ローカルな暮らしと坂道のある町並みが人気を集める広島県尾道市に開校して5年目を迎える「尾道自由大学」。多くの旅人を惹きつける尾道の町で、「大きく学び、自由に生きる」をテーマにクリエイティブな場づくりを実践してきた。校長の中村真さんとスタッフの高野哲成さんの案内で、ぜいたくな体験型音楽講座「INNOVATION of CLASSICAL MUSIC」を見学した。
「笑いながら学ぶ」ことに共感する人が集まる土地柄。
盛夏の夕方、港に面した倉庫を改装したシェアオフィス『オノミチシェア』の室内に、弦楽器のチューニングの音が響き渡る。そこに、アップライトのピアノとソプラノの歌声が加わると、無機質だったオフィスが急に豊かな空間に様変わりする。
この日、尾道自由大学が開講したプログラムは、講師の高山信彦さんによって考案された、クラシック音楽をより身近に理解するための特別講座である。前半の器楽編では中世から20世紀までの代表的な曲を、後半のオペラ編では17世紀以降の形式の変化を取り上げる。ヴァイオリンの佐原敦子さん、チェロの夏秋裕一さん、ピアノの今川恵美子さん、そしてソプラノの中川京子さんといった気鋭の音楽家たちが、有名な楽曲の一部を次々と演奏し、そこに講師の高山さんがわかりやすい解説を加える。
高山さんは経営コンサルタントにして「軽井沢森の音楽祭」総合プロデューサーも務めるほどの、クラシック音楽の愛好家で、音楽はリベラルアーツのひとつだと語る。会場に集まったのは、仕事や生活で尾道に関わる40名ほど。ライブで展開される本格的なクラシック音楽に聞き入った。
東京に本拠をもつ「自由大学」と、尾道の未来を考える会社『ディスカバーリンクせとうち』が「尾道自由大学」を開学したのは2013年。当初は、講座を開講すると受講生の半分以上がほかの都府県から訪れる人ばかりだった。しかし次第に、暮らしに「質」を求める地元の人たちにも知られるようになり、昨年からは市街地に新たな拠点を持つに至っている。
「尾道は、さまざまな土地で暮らしてきた人たちの終着点」とスタッフの高野さんは話す。おもしろいのは、大人が若者を応援する文化があることだという。確かにこの日も、講座の行方を座席最後尾で見守る、高齢の常連受講生の姿が見られた。オフィスでクラシック音楽をという発想も、JR西日本の研修の一環として企画された講座を一般公開するというアイデアも、それを実現できるネットワークも、校長の中村さんの言うとおり、新しいことを受け入れ、クリエイティブであることを是とし、「笑いながら学ぶ」ことに共感する人が集まる土地柄だからこそだろう。
19時過ぎ、尾道水道に日が落ちる頃、最後の楽曲の演奏が終わった。まるでヨーロッパを500年分旅した気分の、ぜいたくな講座だった。
尾道自由大学
住所:広島県尾道市土堂2-9-33 豊田ビル3F
HP: https://onomichi-freedom-univ.com Facebook: www.facebook.com/onomichifreedomuniv