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サスティナビリティ

特集 | SDGs入門〜海と食編〜

『UMITRON』が見据える、 水産養殖の未来。

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IoTやAI、衛星による遠隔解析をはじめとした最新技術を用い、持続可能な水産養殖を目指す『UMITRON』。日本とシンガポールに拠点を持つ新進気鋭のスタートアップ企業が挑む、養殖業の新しいカタチとは──。

「これは今、高知県の事業者さんの生け簀に設置した『UMITRON CELL』からの映像。あ、魚が見えますね。こっちのボタンを押せば、餌やりもできるんですよ!」

スマートフォンの画面を操作しながら、そう話してくれたのは『UMITRON』広報マネージャー・佐藤彰子さん。「UMITRON CELL」とは、IoT技術を活用した「遠隔自動餌やり機」のこと。ちなみに本取材は東京・港区のお台場にて。ネットに接続できる環境下で、スマートフォンやタブレットを持っていさえすれば、遠隔地からでも海上に設置された生け簀の様子を知ることができ、かつ餌やりも簡単にできてしまう。

「UMITRON CELL」がすごいのは、さらにAI機能を搭載し、魚群の行動解析までできてしまうこと。「魚の泳ぐ様子などをリアルタイム動画から解析、食欲判定をし、あまり食べないときには餌の量を調整したり、止めたりということも自動でできるんです。何十、何百という生け簀を持たれている生産者さんが、ずっとスマホで見守っているのは現実的ではありません。AIがアシストすることで、餌やりを自動化、最適化するというサービスなんです」。

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海洋データアプリ「UMITRON PULSE」。海面温度や海水の酸素量などをリアルタイムで閲覧できる。
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養殖用の生け簀に設置された遠隔自動餌やり機「UMITRON CELL」。太陽光発電により自立駆動する。
目次

水産養殖とテクノロジーの融合がはじまっている。

同社が提供するサービスはまだある。たとえば人工衛星から送られてくるデータを解析し、海面温度や海水の酸素量、クロロフィルαなど、リアルタイムで閲覧できる海洋データアプリ「UMITRON PULSE」。「魚は水温が高いと餌をよく食べる傾向にあるので餌の量の参考になりますし、クロロフィルαはプランクトン濃度を示していて、赤潮などのリスク検知に役立ちます」と佐藤さん。このほか、泳ぐ魚の体長、重量の平均値を数値化できる「UMITRON LENS」なども。「私も養殖現場に行ってびっくりしたのですが、生産者の方々は生け簀の中で泳いでいる魚を1尾ずつ取り出し、定規と量りの上に載せて計測をしているんです!1万尾の真鯛養殖だと100尾くらいを量り、平均値を出すという作業を1〜2か月に1度も。私も10キロほどあるブリ300尾の計測をお手伝いしたことがあるのですが、翌日ひどい筋肉痛になりました(苦笑)。こういったところも自動化し、成長記録を付けることができれば、餌やりの改善、経営の効率化にもつながると考えています」。
 
今後は「UMITRON CELL」をはじめとしたさまざまなサービスで得られたデータを統合し、水産養殖の完全な自動化を目指しているという。「究極的には稚魚を生け簀に入れてから出荷するまで、全部を自動化し、作業の効率化を図ることが目標です」と佐藤さんは話してくれた。
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養殖現場を視察する『UMITRON』メンバー。右は佐藤さん。中央は共同創設者であり、サービス開発を指揮する岡本拓磨さん。
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「UMITRON CELL」が設置された養殖の生け簀。
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南米・ペルーのサーモン養殖事業者が使用する「UMITRON CELL」。

水産養殖現場の課題解決のために。

なぜ『UMITRON』は水産養殖分野でもビジネスを始めたのだろう。代表取締役の藤原謙さんが仲間と『UMITRON』を創業したのは2016年。宇宙航空研究開発機構(JAXA)で天文衛星の開発を、総合商社の三井物産で農業ベンチャーの支援などをしてきた藤原さんにはある思いがあったという。「地球の7割を占める海をもっと活かせるんじゃないか」。将来、人類が直面する食料問題に対する危機感も持っていた。

「藤原は大分県出身で海も大好き。今後迎えると言われている食料不足、タンパク質不足などの課題解決の鍵を海に求めました。ちなみに開発の根底にある思想は藤原がJAXAで手がけていた人工衛星そのもの。海上という過酷な状況で自立駆動し、データを収集し、解析して遠隔地に送る。これってまさに人工衛星ですよね」と佐藤さんは教えてくれた。

2050年、世界の人口は100億人に到達するとも言われ、食料問題は深刻だ。その解の一つが水産養殖だった。国内でも水産養殖が盛んな愛媛県・愛南町で現場の課題をヒアリング。そこで養殖業界が抱える根本的な問題を知ることになる。かかるコストのうち、餌代が7〜8割を占め、そこから燃料代や人件費を引いたものが利益となるため、餌代をいかに効率化させるかが、持続可能な養殖業の経営に必要であること。さらに環境面でも改善すべき点が見えた。海に流れ出た餌は富栄養化につながり、赤潮の原因になったりもする。海が資本の産業として、きれいな海を守ることも大事。そして労働面。生産者の多くは365日、ほぼ休みなく働いていた。力仕事、また荒天時の作業もあるなど危険もつきまとう。作業の効率化をはじめ、働きやすい産業にすることも必須だった。

持続可能な水産養殖へのシフトを目指すこと、海の豊かさを守ること、食料問題に取り組むことなど、極めてSDGs的な視点が『UMITRON』の原点にはある。

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『UMITRON』のアイデアが生まれた愛媛県・愛南町の海。数多くの養殖用の生け簀が連なる美しく豊かな海だ。
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『UMITRON』メンバーのほとんどは技術者だ。写真手前、左から2番目が代表取締役の藤原謙さん。

温室効果ガスの排出量削減にも寄与するテクノロジー。

『UMITRON』は消費者にもアプローチしているのがおもしろい点だ。その一つが「うみとさち」。『UMITRON』のサービスを活用した養殖事業者が育てた魚を消費者に直接販売する取り組みだ。

「『UMITRON』の技術を導入している事業者さんが育てた魚を買い取らせていただき、それをスーパーやオンラインなどで直接消費者のみなさまに販売しています。これは持続可能な海や水産資源のことについて、もっと知ってもらいたいという思いから。水産資源は年々減少していますが、これは地球の温暖化や乱獲が大きな原因。でも、日本は四方を美しい海に囲まれていることもあって、なかなかそれに気づきにくいですし、安くておいしい天然魚がスーパーに行けば簡単に手に入ります。今は、それをありがたくいただいていますけど、このあと何年続くのか。自分たちの子どもの代まで残せるのかを考えたときに、やはり影響力の大きい消費者へ、直接お伝えしたい気持ちがありました」

SDGsへの関心が高まる中、今後は販路を増やし、手にとってもらえる環境を増やしていきたいと話す佐藤さん。「結果が出たばかりなのですが、養殖業における原材料の調達から販売・廃棄までの温室効果ガス排出量を計測したところ、『UMITRON CELL』を活用することで、約2割削減できることがわかりました。今後は地球環境に影響する数字や課題感も販売の中で共有しながら理解も深めていきたいですね」。

「持続可能な水産養殖を地球に実装する」をミッションに活動する『UMITRON』。世界が注目する新しい養殖は、これからさらに広がっていくに違いない。

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オンラインで「うみとさち」を注文。持続可能な海や水産養殖について伝えるカードなどが同封されていた。
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「うみとさち」の真鯛を使って実際に調理してみた。“普通”においしい。環境に配慮された水産物を消費者が選ぶことで、結果、地球環境の保全につながる取り組み。

持続可能な海洋養殖をサポートする、 『UMITRON』のテクノロジー。

「UMITRON LENS」

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ポータブルの撮影用カメラとスマートフォンアプリの操作によって、生け簀の中で泳ぐ魚のサイズを自動で測定。クラウドでのデータ管理を可能にした魚体測定システム。

「UMITRON CELL」

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生産者側は機器に餌を供給するだけで餌やりが可能に。水産養殖の盛んな四国、九州、近畿エリアを中心に数十の事業者が導入、海外でも展開している。

「UMITRON PULSE」

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海面水温をはじめ、塩分や波高、海流など、水産養殖に欠かせないデータを提供。過去2年分データにアクセスできることに加え、2日先の予測データも見られる。

「UMITRON FAI」

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魚の餌食いをリアルタイムで自動評価する世界初のアルゴリズムを用い、海上で魚群の食欲を判定できる機械学習システム。「UMITRON CELL」にも搭載されている。
photographs & text by Yuki Inui

記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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