島国に暮らす私たちが大切にしたい“食”と“ものがたり”を通して、海を身近にするウェブメディア「海のレシピプロジェクト」。三菱地所株式会社が主催する「HAKKO MARUNOUCHI 2022 Spring」期間中の2022年5月12日、その世界観を五感で味わえる一夜限りのスペシャルテーブル『HAKKO RESTAURANT 海辺の風土が育む料理とものがたり』が開催されました。
当日のメニューは、大分県の食材に触れる里山里海ショートコース。「海のレシピプロジェクト」が各地の海をレシピやアート、インタビューといった切り口で多面的に紹介しているように、『HAKKO RESTAURANT 海辺の風土が育む料理とものがたり』でも、料理とともにミニライブやトークセッションも行われ、会場の皆で海辺の風土に育まれた食と、海が織りなすものがたりに想いを馳せました。
目次
美味でも地元でしか食べられない魚に注目
料理を手掛けたのは大分県出身で八雲茶寮総料理⻑やFOOD NIPPON 代表を務める梅原陣之輔さん。おいしいけれど小ぶりなために流通に乗せづらく、地元でしか食べられないメブト(テンジクダイ)の南蛮漬けや佐伯ぶりの糀納豆添え、郷土料理としても有名なごまだしうどんなど、大分の海の恵みを堪能できる品々が振る舞われました。
小さな一歩でも踏み出すことが大切
大分県佐伯市の海を中心に、「海が教えてくれること」をテーマに繰り広げられたトークセッション。料理家の梅原さんの他に、1689年創業の糀屋本店を9代目として営みながら、麹文化の普及に国内外を問わず意欲的に活動されている浅利妙峰さんと「海のレシピプロジェクト」のディレクターである青木佑子さんが登壇しました。
沿岸漁業では九州屈指の漁獲量を誇り、四季を通して豊富な魚種が集まることで知られる佐伯の海。浅利妙峰さんはその海辺で 333 年間受け継がれてきた米糀の専門店を営んでいます。
浅利さんによると、佐伯には包丁では捌けない小さな魚も手開きにしてさまざまに利用してきた食文化があるとのことで、「与えられた命を無駄にせず、自分たちが余すことなくいただくことで命を輝かせてもらっている」と考えてきたと言います。
深刻化する海洋ごみの問題などについては同じ島国であるニュージーランドを訪れた際にその危機意識の高さに驚いたそうで、私たち日本人も自分にできることからすぐにでもアクションを起こすことが大切なのではと語りました。
海を守るには豊かな森林の維持も不可欠
大分県でも山間部にある日田市に育った梅原さん。今回のメニューに海産物だけでなく「原木しいたけを取り入れたのは、山の役割も思い出してほしかったから」とのこと。
小学校の頃に絵本などで習ったように、森林の腐葉土に含まれる養分は川を下り、海の植物プランクトンを育てます。大分県ではすでに江戸時代からそうした森の機能に気づき、豊かな海を守るために山林伐採を規制してきた歴史があります。
待ったなしの環境問題に立ち向かうには、「正しく知り、正しく選択することが欠かせない。シェフ仲間を集め、閉店後の時間帯を活用して定期的に勉強会を開いている」と言う梅原さん。ただ容易に解決する課題ではないからこそ、「楽しみながら知る」ことも重要だと考えているそうです。
体験型のメディアで海を身近に
昨年の9月から日本財団「海と日本PROJECT」の一環としてスタートしたウェブメディア「海のレシピプロジェクト」の編集長として、「あらためて海について学び始めたばかり」と言う青木さん。取材で訪れた大分県は山と海が近く、驚くほど多様な食文化が息づいていることが興味深かったとのこと。
今後も読者の感性に響くようなコンテンツづくりを心掛け、身近に海を思う人を増やしながら海の現状を伝えていくことで、皆さんの行動変容を促していきたいそうです。
海の唄のミニライブも開催
トークセッションの後には、Little Creaturesというバンドでデビュー以来、ソロなども含めて国内外のレーベルから数々の作品をリリースする音楽家の⻘柳拓次さんによるミニライブも開かれました。
日本をはじめ世界各地の民謡や民族の声を収集する活動も行っている⻘柳さん、「海のレシピプロジェクト」の企画では長崎県五島市の民謡「五島ハイヤ節」も取材しています。当日は海にまつわる唄、「波」と「銀の月の下で」を聴かせていただきました。
『HAKKO RESTAURANT 海辺の風土が育む料理とものがたり』のプログラム最後は、海にまつわる思い出を登壇者と参加者で出し合いました。皆の中にある楽しくきれいな海を共有することで、東京・丸の内の会場にいながら豊かな海を身近に、そして守りたいと強く感じさせる一夜となりました。
▼「海のレシピプロジェクト」
https://uminorecipe.jp/
文/時津 木春
写真/Mizuho Takamura