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民藝の魅力は正直な仕事と、少し間の抜けた愛嬌

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正直さと愛嬌さ。

ふとした言葉がキッカケで眠れない日が続いた。「ダメな時は何をしてもうまくいかない、そんな日があっていいじゃないか」という気持ちと、「このままじゃダメだ」という気持ちが渦巻いて、落ち着かない日々を過ごしていたある日、予約していた本が郵便受けに舞い込んできた。

『こころをそのまま感じられたら』星野概念著、講談社刊

『こころをそのまま感じられたら』は、精神科医で音楽家の星野概念が、日々の中で出会った人々との交流を通して得た気づきを綴ったクスリと笑えるエッセイだ。概念さんは聞き上手、いや寄り添い上手なのだと思う。読んでいるうちに自分の話を聞いてもらっているような気分になって肩の力が自然と抜けていた。概念さんとは縁があり、我が家に遊びに来てくれたことがある。気を使わせない人で、そこにいるだけで周囲を柔らかくする様子は、なんだか座敷童子のようだった。

民藝にも、それと似た魅力がある。正直さと愛嬌さだ。用途を満たす真面目さだけでは窮屈で、ふざけていては長く使うことができない。正直な仕事なのに、少し間の抜けた愛嬌があるものは、使い手の工夫を受け止め、長く愛されるものに育っていくことができる。工夫とは、互いに寄り添い合い、ちょうどいい関係を築くということだ。これは道具だけではなく、人間にも当てはまる。正直でいられて、少しの愛嬌が許されるような間柄こそ、「居心地のよい時間を育む “母”なのだ」と僕はそう思っている。

text by Keiichi Asakura

朝倉圭一|あさくら・けいいち●1984年生まれ、岐阜県高山市出身。民藝の器と私設図書館『やわい屋』店主。移築した古民家で器を売りながら本を読んで暮らしている。「Podcast」にて「ちぐはぐ学入門」を配信。

記事は雑誌ソトコト2023年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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