展覧会を観に行く美術館、演劇やダンスを観に行く劇場、音楽を聴きに行く音楽堂、これらはすべて文化施設です。そんな文化施設の一つである青森県立美術館の学芸員の奥脇嵩大さんに、文化施設がこれからをつくっていくために、これまで続けてきた活動に加えて、どんなことをプラスするとより豊かになっていくのかを伺いました。
奥脇崇大さんが選んだ、地域を編集する本5冊
文化施設の代表としてお話しさせていただくのは到底不可能なことですが、私は美術館の学芸員です。ですので、美術館という文化施設で働く立場からお話ししたいと思います。
私はもともと考古学を勉強し、人々の暮らしに根付く、まだ美術品とは呼べない、芽生えていないような美術未満のものに興味を向けてきました。美術館は基本的に過去に光を当て、陳列する場所です。過去とはこれまでの時を積み重ねてきた地層のようになっていて、美術館はその地層の中から、過去のいろんな美術品を探し、陳列しています。しかし美術館は過去の陳列を繰り返すだけでいいのでしょうか。これからは既存のものを大切にしながらも、地域の現実を形づくるさまざまな営みを介して、まだ見ぬ芸術に近づこうとすること、すなわち積み重ねてきた地層の上に、新しいものを置いてくことに自覚的に取り組まなければいけないと思います。
これからをどうやってつくっていくのかに必要な、気づきや考え方を与えてもらった本を紹介します。まず、既存のものを解体して再構築するときにヒントになったのが、『分解の哲学─腐敗と発酵をめぐる思考』です。私は、美術館は地域を耕す“畑”であるという感覚を持っています。“畑”の中でこれからは、既存の価値観や機能を分解し崩して、すげかえる。例えば、いままで美術館とはあまり結びつかなかったような、土地の漁業や農業を結びつけてみる。そうするうちにもっと視線を微視的なところにまで持っていき、文化や歴史を分解し発酵させることで、文化施設で新しい取り組みができるようになると思います。
私はいま縁もゆかりもない東北という地で学芸員をしています。新しい土地で既存と新しいものを陳列していくためには、その土地に赴くよりも前に、その土地が積み重ねてきた歴史や、暮らす人々のことなどを知っておく必要があると思いました。自分が青森に赴くとなったときに、青森、東北にはどんな歴史があり、人々が暮らしているのか、と考えたときに最初に出合ったのが『東北─つくられた異境』でした。この本を読んだことで、東北の歴史、立ち位置などを知ると同時に、これからの東北でどのように美術を見せていくのか、再構築していくのかまで考えるようにもなりました。
私たちはいま、考えを転換しながら、これからをつくる文化施設のあり様を探っていくことが求められるのではないでしょうか。