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特集 | 道の駅入門

『道の駅萩しーまーと』の「地産地消」力 !

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2001年のオープン以来、全国的な人気を誇る『道の駅萩しーまーと』。当初、掲げたテーマ「地産地消」の変化にも対応しながら、民設民営の道の駅として、商売としても成功を!

目次

目利きが選んで競り落とす。とにかく魚が新鮮です!

 漁港から台車に載せて30秒! 萩漁港に揚がった魚は、漁港内にある『山口県漁協萩地方卸売市場』で競り落とされ、隣接する『道の駅萩しーまーと』へ。駅長の山口泉さんいわく、「台車に載せて30秒」で運ばれる。どうりで新鮮なわけだ。「魚屋は4軒。各店の目利きが選んだ魚ですから、おすすめの理由も聞けるはず。昔ながらの公設市場型の道の駅で対面販売を大切にしていますから、店主の蘊蓄を聞いたり、調理方法を教わったり、会話を楽しみながら買い物ができるのもここのおもしろさです」と山口さん。「漁港と直結しているので、無駄な流通コストもかかりません」とも。

 新鮮でおいしい萩の魚を目掛けて萩市民はもちろん、市外・県外からも多くのお客が訪れる『道の駅萩しーまーと』。誕生したのは、2001年4月のことだ。

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「江戸時代の地図がそのまま使えるまち」とも言われる萩。武家屋敷や商家など風情ある町並みが残る。

「地産地消」を掲げた、民設民営の道の駅。

 かつて萩市内には14の漁港があり、8つの市場で競りが行われていた。しかし、生産者の高齢化と後継者不足を背景に、14の漁業協同組合が合併して設立した『山口はぎ漁業協同組合』(現・山口県漁業協同組合はぎ統括支店)による市場の統合が進められた。新しく整備された萩漁港から水揚げされた魚を卸す市場では、魚の品揃えがいっそう豊かになり、多くの仲買人も集まり、適正な価格で取引されるようになった。その魚の安定した販路を築くために、市場の隣に誕生したのが『道の駅萩しーまーと』だ。

 当初は萩市が設立し、民間に運営を委託する第3セクター方式で計画されたが、全国的に成功例が少ないために方針を転換。民設民営の道の駅を設けることになった。

 そこで、萩市は運営責任者を全国から公募。市が始まって以来のことで、約100人もの応募があったなか、大手情報出版社に勤めていた中澤さかなさんが選ばれた。さらに、萩市内の事業者に出店を募ると、13社の事業者が手を挙げ、出資。『ふるさと萩食品協同組合』を設立し、建物を建て、営業を開始したのだ。

『道の駅萩しーまーと』は当時、注目され始めていた「地産地消」をキーワードに、萩市民の台所となる萩産の食材を販売する道の駅を目指した。さらに、萩は歴史だけでなく漁業のまちでもあることを全国的にアピールしようと、萩の魚のブランド化に着手。「萩の真ふぐ」を始め、「萩のあまだい」「萩の瀬つきあじ」「萩のケンサキイカ」「萩の金太郎」など萩の海の幸の新たな価値を掘り起こし、知名度を上げていった。

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萩のあまだい。萩市は高級魚であるあまだいの漁獲量が全国トップシェア。漁場が近く、鮮度の高いあまだいが水揚げされ、首都圏や関西などの市場にも流通し、高い評価を得ている。萩では刺身、鱗焼き、から揚げ、煮つけ、潮汁など家庭の食卓にも並ぶ。
 ブランド化するには世の中へのPRも肝心だ。広く情報発信をするために、メディアを活用する手法を駆使。テレビ局や新聞社、雑誌社に取材をもちかけ、『道の駅萩しーまーと』の取り組みやブランド魚を、広告費用をかけずに全国発信することに成功した。

 ブランド化に成功したことで低迷していた魚価は上がり、『道の駅萩しーまーと』の売り上げも伸びた。年間約8億円から約10億円の売り上げを維持する道の駅は全国でも指折りの優秀な道の駅に挙げられるだろう。利用者数も年間約110万人から約140万人と人気は衰えない。今や『道の駅萩しーまーと』は、生産者にも、市民にも、観光客にもなくてはならない存在なのだ。ただ、全国的に有名になったことで、2011年は萩市内が5割強、市外・県外が5割弱だった利用者の居住エリアが、18年には萩市内が3割強、市外・県外が7割弱と、地元よりも遠方の利用者の割合が増えた。

「地産地消」を掲げてスタートし、「地産」は変わることなく萩の魚や農産物を積極的に販売しているが、一方で「地消」の層は確実に変わってきた。地元市民よりも観光客が萩の魚や農産物を消費する割合が高くなっているのだ。

 そんな変化が進むなかで、初代の駅長から新たな駅長に引き継ぎが行われることになった。それが、山口さんだった。

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山口県の港湾整備事業の一環でつくられた『道の駅萩しーまーと』。徒歩30秒で萩漁港に出て、海が見える。

商売としても成功する、萩のための「地産地消」を。

 山口さんは萩生まれの萩育ち。福岡県の大学へ通い、福岡県の企業に就職し、充実した毎日を過ごしていた。そんなとき、萩市観光協会が10年ぶりに職員を募集。地元で就職できるチャンスは少ないと両親の説得を受け、採用試験を受けると、見事に合格。萩に戻り、観光ガイドの仕事に就くと、そこで山口さんの「萩愛」が開花した。ガイドに必要な知識を得るために萩の歴史や文化、自然について調べ、その地を訪れるうちに萩が大好きになっていった。

 あるとき、こんな出来事が。観光協会職員としてパンフレットをつくるために市内の飲食店を訪れたとき、社長から「費用対効果は?」「お金を出すのはうちだから」と指摘された。山口さんは、「ビジネスの意識を高めなければ萩のために働いているとは言えない」と反省。数字を理解して萩市の発展に貢献したいと、『ふるさと萩食品協同組合』へ転職した。

 2年後の2017年、山口さんは2代目の駅長に就任した。「『道の駅萩しーまーと』は民設民営。建物が傷んでも市からの補填はなく自分たちで直し、赤字も自分たちでカバーします。事業者13社は常に費用対効果を意識し、本気で商売を行っています」と言う山口さん。最初は魚を知ることから始め、深夜の0時半に起きて市場へ赴き、2時から行われる競りを見学。魚種やその特徴を仲買人や漁師に尋ね、萩の魚や海について学んだ。その知識を『萩の浜新聞』にまとめ、萩市内で配達される新聞に折込広告として入れ、地元向けの広報活動を実践している。

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駅長になって4年が経つ山口さん。前・駅長から2代目として指名された理由は「山口さんは萩が大好きだから」。
 ファーマーズマーケットは年間約6億円を売り上げる施設になった。新鮮な野菜が所狭しと並べられているが、「生産者のほとんどが兼業農家。家庭菜園から始めた新米農家もおられます」とのこと。川場村は83パーセントが森林で、田畑を耕せる平地が少なく、大規模な専業農家はほとんどいない。「それがよかった」と永井さん。「大規模農家にとってはファーマーズマーケットへの出荷は非効率的。小規模農家や新米農家が少量ずつ出荷でき、副業として少しの収入を得るための受け皿として役立っているのだと思います」。3200人ほどの村民の400人以上がファーマーズマーケットに出荷登録をしているというから驚く。その売り上げは約4億円、うち15パーセントが手数料で、約3億4000万円が農家に分配される。まさに、「農業プラス観光」による地域経済の活性化が実現している。

 また、都道府県が策定する広域的な防災計画に位置づけられている道の駅から選ばれる「防災道の駅」への認定や、1981年から続く川場村と東京・世田谷区との縁組協定による交流など、さまざまな役割も果たしている。「これからも、ここを訪れたすべての人が笑顔になるよう取り組んでいきます」と場内を見渡し、目を細める永井さん。『道の駅川場田園プラザ』は今日も進化を続けている。

『道の駅萩しーまーと』
山口県萩市椿東4160−61
http://seamart.axis.or.jp
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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