使ってコミュニケーションをとりながらダンスを楽しむ内容を、プロのダンサーとして活躍している義井翔大さんと開発しました。この「組ダンス」は、実際に学校でも導入され始めています。
ダンスの教育的な価値を
言語化していく研究も。
新しい時代の先生像を
楽しく模索していく。
岡本さんは、『東京学芸大学こども未来研究所』の学術フェローという顔も持っています。ダンスの魅力や教育的な価値について経験では分かっているものの、そのことを言語化できずにいました。これを言語化できれば、もっと多くの先生たちに広げられるのではないか。そこで大学と連携し、研究活動を始めています。構築したダンス学習の理論をもとに、『振付稼業air:manの踊る教科書』(発行:東京書籍)にダンス教育アドバイザーとして協力したり、リズムダンス授業の進め方に悩む教師を描いたドラマ『放課後グル―ヴ』にダンス授業監修として関わったりと、研究の成果を広げたり深めたりする場が増えてきています。
それでも、まだどうやったらダンスで子どもたちを元気にできるのか、その十分な理論化はできていません。「ほんと難しいんですよね。でも、だからこそやる意味があるはずなんです。知識を持っていることからくる権威や怖さによって子どもたちを導く先生像が、グーグルに知識では勝てなくなった中、子どもたちに一番身近な大人として、かっこいい大人、ワクワクしている大人の姿を見せて、子どもたちと一緒に学ぶ存在になれたら」と語る岡本さん。新しい時代の先生像を模索している大人が、岡本さんをはじめ、その周りにはたくさんいらっしゃるなと感じました。
みなさんの周りにも、きっといらっしゃる学校の先生。そんな先生たちの素顔にぜひ触れてみてほしいです。それぞれの立場で、子どもたちのために日々奮闘している素敵な大人がきっといらっしゃるはず。そうした方をぜひ応援していただけたらうれしいです。
\校長は見た/
ダンスを通じて、生徒も先生も、
そして、保護者や地域も元気に!
板橋区立板橋第三中学校 武田幸雄校長
私と岡本先生は、昨年度一緒に本校に着任しました。その際、私が打ち出した「運動会では、危険な組体操に代わる新しい種目を」という方針に、真っ先に反応してくれたのが岡本先生でした。そして、ペアワークやグループワークといった組体操の特徴も残しつつ、安全でありながら生徒たちが達成感や成就感を味わえる「組ダンス」を導入し、保護者や地域の方からも高い評価を得ることができました。学校教育におけるダンス指導のあり方に、革新を起こした瞬間でした。岡本先生には、今後は主幹教諭や指導教諭として活躍してもらうだけでなく、いずれは管理職として学校運営を担ってもらいたいと期待しているところです。