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サスティナビリティ

引越れんらく帳を起点とした川口市の自治体DX。市民の利便性向上と行政の運営効率化を両立できた秘密とは?

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政府が「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」を決定し、目指すべきデジタル社会のビジョンが示されました。そのビジョンの実現を担うのが身近な住民サービスを提供している自治体です。そこで今回、多くの人がわずらわしさを感じている引越手続きをデジタル化した埼玉県川口市上下水道局管理部料金課を取材。引越れんらく帳※を選択した理由や導入のメリット、自治体DXへの考え方について、川口市上下水道局管理部料金課 係長 松井孝之さん、主任 秋谷恵理さんにお話を聞きました。

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※引越れんらく帳は、TEPCO i-フロンティアズ株式会社が、東京電力エナジーパートナー株式会社から委託を受け、運営している引越し手続きのワンストップサービスです。

目次

自治体DXにより、引越しの煩雑な手続きをスマートに

川口市上下水道局管理部料金課 係長 松井孝之さん

川口市上下水道局管理部料金課 係長 松井孝之さん

ソトコトNEWS 引越手続きのデジタル化を進めた背景や導入に至った経緯について教えてください。

松井孝之係長(以下、松井) 川口市上下水道局では昨年度、官民連携やDXにより経営改革を図る、上下水道事業管理者直属のプロジェクトチームが発足しました。そこでまず考えたのは、手続きをオンライン化、デジタル化し、利用する市民の方へのサービス向上を図ることです。

そして、課題としてあがった水道の契約手続きの窓口やオペレーター業務の負担軽減も同時に解決したいと考え、外部のプラットフォームを利用することを検討しました。

自前でシステム構築をすることは財政面でも時間の面でも現実的ではありませんでした。その点、TEPCO i-フロンティアズさんのプラットフォームを利用すれば、サービスを使った分だけ料金を支払えばよく、簡易的に導入できるのでサービス向上と業務改善を両立させるには最善だと判断しました。

ご存知の通り、行政では今、システムの自前調達方式からSaaS(Software as a Service)によりデジタル化を進めることが主流になりつつあります。そういう意味では他の部局や上層部への説明の際にも好意的に受け止めてもらえました。

ソトコトNEWS 引越は手続き先が多く、大変だと思っている人が多いですね。

秋谷恵理主任(以下、秋谷) 引越れんらく帳を導入したことで、官民に分かれている電気・ガスと水道の手続きをオンライン上で、一括でできるようになったので、市民の方の利便性を向上できたと考えています。

川口市の人口は約60万人で比較的若い方や外国人の方が多くいらっしゃいます。そういった方々から行政手続きをオンラインでできるようにしてほしいというご要望はいただいていました。今回の引越れんらく帳の導入で、そういった声を行政の施策に反映できたと考えています。実際に引越れんらく帳も含めた電子申請の利用者数は前年同月比で1.5倍になっています。

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近隣都市への導入が進み、互換性に優れている「引越れんらく帳」

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ソトコトNEWS 引越手続きのワンストップサービスとして引越れんらく帳を選んだ理由を教えてください。

松井 近接している東京都とさいたま市も導入しているため、互換性があり、年間6万人近い転入・転出者ともに利用しやすいからです。また、実証実験を含めていくつかの事業者さんが引越ワンストップサービスを実施されていると思いますが、引越れんらく帳の全国的なシェアが圧倒的なため、利便性が高いと考えました。埼玉県内ではまだ3市だけの導入にとどまっているため、どんどん広がってほしいと思っています。

また、TEPCO i-フロンティアズさんが構想段階から導入に向けて丁寧に相談に乗ってくれたことも選んだ理由の一つです。UIやAPIの設計、構築を細やかにやってくださったので、利用者の方々にとって使いやすいサービスを提供できたと考えています。柔軟に対応いただけてなかったら、私どもの方でシステム改修の業務や費用が発生してしまいます。その部分は非常に感謝しています。

上下水道の手続きから見える自治体DXの課題

ソトコトNEWS 自治体が民間のサービスと連携してDXを進めるときに苦労するのはどのような点でしょうか。

松井 自治体がDXを進める際にデジタル化ありきで表面的な施策を進めてしまうと、かえって不便になってしまう例も散見されるように感じています。

官民連携でDXを進めていくときにはいくつか注意点があると考えています。まず必要なのは行政の課題を深掘りすることです。そして、現状分析をした上で、解決手段の一つとして官民連携やDXをどうやって活かすかという最初の設計の部分が大事です。

私たちはスマートフォンやパソコンを使い慣れていない方、電子申請をあまりやったことのない方でも、迷わずに最後までいけるユーザーインターフェースを作りたいと考えていました。TEPCO i-フロンティアズさんにはその辺りから丁寧に相談に乗っていただけたので、結果的に申請フォームなどをわかりやすく作れたと考えています。

実際に4月1日に稼働してから10日ほどで数十人のご利用がありましたが、今のところ、利用の仕方がわからないというお声は一度もいただいていません。今後は広報にも力を入れて、より多くの方にご利用いただけるDXを実現していきたいと考えています。

ソトコトNEWS 今回のプロジェクトで大変だったことは何でしょうか?何に時間をかけましたか?

松井 事前の打ち合わせは時間をかけて丁寧に行いました。私どもの場合、受付業務の窓口等は基本的に委託しています。そのため、TEPCO i-フロンティアズさんと委託事業者さんも含めた三者の打ち合わせや調整に時間を使いました。TEPCO i-フロンティアズさんが丁寧に、そして柔軟に相談にのってくださったので、時間をかけた甲斐があったと認識しています。

また、私たちがいただくデータも指定した様式になるように対応くださったので、導入にあたって大きなシステム改修は必要ありませんでした。そういう意味では、他の自治体さんも簡易的に導入できるのではないかと思います。

年間1500件発生する引越しの手続き漏れ確認。DXで市民も行政も負担を減らしたい

川口市上下水道局管理部料金課 主任 秋谷恵理さん

川口市上下水道局管理部料金課 主任 秋谷恵理さん

ソトコトNEWS 今回のプロジェクトによって実現した行政運営の効率化についても教えてください。

秋谷 従来の電子申請と併せ、引越れんらく帳を利用する方が増えれば、窓口業務の負担軽減やペーパーレス化促進ができると考えています。また、転出時の水道の手続き漏れを減らせるのではないかと期待しています。

松井 今回の事業はまだ始まったばかりなので、4月から人員の配置が変わるところまでは進んでいません。ただ、電子申請の利用が増えている分、窓口業務が減っているのは事実です。そのため、我々が真に対応しなくてはならない、市民のみなさまへの対応など、判断が伴うような仕事に意識を向けていく、リソースを振り分けていけると考えています。

また、行政運営を効率化するために、手続き漏れの防止は非常に大きい課題です。ここは、私たちも強く期待しています。川口市から市外に転出される方で、水道契約を中止する手続きをしないままのケースが年間で約1500件あります。当然、そのまま使い続けていることになるので、止めるまで水道料金が余計に1期分、2期分とかかってしまいます。

行政として債権管理はシビアに行わなければならず、債権管理を適正に行う使命があります。そのため、年間約1500件の手続き漏れ、それに伴う未収債権の請求に多大な労力がかかっているのが現実です。

現場では、職員が賃貸契約の終了を確認して請求を取り消すこともありますし、転出先の住所にお手紙を送ったり、お電話をすることもあります。1件ずつ調査をし、連絡を取るという地道な作業を多く行っているのが実態です。オンライン化による手続き漏れの防止によって、このような作業を減らせると期待しています。

「スマホ一つであらゆる手続き」が理想。今後も行政DXを推進したい

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「アクアプラン川口21」より抜粋
https://www.water-kawaguchi.jp/suido/1001627/1001628/1001981.html

ソトコトNEWS 上下水道局でも積極的に取り組んでいるSDGsについて教えてください。

松井 川口市の水道事業の基本理念と将来目標を示した中長期経営計画「アクアプラン川口21」の中に今回、初めてSDGsに関連する項目を入れました。上下水道局の各事業がSDGsのどの項目に該当するかを意識しながら仕事を進めています。

たとえば、引越れんらく帳の導入によって、ペーパーレス化が図れるので資源の有効利用と環境負荷の軽減が実現できます。これはSDGsの7項目「エネルギーをみんなに そしてクリーン」に該当します。また、業務の効率化や働き方改革に取り組むことで職員の生産性向上を図れます。

そもそもなぜ行政運営を効率化するのかといえば、水道事業を持続可能な状態で続けていくためです。24時間365日、安全な水を市民のみなさまにお届けする使命を水道事業はおっていますので、引越れんらく帳の導入をきっかけにしてSDGsも意識しながら取り組んでいきたいと考えています。

ソトコトNEWS 行政運営を効率化することによって、どのようなことが将来期待できますか?

松井 手続き漏れや窓口・電話応対の負担が減れば、人的リソースを違うところに割くことができるようになります。

料金課の仕事でいうと、川口市上下水道局は水道料金と下水道使用料合わせて年間約200億円程度の徴収業務があります。水道も下水道も独立採算制の事業なので、そのお金がインフラ整備の原資にもなります。もし、足りなくなれば古くなった水道管の交換や耐震化が遅れてしまいます。

そうならないように運営効率を高め、本来業務に集中することで上下水道事業を持続可能なものにしていきます。それが最終的には市民のみなさまに快適なサービスとして還元できる方法だと考えています。

ソトコトNEWS 電子申請が1.5倍になったというお話がありました。水道の引越手続きが入口になって、自治体DXが加速しそうなイメージがわきます。

松井 そうなってくれたらいいですね。市役所内でも引越れんらく帳の導入がよい先行事例になると期待してもらっているところです。

最近は、他の自治体の方から今回の取り組みについて問合せをいただくことも増えてきました。そこでみなさんが気にされているのは、事前の準備、特にシステム改修など費用面についてです。どの自治体も独自に水道関連のシステムを持っているので、自分たちのところで同じことができるのかどうかを気にしていることが多いように感じています。導入してみて、そのような部分は事業者さんに柔軟に対応していただくことができたので、他の自治体の方々にも積極的に情報提供していきたいと思っています。

ソトコトNEWS 最後に将来の展望について教えてください。

松井 水道の関係で先進的な取り組みをしている自治体さんには、利用の中止や開始の手続き、支払い方法の変更手続きを独自に開発したアプリケーションを使って行っているところもあります。将来的には、スマートフォン一つであらゆる手続きができるようになることが最終的な理想だと考えています。今回の引越れんらく帳の導入をきっかけに、さらに自治体DXを推進し、市民のみなさまの利便性と行政の効率化を図っていきたいと思います。

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