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連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中

これからの豊かな旅のキーワードは 「時間とご縁」。

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目次

微遍路完歩、新たな街道づくりへ。

 今年2月にこれまで15年暮らしていた東京から福井県へ移住をし、現在約半年が経つ。コロナ前、東京に暮らしていたと言っても、毎月のように台湾をはじめアジアの各地へと常に移動ばかりだったため、移動こそ私の暮らしそのものだったとも言える。しかし、コロナ禍で国外への移動が制限された今だからこそ、飛距離を延ばすことではなく、深度を追求する新たな旅や移動の形をここ福井県で模索している。

時間持ちが楽しめる豊かな旅。

 これまでライフワークにしていたアジア微住が、そして福井県への台湾人の微住受け入れが、両方ともにストップした。このタイミングを使い、福井県内をすべて歩いて巡る「微遍路」という旅を思いついた。昨年9月に福井県東部の大野市をスタートし、京都府との県境にある山、青葉山まで歩いた「往路編」は以前のこの連載でも(vol.19〜21)お伝えしたが、続く「復路編」として今年4月3日、その青葉山をスタートし、福井県内の17市町を巡り、5月15日に再び大野市へゴールした。往復約900キロの道を遍路し、そこで出会えた福井県各地のみなさんとのご縁はおそらく一生ものの財産になったと思っている。

 仮に従来の移動や旅で「より早く、より快適に、より豪華に」を求めるにはお金が必要だったけれども、深度を大事にする微住や微遍路ではお金以上に時間が必要であり、お金持ちならぬ“時間持ち”がこの旅では優位になる。

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往路復路と共に歩いたスニーカー。

“絶暮”の境地で見えてきた“ご縁”の大事さ。

 微遍路の旅で最も辛かったことは何だったか。雨の日も風の日も時にはアラレの日も歩き、まさに「リアル宮沢賢治」だったことや、スズメバチに刺されて緊急で病院に駆け込んだときもあった。だが何よりも大変だったのが、毎日何かしら他人に頼らなければいけないことだった。たとえば、この旅では野宿できる道具はあえて持たなかったため、毎日各地で誰かに寝る場所を提供してもらわないといけなかった。

 誰にも頼らずすべて自ら持参すれば楽だし安心だけど、荷物は重くなる。反対に荷物を減らせば歩くのは楽になるけれど不安がついてまわる。世の中ってちゃんとうまくできているなと変に納得しながら、自立したくてもできないイラだち、まさに絶食ならぬ“絶暮”状態だった。すべてお金で解決してしまえば誰かに頼らずに済む話。旅の途中何度もお金に頼ってしまおうと思った。しかしきっとそればかりでは、スペシャルな出会いやご縁はきっと生まれていなかっただろう。“ご円(お金)”と“ご縁”、この2つの言葉は語呂が同じなのはきっとここに不思議な関係があるはず。この旅を通じて暮らしづくりの中で“ご縁”の大事さは“ご円”と同等かそれ以上の価値になると改めて実感した。

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織物会社に製作いただいた法被。

新時代の街道を福井県につくる。

 微遍路復路編のゴールの日。最終地点の大野市に今回の旅で出会えた各地のみなさんが集まってくれた。そしてこの旅の主題歌としてつくった「微遍路音頭」をみんなで歌い、踊った。この音頭の輪のように福井県の横同士のネットワークを見える化したい、県内各地の暮らしを巡ることのできる新たな街道をつくりたいと決心した。その名は「微住街道」だ。

 微住受け入れ地を、街道沿いの宿場町のようにスポット同士を“街道”としてつないでいく。さらにもう一つ街道にしたい理由がある。微遍路を歩いて思ったことが、注目されているスポットとスポットとの間の道すがらに多くのおもしろい人が暮らしていて、ストーリーがあふれていた。そんな魅力を拾い集めることで見えてくる地域のグラデーションこそ土地の味“地味”の本来持つべきこの言葉の魅力だ。

 次の半年で福井のみなさんと、これから福井県を“ゆるさと”として国内外から訪れてくれる微住者たちとの、互い血が通った新時代の観光街道づくりに着工していくつもりだ。

たなか・ゆうすけ●職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは1週間から2週間程度、特定の地域に滞在する“ゆるさと”づくりの旅。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。

【微住 .com】www.bi-jyu.com 【田中オフィシャルサイト】http://tanaka-asia.com

記事は雑誌ソトコト2021年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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