料理本が売れているのだという。コロナ禍の影響で外食が減り、内食の比重が大きくなった結果、より一層毎日の食事によりをかけ、家族やごく親しい人たちと食卓を囲む。日々の食事に彩りが生まれ、大切な人びととの時間を大事に過ごそうとする傾向の一方で、誰にも見せるでもなく粛々と一人でキッチンに向かい、たった一人で食卓に座り黙々と食事をする人間もいる。
高山なおみさんの『自炊。何にしようか』はそうした人びとの食卓に光を当てた本だ。ただ毎日を生き長らえるために料理をして、食べる。食べるということは生きるというよりも死んでしまわないように食べるのだ、と語るひとり暮らしをはじめた高山さんが作る日々の料理。暮らしの土台や屋台骨になるような、保存が利き、比較的簡単で、何よりもラフでリアルな下ごしらえや料理の数々。キッチンや自宅の何げない風景を捉えた写真と、グラフィックデザイナー・立花文穂のどこか素朴で違和感のあるブックデザインが、高山さんの剥き出しの生活をありのままに映し出す。それらは高尚な料理家の作った料理ではなく、ぼくやあなたが毎日向き合っている生活の、必然のなかから生まれた料理だ。
『自炊。何にしようか』
著者:高山なおみ
出版社:朝日新聞出版