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『自動車リサイクル促進センター』が、 自治体発「SDGs債」に懸ける未来。JARCと自治体で創る、持続可能な社会。

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SDGsを推進する自治体のトップランナーである福岡県北九州市。その市長である北橋健治さんに、『公益財団法人自動車リサイクル促進センター』(以下、JARC)業務執行理事(CFO)の大久保英明さんが、北九州市の「SDGs債」の在り方について話を伺いました。

目次

パートナーシップで、SDGsに 関する取り組みに貢献へ。

大久保英明さん(以下、大久保) 自動車リサイクルのさまざまな課題に対応するための機関として2000年に設立された『JARC』は、自動車購入時にユーザーからお預かりしたリサイクル料金を使用済み自動車になるまでの期間、適切に管理・運用しています。2018年からこの料金の一部を「SDGs債」(環境課題や社会的課題の解決に向けた事業への資金を調達する債券)により運用することを開始しました。JARCは、SDGsを推進する自治体のトップランナーである北九州市が発行したSDGs債に2年連続で投資し、今回、エンゲージメント(目的を持った対話)を実施する機会を得ました。資金の使途を確認するとともに、直接意見を交換することで多くの気づきを得たいと思っています。

北橋健治さん(以下、北橋) このような機会は、自治体の取り組みに対する認知度の向上だけでなく、SDGs債の発行に際して投資家の要望に応じて詳細を検討することにもつながりますので、本日はよろしくお願いします。北九州市は2021年10月に日本の自治体として初めて「サステナビリティボンド」(グリーンプロジェクト、ソーシャルプロジェクトの双方へ資金が充当される債券)を発行し、2022年9月にも2回目を発行しました。SDGs達成に向けた強い決意を内外に示す絶好の機会と捉えたため、このようにSDGs債の発行に挑戦しました。

大久保 北九州市のSDGsに関する取り組みの背景と、その方針を教えてください。

北橋
 本市のSDGsの取り組みの出発点は、1960年代に深刻な公害問題に直面した際の市民、企業、行政の一体となった取り組みでした。80年代には、世界における公害克服の成功モデルと言われました。この公害克服の過程で市民力、技術ノウハウの蓄積があり、国際的な環境の技術移転やリサイクル循環型社会づくりにこれらを生かす、”世界の環境首都”を目指そうと市民が力を合わせてさまざまな取り組みを推進してきた経緯があります。2018年にOECD(経済協力開発機構)から「SDGs推進に向けた世界のモデル都市」にアジア地域で初めて選定されるなど、国内外から評価を受けています。

大久保
 かつて北九州市が直面した公害問題と同様に、自動車業界でも環境に影響する大きな問題に向き合うことがありました。「豊島問題」といわれ、瀬戸内海にある香川県の豊島という島に使用済み自動車の破砕くずなどの産業廃棄物が大量に不法投棄された事件です。この事件をきっかけとして2005年1月に本格稼働した自動車リサイクル制度を、自動車ユーザーを始め、自動車業界による一体となった取り組みに支えられながら安定運用に取り組んでいます。この制度の特徴は、自動車ユーザーを始め、自動車リサイクルに関わる事業者の役割を明確にした点にあります。また、廃車から有用な部品や金属資源などを回収した後に残るシュレッダーダスト(プラスチックやゴムなど)といわれる破砕くずなどを適正に処理するために必要となる費用をリサイクル料金として自動車購入時に前払いしていただく点にあります。JARCは、このユーザーからお預かりしたリサイクル料金を持続可能な社会に役立てたいという思いから、債券による運用を開始することにしました。

[ JARCが自治体のSDGs債に期待すること ]

1.SDGs債を発行する自治体の増加

JARCが管理・運用するリサイクル料金の投資対象はグリーンボンドをはじめとしたSDGs債がふさわしいが、発行する自治体はまだ少ないのが現状。発行する自治体が増えれば、自動車ユーザーがJARCの資金運用を通じて持続可能な社会への実現にさらに貢献できる。

2.発行体と投資家のエンゲージメントの活性化

投資家と発行体が直接対話することで大きな気づきを得ることができ、エンゲージメントの推進がよい緊張感と互いが切磋琢磨する環境を生み出す。その結果、SDGs債マーケットの質が向上することにつながる。

実績:実際にJARCが投資を行った銘柄は、自治体・法人合わせて21銘柄。SDGs債の投資残高は211億円。(2022年10月末時点)

[ 自治体がSDGs債に期待すること ]

1.マーケットの拡大と多様な投資家の参入

新たな投資家が増えることで、自治体の認知度向上や、資金調達基盤の強化につながるため、自治体によるSDGs債の発行がさらに増加してSDGs債マーケットが活性化する。そのためにも、情報発信、レポーティング、独自性のある事業の創出が大事。
SDGs債を活用した事業例(写真:PIXTA)
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(左から)グリーンエネルギー事業。護岸整備事業。都市インフラ整備事業。

再生可能エネルギーの創出や、未来を担う人材の育成を強化。

大久保 今回発行されたサステナビリティボンドのグリーン(環境)面での資金使途に、OECDからも高い評価を受けている洋上風力発電事業があります。この概要や開始の理由についてお聞かせください。

北橋 1990年代になって日本でも資源循環に取り組む中、本市若松区に日本初のリサイクル拠点『北九州市エコタウンセンター』を創設し、自動車や家電製品の部品リサイクルなどに取り組んできました。将来は世界的に脱炭素の動きが加速するにつれて新しい産業投資が始まると予測し、さらにこの周辺に広大な産業用用地があって港湾インフラを生かせることから、日本が後れをとっていた洋上風力発電に着目し、12年前に取り組む決意をしました。

大久保 JARCが北九州市のサステナビリティボンドに投資したのは、再生可能エネルギーの活用による温室効果ガスの排出削減という環境改善効果に着目したからでした。「風力発電関連産業の総合拠点化」は、具体的にどう進んでいるのでしょうか。

北橋 本市のこれまでの段階的な取り組みにより、国内最大級の「洋上ウィンドファーム」の誘致が実現し、9.6MW(メガワット)の風車25基を設置する予定です。発電出力は最大22万kW(キロワット)で、約17万世帯分の年間消費電力をまかなうことができる規模になっています。23年度中には着工、25年度中の運転開始の見込みです。

大久保 もう間もなくですね。グリーン面での資金使途として、ほかに注力される使い道はありますか?

北橋 本州と九州を結ぶ関門海峡の橋やトンネルが老朽化しているので、豪雨災害時の備えも必要であることから、下関北九州道路の整備を進めています。また、門司港地域には老朽化が進む公共施設が点在しています。これらを門司港駅周辺に集約して複合化・多機能化を図り、環境負荷を低減させる計画もしています。

大久保 エンゲージメントをさらに推進するうえでも、これらの計画が今後事業化された際は、環境改善効果などについて説明を伺いたい思っています。次にソーシャル(社会)面での資金使途について、北九州市の魅力の一つに「子育てしやすいまち」が挙げられ、今回の資金も「子育て・教育環境の整備」に関するさまざまなプロジェクトに使われると思われます。子育てや教育についての市長のお考えをお聞かせください。

北橋 市民にはそれぞれの立場、年齢、世代によって異なる行政ニーズがありますが、次の世代となる青少年を大事に育てることは最も重要なことと多くの人が認識していると思います。本市の基本方針の一つに「人づくり」を掲げて、そのなかで「子育て、教育日本一」を実感できる環境づくりを行ってきました。具体的には、放課後児童クラブに希望すれば全員が入れるように施設を整備したり、中学校に学校給食や暖房を導入したり、また、特別支援学校の建物も老朽化していたので改築を行うなどしました。さまざまな対策をしていくなかで、子どもたちが「シビックプライド」を感じて成長していく環境になるよう、限られた財源でも精いっぱい努力することが大事だと思っています。

大久保 よく理解できました。今回のようなエンゲージメントは株式の世界では一般化していますが、債券の分野ではまだ進んでいるとは言えません。今回は先駆的な取り組みだったと感じています。

北橋 来年度以降も引き続き「SDGs未来都市」の取り組みの一環として、サステナビリティボンドの発行を継続する予定です。今後とも投資家との対話、情報発信に努めていきますので、よろしくお願いいたします。

自動車ユーザーからお預かりしたリサイクル料金を
自治体のSDGs債により運用することで、
持続可能な社会につなげていきたい。
 (166622)

大久保英明:おおくぼ・えいめい●1964年生まれ。公益財団法人自動車リサイクル促進センター業務執行理事(CFO)。安田火災(現損害保険ジャパン株式会社)入社後、神奈川自動車営業部長、執行役員関西第二本部長、常務執行役員九州本部長を経て21年7月から現職。
SDGs未来都市の取り組みの一環として
引き続きSDGs債を発行し、
投資家との対話や情報発信に努めていきます。
 (166625)

北橋健治:きたはし・けんじ●1953年生まれ。北九州市市長。東京大学法学部卒業。33歳で衆議院議員に初当選し6期を務める。2007年に同市長に就任、現在4期目に至る。
『自動車リサイクル促進センター』
 (166630)

自動車リサイクルおよび適正処理の促進に関する各種事業を行うことにより、資源の有効な利用の向上および環境の保全に貢献する公益法人。
photographs Hiroshi Takaoka   text Mari Kubota
記事は雑誌ソトコト2023年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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