仕事に合った人ではなく、人に合った仕事を。
群馬県の高崎市・みなかみ町・下仁田町に拠点を持ち、子育て期の労働支援、働き方改革につながる事業を行う『コトハバ』。その人に合わせる形で、テレワークやリモートワークでの就労の相談にものっています。
地域の資源を活かした、「豊か」になれる働き方。
子育てママに向けた、テレワークから出発。
群馬県・みなかみ町、谷川岳の稜線を仰ぐロケーションに、その屋外ミーティングスペースはある。
「夏は吹き抜ける風が気持ちいいし、冬でも大型テントを使えば寒さも気にならない。冬になると谷川岳が雪で真っ白になって、とてもきれいなんですよ」
そう語るのは都丸一昭さんだ。一般社団法人『コトハバ』の代表理事である都丸さんは、みなかみ町のほか、高崎市、下仁田町で、行政と連携しながら、リモートワークやテレワーク、企業のオフサイト・ミーティング、研修合宿の運営などをとおし、子育て期の労働支援や働き方改革の推進を行う。
このミーティングスペースがあるのは、昨年完成し、今年5月に正式にオープンしたみなかみ町の『WIND+HORN(ウィンド・アンド・ホルン)』。屋外だけでなく屋内でのミーティングや、キャンプファイアができる設備もある。都丸さんがこれまで行ってきたことのひとつの結論を表す建物ともいえる。
都丸さんは1980年、長野県小諸市生まれ。18歳のとき、『東京電力』に就職し、群馬県の吾妻川水系、利根川水系の流れ込み式・ダム式水力発電所の保守・運営に従事した。
「水力発電は歴史の長い発電方法なので、すでにある程度システムの枠組みが決まっています。働くうちに、新しい価値を生み出すことに興味が湧くようになりました」という都丸さんは、働きながら受験勉強に励み、慶應大学SFCに入学。経営について学んだ。
卒業後、2007年に大学生のチームをマネージメントするプロモーション会社を起業。同じ年に奥さんが出産し、奥さんの実家がある群馬県沼田市と東京の二拠点生活を始めることになった。「妻の様子を見たり、いろいろな大学生と会ったりするうちに、子育て期に親が安定していると、自己肯定感の強い子どもが育つようになるのかなと感じるようになりました」。
その後、東日本大震災を経て、仕事の方向性を「自分にとって、より大事な仕事だと考えられる」人材育成・輩出にシフト。『日本財団』設立50周年の「ママの笑顔を増やすプロジェクト」と協働することになり、「子育て期の母親の課題解決」に結びついた。
「確実に結果を出すために、地域を特定しよう」と考えていたところ、以前、女子大学生のチームを指揮して行った東京都豊島区のプロジェクトで、20代の子宮頸がん検診受診率を約2倍にした実績を見てくれた高崎市の産婦人科医との出会いがあり、同市で実施することに。子育て期の女性に向けた情報提供サイトの制作や編集に関わり、彼女たちの声を聞くうちに、子育て期の女性には「いつでも仕事復帰ができる環境づくり」が必要だと実感した。
こうして生まれたのが『コトハバ』だ。当初は子育て期の母親の仕事復帰を念頭に置いたテレワーク事業をメインにしていたが、やがて、みなかみ町・下仁田町からも依頼を受けることで、子育てママに向けたものだけではない、地域ごとの特色に合わせたさまざまな働き方、関わり方も提案するようになった。
「みなかみ町にある上毛高原駅まで、新幹線だと東京駅から66分です。東京と日常的に行き来できる場所でもあり、そこも強みとして押し出しています」
環境を活かした、ほかではできない仕事を。
提案の代表例ともいえるのが、みなかみ町の廃・幼稚園を利用した『テレワークセンターみなかみ』。期間貸しのレンタルオフィス、1日単位でのスポット利用、イベント・セミナー・ワークショップ会場として借りられるワークスペースだ。
「幼稚園では、何をしても褒められたり認められたりしましたよね。多くの日本人にとって『自己肯定の原体験』を育んだ場所なんです」
そのためか、ここにやって来るとほっとしたり、ワクワクとした気分になる利用者も多いという。また、みなかみの自然を味わいながら働ける、利用者に向けたサービスもある。近くの渓流にテーブルと椅子を持ち込んで仕事ができる夏季限定の「水冷オフィス」、保育スタッフが子どもと一緒に園庭で遊んでくれるなか仕事ができ、仕事後は子どもとみなかみの自然も満喫できる「ワーク」+「バケーション」の「ワーケーション」などだ。これまで大手IT系企業などの利用もあり、2018年の利用者は650人だった。
「高崎は、人口約37万人規模の市なので、『働きたいママ』向けのテレワーク受注を中心に事業を進めても十分やっていけます。ですが人口2万人に満たないみなかみでは、違ったアプローチが必要でした。みなかみ町は、『ユネスコエコパーク』に認定され、自然の中で濃密なコミュニケーションが取れますし、開放的な環境から新しいアイデアが生まれることもたくさんあります。都会のオフィスの会議室のような便利さはありませんが、深呼吸しながら『自分やチームは何を目指す仕事をしたいのか』と、中長期的なプランを立てるには適しています」
前述した『WIND+HORN』は、そんなみなかみの特徴を最大限味わってもらおうと建てたものだ。
この自然環境が、あなたの「オフィス」になります。
人それぞれに合わせた、豊かになれる働き方。
地域の特色に合わせて仕事の幅を広げていくと、地域の課題も見えてくるようになり、その解決も事業の視野に入るようになった。
「たとえば、みなかみは観光のまちですが、多くの宿泊施設がその集客を大手オンライン予約サイトに頼りきりで、高い手数料を払わなければなりません。そこでみなかみと関わりを持ちたい方に、プロボノ(専門的なボランティア)や副業として課題解決に関わってもらうことも行っています」
また、みなかみに必要だと感じていることのひとつに、地域のプレーヤーの育成もある。みなかみ町の地域おこし協力隊隊員を務め、任期終了後に「みなかみ地域プレーヤー育成プロジェクト 準備チーム」を立ち上げた鈴木雄一さんとともに、資源を活用できる小規模な地域のプレーヤーを支援していくのも、今後力を入れていきたいことのひとつだ。
「いきなり地域のプレーヤー一本では難しくても、テレワークによるほかの収入源があれば実現可能な目標にできます」
今年度からは、同じく新幹線での東京通勤圏内である長野県佐久市で活動することにもなり、求人や紹介できる仕事は多いと、都丸さんは話す。
「『コトハバ』と契約するテレワーカーチームで完結させられるウェブ制作などの案件もありますし、スキルややりたいことの方向性しだいで、『コトハバ』自体の運営に関わってもらう仕事もあるかもしれません。地域で求める人材は場所によって大きく変わりますし、まだ『仕事』としては定義できない仕事になることもあります。仕事に合った人を選ぶのではなく、人に合った仕事をそれぞれの地域の中で探し出していきます」
もし『コトハバ』の仕事に興味があれば、まずは会い、じっくり話をさせてもらいたいと、都丸さんは言う。
「労働生産性が上がります!というような働き方改革は東京でやってもらって(笑)。テレワークならではの働き方で、最初は少しずつ始めてもらい、手ごたえを感じられたら量を増やしてもらう。そのうえで、その土地に惹かれたら住んでもいいし、その仕事をすることで豊かになったと思える、いろんな関わり方をしてもらいたいです」
◆Information◆
群馬県(高崎市、みなかみ町、下仁田町)
業種は、あなた自身
コトハバ
子育て期の母親の仕事復帰を支えるテレワーク、ローカルベンチャーに関わる仕事などを中心に紹介します。都市部にいながら、スキルを活かして地域を支える仕事もあります。
www.cotohaba.com