「地域だからこその強度のあるデザインをつくりたい。それが地域の魅力を引き出す」と考える福田さん。そのためにはデザイナーとして必要な編集術や視点の獲得をはじめ、その地域への深い理解が必要だと考えている。そんな福田さんが選んだ5冊は、博物誌から和菓子にまで広がっている。
福田まやさんが選んだ、地域を編集する本5冊
私は奈良県出身ですが、子どもの頃から、大分県中津市の耶馬溪町にご縁があってよく遊びに行きました。好きが高じて移住したのは2012年。以降は、ずっと続けていたアートディレクター、グラフィックデザイナーの仕事を、拠点を移した形で続けています。耶馬溪に住んだことで、地域の新商品開発にコンセプトづくりからたずさわったり、地域のプロモーションに関わったりする機会をいただき、「地域にとってよいデザインとは何か」を模索するようになりました。
『599BOOK』は東京にある高尾山のそばのミュージアム『TAKAO 599 MUSEUM』で販売する高尾山の博物誌にしてガイドブックです。高尾山という地域や、そこに生息する動植物をリサーチし、「ミュージアム」という切り口で整理・再編集しています。膨大な素材を調査するのも、それを美しくデザインして本にするのももちろん大変ですが、これはさらに、ちゃんと誰にでも届く内容になっているんです。この編集術は開くたびに感嘆します。
『TRAVEL UNA』は九州に特化したトラベルマガジンで、3月現在2号まで発行しています。単に観光名所を案内するのではなく、特集テーマに沿って地域を再編集し、再発見しているのがおもしろい。2号は「Rice World Kyushu」がテーマで、お米を切り口に各地の田植え、お弁当、料理、日本酒などを紹介しています。私の住む集落は数十年以上、無農薬栽培でお米をつくっていて、その田植えの様子も取材されています。
『山の道』は、文化人類学者の宮本常一さんによる民俗学の本ですが、内容もさることながら、出てくる昔の絵や文字のデザイン、解説にも興味を持ちました。地方にいると、行事やお祭、いわゆる「神様ごと」が多いんです。由来ももうよくわからないのだけど、特殊なデザインの道具を使ったり、決まった形の竹を伐ってお供えをする、決まった料理をみんなで食べるなどのしきたりがあり、気持ちだけでなく形があるのも興味深い。そういうことへの解像度が上がります。
そうやって受け継がれてきた絵、文字、形、食、そして地方のお年寄りから聞く昔の話──そこから昔の感覚や暮らしに思いを馳せると、その土地ならではのデザインが見えてくるように思います。
表層だけではない、その地域にどんな暮らしがあり、どんな文化があるのか。そこから生まれるデザインを、今後もつくりたいです。
▶ 『星庭』代表/アートディレクター/グラフィックデザイナー|福田まやさんの選書 1~2
▶ 『星庭』代表/アートディレクター/グラフィックデザイナー|福田まやさんの選書 3~5