台湾人と一緒に「微住」して食堂オープン!?
2年間もの間「アジア微住」をすることができなかった僕自身、なんだか久しぶりにスーツケースを引き、熊谷駅でメンバーと落ち合う。受け入れホストは埼玉県熊谷市生まれ、地元のキーマンである『PUBLIC DINER』の加賀崎勝弘さん。熊谷市は農業を中心に暮らしの生活資源が豊かで、近年では加賀崎さんを中心に主催した「熊谷圏オーガニックフ ェス」が開催されるなど、食やオーガニックへの関心が強いまちだ。
微住者が地域の“立場”をズラす、混ぜる。
本州一の小麦の生産量を誇る熊谷。とある日はうどんづくり体験をして、つくったうどんの半分は自分たちで食べ、もう半分は顔見知りになった喫茶店へ。持ち込んだうどんを使ってお店の看板商品のナポリタンを特別につくってもらい、店主や店内にいたお客さんに食べてもらった。また別の日は熊谷で長く続く伝統菓子の「五家宝」づくりの体験をし、できたお菓子を地元のみなさんに差し入れする。地元の食を楽しみながら、お互いがおもてなしをし合う「タメづくり」をしていくことで、地元の人たちとの距離が近くなっていく。
普段の暮らしや旅では「旅行者側と地元側」や「客と店」というように一方通行の関係だけど、その向きをちょっと変えたり、双方向にすること、立場を混ぜ合わせることで、普段は見えない地域の景色や味わいを楽しめる。「熊谷微住」最終日は加賀崎さんの運営する『加賀家食堂』にて、微住中に出合った食材や知識を使い、そして微住者たちの台湾人目線の味付けや調理法で「台湾定食」を販売。滞在中にお世話になったみなさんたちにも来ていただき、予想以上の盛況で完売。地域のリアルな仕事の現場で微住者も参加し、交わり合う光景……、以前行った「台南微住」の際、夜市のステーキ屋で感じた楽しさが蘇ってくる。
帰りの車窓からの風景は、行きとはまったく違う馴染みのまちへ。
熊谷、ここに“ゆるさと”あり。
あの素晴らしい微住をもう一度~♪
「微住」とはいったい何なのか。「ゆるさと」「タメづくり」「一期三会」というキーワード。僕自身も日々考えているが、いまだにぼんやりと、わかりづらい“微な状態”のままだ。ただ間違いなく「微住」とは単なる旅の方法ではなく、旅やそれを含む自分の暮らしに対する向き合い方だと思っている。その中で大事にしたいのが「“エラー”を楽しむ“心の余白”」だ。
決められた立ち位置が微妙にズレる、混ざっていくことでエラーが起きる。そんなエラーをネガティブに捉えない“負荷価値”が我々が人間らしく暮らしを楽しむこれからの豊かさの鍵だ。旅も暮らしもエラ ーがあるからドラマが生まれる。そのエラーはパッケージできない。正解はないから、僕らは旅に出る。だから、「微住」はやめられない。
【田中オフィシャルサイト】http://tanaka-asia.com
記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。