バレエやボディビルダー、ヒューマンビートボクサーなどの要素をコレクションショーに取り入れ、洋服そのものを演劇的な存在として発表し続けるブランド『THEATRE PRODUCTS』。2001年に設立された同ブランドは「洋服があれば世界は劇場になる」をコンセプトに、洋服や、洋服をとりまくさまざまなことを“ステージ”に上げ、“スポットライト”を当ててきた。その活動には常に新しさを感じる。
ブランドの代表でありデザイナーの武内昭さんは、届けたいのは商品だけではないという。「ファッションアイテムの素材やシルエット、色なども好きですが、ものをつくることで生まれる空間、時間、場所が好きなんです。ファッションを通して、ファッションに関わるいろんなことをみんなと共有したい。そして身につけたり、持ったりする人の時間や空間や場所などを提案したいんです。なので、ファッションブランドとしては洋服のデザインも含め、そのつくり方や届け方、ブランドが考えていることを恐れずに打ち出すことが重要なのです」。
切って、縫って。
武内さんは『THEATRE PRODUCTS』を立ち上げる前にアーティスト的な活動もしており、1999年にはインスタレーションを3回発表している。このインスタレーションでは、大手アパレルメーカーから廃棄予定のさまざまな生地を譲り受け、小さく裁断。それをつなぎ合わせて大きなパッチワークをつくり、会場を埋め尽くす。そして来場者に好きな場所からタンクトップの前後身頃を切り抜いてもらい、その場で縫い上げて持ち帰ってもらう。切り抜かれた布と、縫い上げられたタンクトップが一対となる。そしてそれを写真に記録する。このプロセスが作品になっている。
切り取って、縫う。
のちにインスタレーションは、「カット・アンド・ソーン」と名づけられ、ブランドを立ち上げた2001年以降も継続することに。「これまで、現地で素材を調達するという自分なりのルールを設定し、国内をはじめ、インドネシア、アイスランド、オーストラリアなど世界各地でワークショップを実施してきました。その時々で手に入る素材は異なりますし、時には現地に繊維業がなくて、生地すら生産されていない場合があります。それでもそこで使えるものを探して、参加者と一緒に布を大きなパッチワークに仕立て、そこからまた切り抜いてタンクトップにする。その過程を大切にしています。そして出来上がったタンクトップを、それぞれの生活の中で使ってほしいんです。シーズンごとにファッションブランドとして活動しながらも、『THEATRE PRODUCTS』ではそれと並行して、このような活動も行っていきたいと思っています」。
行政とファッションビジネス。
2018年12月、京都府亀岡市が「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を発表した。それを受けて、2019年、のちにSDGs未来都市選定事業となる「かめおか霧の芸術祭」の総合プロデューサーを務める、陶芸家で大学教授の松井利夫先生から、「カット・アンド・ソーン」のタンクトップをバッグに置き換えたワークショップを、この年に開催する芸術祭でできないか、と相談を持ちかけられる。活動を知っていた松井先生が、素材もすでに用意していたという。それが役目の終えたパラグライダーの翼だった。パラグライダーは厳しい安全基準により、数年で使用禁止となる。使用できなくなった機体は、競技者が自宅で保管するか、廃棄処分されているのが現状だ。
武内さんは、松井先生から提案を受けてすぐに、「それならば、パラグライダーの翼を使って、バッグを商品化し、回収と生産をする拠点を亀岡市につくりませんか、とこちらから亀岡市に提案したんです。その先に事業化を本格的に見据えた取り組みとするのであれば、ワークショップもやりましょう、と。そうしたら、亀岡市が提案に乗ってくれ、生産拠点づくりの話が進んでいきました」。
亀岡市はともに拠点をつくることを決め、2019年9月からふるさと納税を利用した「ガバメント・クラウド・ファンディング®」を実施。ここで亀岡市と『THEA TRE PRODUCTS』の、つまり行政とアパレルブランドとのファッションビジネスがスタートすることになる。そして亀岡市を流れる保津川から命名されたバッグ「HOZUBAG」の生産拠点である『HOZUBAG.Mfg.』が、2020年に設立された。
ローカルで、ワークショップ。
2019年7月に開催された「かめおか霧の芸術祭」の一環として、亀岡市内のパラグライダーの翼の提供を受けて、解体して大きなパッチワークをつくった。そしてJR亀岡駅北口に、パッチワークから仕立てた一つの巨大なバッグを、クレーンから吊り下げて空へと浮かべたのだ。「その後10月に、その巨大なバッグを広げて、市内で暮らす人々と共に『カット・アンド・ソーン』のようなワークショップを開きました。ワークショップには老若男女、幅広い世代から200人近くの人が参加し、それぞれ好きな部分を切り取り、その場でスタッフが縫製してバッグに。そして完成したバッグを持って、写真を撮影しました」。
また武内さんにとって「このワークショップは、市民に対するプレゼンテーションでもあり、皆さんがつくったパラグライダーのバッグを生産する拠点をつくる活動を行政と一緒にスタートさせますよ、というお知らせの意味もありました。実際にワークショップに参加してもらうことで、これから起こる『HOZUBAG』の流れを市民が体験でき、どうやってできるのか、ということを理解してもらえると思いました」と語る。
そして今『HOZUBAG.Mfg.』にはパラグライダーの機体が運ばれ、解体、裁断、そこから縫製の工程を経てバッグに仕立てられている。またこの場所は社会の中で働きづらさや、生きづらさを感じる人も共に働ける場所として、亀岡市の雇用創出にもつながっている。
「拠点整備と合わせて、まず販路開拓をしようと、実はパリに『HOZUBAG』を最初に持って行きました。そして展覧会を開催し、著名なギャラリーである『イヴォン・ランベール』にぜひ展示を見てほしいとオファーしたんです。実際に展示会場に足を運んでくれ、『HOZUBAG』をとても気に入ってくれ、持って行ったバッグをすべて買い取ってくれました。その数週間後には追加注文もいただき、現在も継続して取り扱ってくれています」。国内では現在、「HOZU BAG」の公式オンラインショップや『THEATRE PRODUCTS』の店舗などで販売されている。
それでも「HOZUBAG」は世の中に浸透していないと武内さんは話す。「とても反響が大きいのですが、人が手を使って解体し、裁断して生産しています。『HOZUBAG.Mfg.』の生産能力に合わせて販売している状況です。『HOZUBAG』の存在をより浸透させ、たくさんの場所で販売できるようにしたいと思っていますが、販売してくれるところは、バッグのことをちゃんと理解して、大切に扱って、大切に販売してくれるところにお願いしたいんです。今後、気球の風船部分の生地を使ってバッグをつくるプロジェクトも進めています。より多くの人に、その取り組みそのものを知ってもらいたい、と思います」。