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サスティナビリティ

特集 | 続・ウェルビーイング入門

東原和成さんが選ぶ「香り╳ウェルビーイングを感じるアイデア本5冊」

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匂いや嗅覚について分子、受容体、脳や行動など多角的な側面から独創的な手法で研究を行い、嗅覚生物学の分野で大きな貢献をし続けている東原和成さん。「そうだったのか!」という新たな発見に満ちた、香りとウェルビーイングをつなぐ本をご紹介。

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(左から)1. プロカウンセラーが教える 香りで気分を切り替える技術 ─香りマインドフルネス / 2. 香君(上・下巻)
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(左から)3. 香料の科学 / 4. 和食とワイン / 5. においの歴史 ─嗅覚と社会的想像力
私が「香り」という言葉を使うのはポジティブに感じる匂いのときで、臭い匂いの場合は「悪臭」と表現しています。「匂い」は、芳しい香りと悪臭の両方が含まれる一番中立的な言葉になります。とはいえ、いい香りも悪臭も人それぞれの経験や、記憶によって変化し、明確に区別できるものではありません。

地球上の生き物のなかで、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感をバランスよく使っているのは人間だけです。ネズミやイヌなら嗅覚、イルカなら聴覚といったように、ほかの動物は五感のうちのどれかを優位に使っています。それは生きていくために必要だからです。そう考えると人間にとって、五感のすべてを使って生きることがいかに重要であるかわかるでしょう。ところが、嗅覚は比較的なくてもいい感覚だと思われがちで、「匂いを感じる」ことよりも「匂いを消す」ことに興味・関心が向いていたところがあります。今回は香りや嗅覚の大切さに改めて気づくことで、ウェルビーイングにつながるような本を選びました。

『香君』は、植物や昆虫が行う「匂いのコミュニケーション」を感じ取る特殊な嗅覚を持つアイシャという女の子が、天災によって窮地に陥った国をその力で救うサイエンス・フィクションです。ポイントは、この「匂いのコミュニケーション」が物語の中だけではなく、実際にすべての動植物が行っているものだということ。さまざまな生命が、匂いでお互いの情報をやり取りしながら、周りの環境を敏感に察知し、どこでどう生きるべきかを決めているのです。植物には鼻がなく、匂いを感じていないと思うかもしれませんが、私たちの研究でも確かに感じているというエビデンスを得ています。また、これは私たち人間も意識的、無意識的にかかわらず日々行っていることでもあります。アイシャは、ほかの人間にはわからない「匂いの世界」を持っていますが、私たちにも好きな香りや嫌いな匂いがつくる、それぞれの「匂いの世界」があるのです。

身近にある香りを使ったマインドフルネスの方法や、自分が求めている適切な香りの探し方などを教えてくれるのが『プロカウンセラーが教える香りで気分を切り替える技術』です。この本はアロマオイルの効能を紹介するのではなく、その人にとって気持ちのいい香りを使うべきだという視点で書かれているのが特徴で、生活の中に取り入れやすいと思います。香りや嗅覚の奥深さを知ってもらえたらうれしいです。

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とうはら・かずしげ●1989年東京大学農学部農芸化学科卒業後、アメリカへ留学し、化学分野で博士課程を修了、デューク大学医学部博士研究員を経て95年帰国。東京大学大学院新領域創成科学研究科先端生命科学専攻助教授などを経て、現職。
photographs by Yuichi Maruya text by Ikumi Tsubone

記事は雑誌ソトコト2022年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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