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コーヒーが繋ぐホンジュラスと日本。コロナ禍で、人が人を思う気持ちの温かさと強さを知る。

宮武由佳

宮武由佳

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愛媛県大洲市の川のほとりにあるカトラッチャ珈琲焙煎所を営む今井英里さん。中南米・ホンジュラスの生産者と直接取引をするダイレクトトレードにこだわってコーヒー販売を行なっています。コロナ禍、今井さんのもとにホンジュラスの生産者たちからSOSが届きました。収入が減少し、金銭的に苦しい、このままでは農園を維持できなくなってしまうというのです。2020年6月、クラウドファンディングで支援を募った結果、見事に目標金額を集めることができました。プロジェクトからおよそ1年半が経ち、どのような変化があったのでしょうか。お話を伺いました。

今井 英里さん:カトラッチャ珈琲焙煎所代表。大学を卒業後青年海外協力隊として中米ホンジュラスへ。2年間算数の指導にあたる。経済的な理由で苦しむ子どもの存在を目の当たりにし、ビジネスの方面からホンジュラスに関わることを決意。帰国後、ホンジュラスへコーヒー修行に渡り、ダイレクトトレードでコーヒー豆を輸入、焙煎、販売している。

▼クラウドファンディング
続・あなたと紡ぐコーヒー物語『ホンジュラスからの一通のSOS』
https://readyfor.jp/projects/catrachacb2020

目次

クラウドファンディングで生まれた、生産者の気持ちの変化

合計で180万円ほどの支援金が集まったクラウドファンディング。どのような用途に使われたのでしょうか。

今井さん「コーヒーを飲んでいただく方に、より一層おいしいスペシャリティコーヒーを届けるため、設備投資や生産者の研修費として活用しました。設備投資では、『アフリカンベッド』という、コーヒーの実を乾燥させる資材を6つ、水分測定器を2箇所に設置できました。

アフリカンベッドを導入した二つの農園から輸入した豆が11月に届いたのですが、かなり品質が向上したことを感じています」

アフリカンベッド

アフリカンベッド

アフリカンベッド
今井さんは、生産者に直接お金を送る支援にはしなかった理由を語ります。

今井さん「お金の支援だと、一時的に生活水準が向上するかもしれません。しかし、おいしい豆を届けられるようになれば、収入が増加し、長期的かつ持続的に生活水準の向上に繋がります。

それに、クラウドファンディングで応援してくれた人が、その成果を感じられる形にしたいとも思ったんですよね。だから、おいしいコーヒーを届けられるようになる支援の方法を考えました」

クラウドファンディングで多くの人から支援をもらったことで、現地の生産者には心の変化があったようです。

今井さん「生産者が作った豆は、選定され海を渡って、焙煎士が焙煎し、バリスタが淹れて、一杯のコーヒーになってやっと消費者に届きます。だからこれまで生産者は、豆を作って終わりだったんです。どんな場所で、どんな人が飲んでいるのか、知らなかったんですよね。

それが、クラウドファンディングで162人の方からご支援をいただきました。温かいメッセージをくださった方もいます。自分たちの豆で作ったコーヒーを飲む消費者の顔が見えるようになり、『もっとおいしい豆を作りたい』というモチベーションアップに繋がりました」

コーヒーは、需要や市場価格の変動によって不当に安価な価格で買い叩かれる状況にありました。それが品質低下を招き、コーヒーの味は低下し続けていたのです。いくら高品質な豆を作っても、評価されない現状。そんな中、クラウドファンディングをきっかけに、生産者は「もっとおいしくしたい」「信頼してもらいたい」「喜んでもらいたい」といった前向きな言葉を口にするようになりました。

今井さん「さらに生産者のグループの代表であるナンシーさんは、自分で選果場を作り、目の行き届く範囲で、豆の選定作業をできるようにしました。10人の女性で作業を行なっています。

ナンシーさんは豆の評価に対して『悔しい』と言っていたんです。もっとおいしい豆を届けたい、という生産者たちの向上心や探究心がすごくて、本当に驚いています」

豆の選果場の様子

豆の選果場の様子

豆の選果場の様子

コロナ禍で感じた、人が人を思う気持ち

今井さんが焙煎所を開店してから1年ほどが経ったとき、ナンシーさんから手紙が届いたのが、今回のクラウドファンディングが始まったきっかけでした。

「これから雨季に入るから、農園に栄養を与える必要がある。収入がないため堆肥をまくことができず困っている。町の食べ物も尽きてきてしまい、目の前に飢える子どもたちがいる。今年のコーヒー豆をいつ輸出できるかわからない中でお願いするのは申し訳ないのだけどコーヒー豆代を前払いしてほしい」というもの。

今井さんはすぐに立ち上がり、思いに共感した福岡の本格焼酎の蔵元・天盃と一緒に、コーヒーと麦焼酎をコラボしたお酒を開発し、クラウドファンディングを実施しました。

今井さん「クラウドファンディングを通じて、人が人を思う気持ちの温かさを感じました。こんなに多くの日本人が、遠い国のホンジュラスの生産者のことを思ってくれるなんて、と驚きましたね。

クラウドファンディングのページは私にとって宝物です。支援者からのたくさんのコメントが詰まっています」

コロナ禍で、会いたい人に会えない、人との繋がりを感じられない、そういった状況にあった私たち。しかし今井さんは、こんなときだからこそ、人との繋がりの強さを感じたと言います。

今井さん「ご支援いただいた皆さんは、ご自身も大変な状況に置かれているにも関わらず『何かしたい』と言ってくれていたんです。そして『あとはお願いね』と思いを託してくれました。

返礼品として、天盃さんとのコラボでコーヒーリキュール『コーヒースペシャリテ』を開発しました。お酒に興味のある人が支援してくれるなど、コーヒー屋だけではこれまで出会えなかった人にも知ってもらえた気がしています」

「人が人を思う気持ち」は、クラウドファンディングをきっかけにどんどん広がっていきました。

今井さん「日本のテレビ番組に取材していただき、そのあと海外にも放映されました。テレビをきっかけに、ヨーロッパやオーストラリアから『コーヒースペシャリテ』を飲んでみたい、という声をいただいています。ほかにも、タイのロースターさんから応援してもらっています。

これまで買い叩かれていたコーヒーで、人と人とが繋がる豊かな世界を感じることができました。これからもっと多くの人に知ってもらえて、もっとおいしいコーヒーを届けられるようになることにわくわくしています」

今井さんは、これからもダイレクトトレードにこだわって、ホンジュラスからの最高級の豆を輸入していきたいと語ります。

今井さん「ダイレクトトレードでは、生産者に直接お金を渡すことができ、生産者からストレートに商品と情報を受け取ることができます。商品価値が高まれば高まるほど、生産者に価値を還元できるんですよね。

先日、これまで1kgあたり8.5ドルだった豆を、9ドルで輸入できました。輸入量が増えたことで輸送コストを浮かすことができたんです。浮いた分は生産者に還元しました。生産者も『僕もできることをする』と言ってくれています。価値をきちんと還元することで、生産者のモチベーションアップに繋がると感じています。

生産者のモチベーションアップは、コーヒー豆の品質向上に繋がり、価値が上がればまた還元をする。そして私たちもおいしいコーヒーを飲むことができる。ダイレクトトレードは持続的な取引の形だと思っています」

コーヒースペシャリテ

コーヒースペシャリテ

コーヒースペシャリテ

コーヒーが生む、人との豊かな繋がり

最後に、今後挑戦したいことを聞きました。

今井さん「私はこれまで、人との繋がりの中で仕事をしてきました。なので、これからも周りの人と協力しながら何かにチャレンジしていくことは変わりません。

一つは、ホンジュラスと日本とがもっと近くなってほしいです。例えば、日本の焙煎士さんがホンジュラスの農園に行ってコーヒーの実を摘んだり、ナンシーさんがカトラッチャ珈琲焙煎所に来て焙煎したりして、『仕事の意義』を感じることができればおもしろいですよね。コーヒーによって、さらに人との豊かな繋がりを生んでいきたいです」

人との繋がりやご縁を大切にしてきた今井さんから、コーヒーに込める思いを伺うことができました。一杯のコーヒーを飲むとき、人と人との笑顔の繋がりを思い浮かべてみたいと思います。

カトラッチャ珈琲焙煎所
HP:https://catracha-cb.shop-pro.jp/
Facebook:https://www.facebook.com/catracha.cb/

【取材・文:宮武由佳】

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