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特集 | 第2回「ソトコト・ウェルビーイング未来アワード2024」

スキルを活かして地域に貢献。サービスグラントの「ふるさとプロボノ」がつなぐ人と社会の輪 

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ボランティア活動のなかでも、特に自らの持つ経験やスキルを活かして行う活動を「プロボノ」と言います。認定NPO法人『サービスグラント』では、さまざまな課題を抱える団体とプロボノワーカーとして社会に貢献したい人々とが協働するプロジェクトがこれまでに1350件以上遂行され、5500人を超える社会人が活動しています。そのなかで、人口減少の影響が濃い都市圏以外の地域にこそ、地域外の人が関わるデザイン、橋渡しが必要なのではないかという課題意識のもと、持続可能な地域づくりにつなげるプログラムとして「ふるさとプロボノ」を始めました。地方の団体、組織と地域外の社会人とが課題の共有を入り口に新たに出会い、共に課題解決に取り組む「ふるさとプロボノ」に参加した方の声を通じて、この取り組みの魅力を紹介していきます。

目次

瀬戸内海に浮かぶ島でママチームが活躍

最初にお話をうかがったのは、広島県尾道市の瀬戸内海に浮かぶ生口島で、島の恵みをシェアし、自然とのつながりを感じてもらうイベントなどを行う「Feast forest project ごちそうの森(以下、ごちそうの森)」を運営する長光祥子さんと、プロジェクトに参加した小林千夏さん。 

長光さんはもともと大阪で働いていましたが、生口島に魅了され移住しました。猟師となって地元の方たちと触れ合ううちに、里山の衰退など山と人の距離が離れたことに起因する自然の循環が弱まっている問題に気付き、生口島の山海の幸をさまざまな人とシェアすることを通じてこの問題を解決するべく「ごちそうの森」を立ち上げました。 

「ごちそうの森」を切り盛りする長光祥子さん。

そのなかで、「ごちそうの森」の活動をよりわかりやすく伝えるためのメニューの整理や、参加者募集のチラシの作成をしたいと「ふるさとプロボノ」でプロジェクトを発足させました。そのときの心境を長光さんはこう語ります。 

「最初は、都会の人と価値観の違いがあるのではないか、『ごちそうの森』の活動の趣旨を理解してもらえるか、タスクに対するテンポ感が合わないのではないかといった不安もありましたが、事務局とコーディネーターとが事前に詳細にプロジェクト概要や募集要項などを定めてくれて、実際に来てくれた方たちも実にパワフルな方が多かったです。実際に2泊3日で生口島に来てもらったのですが、夏だったことと、参加者の熱気でとても暑かったのを覚えています」

参加者とともに島を巡り、島の持つ魅力や課題への理解を深めたうえでプロジェクトは進んでいった。

成果物としてはチラシというかたちになりましたが、それに付随して、これから解決していくべき課題の洗い出しや優先順位の設定、「ごちそうの森」のミッションや、コンセプトをあらためて定めるなど、当初想定していたよりもはるかに多くの物事に向き合い、助言や計画の立案をしてくれたのだそうです。 

「『ごちそうの森』のことを十分に理解してくれたうえで、自分だけでは気づけなかった客観的な視点からのアドバイスをもらい、ミッションの核を言語化できたことで、今後に向けて活動の芯ができた気がしています」

小林千夏さんは、生口島でのプロジェクトに参加した一人。大手通信会社で働く傍らで副業として地方創生プロジェクトなどを手がけてきました。プロボノとして活動するきっかけは、子どもができたことにも起因していると言います。 

「子どもが生まれたことで、生活サイクルに大きな変化がありました。それまで本業を持ちながら地方創生にかかわる副業をしていましたが、子どもがいるとそれは難しくなります。そこで子どもを連れて地方に関われる活動がないかと探していたところで『ママボノ』を知ったんです」 

「ママボノ」は『サービスグラント』が展開する、育休中や子育てで離職中のママたちがチームになって社会貢献活動を行うプログラム。今回の生口島でのプロジェクトにはこの「ママボノ」のチームが参加しました。 

「今回のプロジェクトは地方に関われる活動であり、家族でワーケーションのような形で現地に行ける。またプロジェクトメンバーがみんなママということで、育児初心者の私にとって育児経験者である先輩方が多くいる場でもあり、ママ同士であれば時間帯の使い方も学べるし、プロボノの活動と、子育てを両立できるのではないかと考えました」 

参加者が「ママ」という共通の背景を持つことも、プロジェクトの推進に力になったのだという。

その予想は的中し、生口島でのプロジェクトを通じて自分のできることの再認識や、これから地域に何か価値提供をするときのための貴重な経験を得られたと小林さんは言います。 

「チーム全員が高い熱量と明確な参加目的を持ち、また事務局とコーディネーターの事前ヒアリングによって明確なプロジェクトゴールが設定されていたおかげで、良いスタートダッシュが切れました。だからこそ、もともとの依頼+αの納品物をつくることができたと思います。また、プロジェクトメンバーからは育児とプロジェクトの推進を両立させるためのメリハリをつけた動き方やチームプレイを学べました。おかげで、今後の子育てとプロボノ活動や副業の両立にも自信が持てました」 

「ふるさとプロボノ」に参加しての感想をうかがうと、このように答えてくれました。 

「これまでプロボノとして活動したいと思っても、その場を見つけられるか、そして見つけられたとしても実際に力を発揮できるかには、縁や偶然の占める部分が多かったと思います。『サービスグラント』の『ふるさとプロボノ』や『ママボノ』のように、地方の団体と個人の関係をコーディネートしてくれる仕組みがあることで、地域は人に呼びかけやすく、参加者はより自分のスキルを活かせるようになるのではないでしょうか。また、地方で子育てをする長光さんの活動を見ながら、地方で子育てしたいなと思いました。」 

同じ質問を長光さんにもお聞きしました。 

「人を招くことで新たな視点を得られます。私のように気持ちで動いてしまう人間にはピッタリだなと(笑)。1人で悩むのではなく、外の力もどんどん活用していけばよいと思います。今回は『ママボノ』というかたちで協力していただきましたが、現場見学にお子さんやパパを連れてくる方も多く、家族でのワーケーションのようなかたちになり、そのなかでママが主役となって動き、パパがサポートし、それを子どもが見るという関係性が素敵だと感じました。また、プロジェクト終了後も交流を持つことができていて『ふるさとプロボノ』を通じて人の輪が広がり、地方を活性化する力が高まっていくことにも期待できると感じました」 

長光祥子(ながみつ・しょうこ)
世界中を旅して食べ歩くなか、広島県尾道市の生口島で出会った猟師たちの、自然に敬意を払いつつ楽しみ、地域に喜ばれる共生ライフスタイルに憧れて2010年島に単身移住。日々狩猟や地域の方との触れ合いを楽しむなか、2021年4月「森から暮らしへ」をテーマに「Feast forest project」をスタート。島の山奥の土地を「生口島 ごちそうの森」として拠点にし、自然と人の共生、循環社会を目指して活動中。現在、二児の母。

小林千夏(こばやし・ちなつ)
大手通信企業で働きつつ、副業でイベント企画運営、コミュニティマネージャーなどを担う。また、ライフワークとして地方創生プロジェクトなども行ってきた。「ふるさとプロボノ」のプロジェクト中は、団体関係者へのヒアリング等を担当し、団体のコンセプトをあらためて明確化した。

薪工場のデータを誰でも扱えるように標準化

続いては、現地のプロジェクトとプロボノワーカーを結ぶコーディネーターとして活動する高野哲成さんにお話をうかがいました。高野さんは「WAKU WAKU GAKKO」という、受講生と講師とキュレーターがフラットな関係で学べるコミュニティを運営しており「ふるさとプロボノ」ではコーディネーターを担っています。「ふるさとプロボノ」でどのようなプロジェクトに携わったのでしょうか。 

「『西中国山地自然史研究会』という環境保全・里山文化の継承などにかかわる西中国地方のNPOがあります。ここが活動の一環として里山の経験を保全し、薪を販売する取り組みをされているのですが、この取り組みをICTを用いてデジタル化を行なうプロジェクトをコーディネートしました。具体的には薪工場の在庫管理の設計です」 

薪置き場の様子。さまざまな薪がうずたかく積み上げられている。

高野さんによると、工場では原木の受け入れと薪の生産に追われており、システムの改善に向けるマンパワーが不足している状態。また、原木や薪の在庫量や、その納入先についても特定のスタッフが1人で管理しているなど属人性の高い状態で、それを誰でも管理ができるように標準化が求められていたとのことです。 

「『ふるさとプロボノ』でプロジェクトを募集したときは、それなりに不安がありました。地方の薪工場というシチュエーションに合った人が来てくれるものだろうかと。そして実際にオンラインでの打ち合わせの中では、あまりに領域が違うせいで最初は緊張して、核心を突いた話がなかなかできなかったですね」 

しかし、実際に現地を訪れた「デジボノ」チーム(IT関連に強いプロボノチーム)はみるみるうちに結束を高め、プロジェクトに取り組んでくれたのだそうです。 

薪の在庫管理システム設計に挑むデジボノチームと薪工場スタッフの八木さん(写真右)。

「コーディネーターとして現場を見ていて一番に思ったのは、みなさん体当たりで楽しそうにやってくれているなということでした。とても親身に、現地の事情なども深くくみ取ってくれました。その結果、デジタルの分野にとどまらず、たとえば木材のデータを取ってアップロードしやすくするために、工場内に置いている薪の配置や計測方法の変更なども提案してくれて、多角的に工場の状況を整理していったんです」 

また、「デジボノ」チームがやってきたことは現地の人にも刺激になったのだとか。 

「八木くんという、薪工場で働いてくれている地域の若者がいるのですが、彼は少しICTの知識があったんですね。ですが、これまで使っていたデータベースの仕組みでは1人がデータを開いていると他の人がデータを閲覧できなかったり、現場でも、1人のスタッフしかデータの現状を把握できていないこともあったりしたので、運用するうえで限界があったんです。それを『デジボノ』の皆さんが誰にでも扱えるアプリにしてくれたことで、チームが帰ったあとも軽微な修正なら八木くんが1人でできるようになったんです。彼も『デジボノ』チームとの交流は、先進的な働き方について知ったり、コンサルティングの考え方を学ぶ機会になったと言っていました」 

高野さんは、「デジボノ」チームが楽しみながらプロジェクトに取り組んでいる様子が印象に残っているのだという。

それ以外にも「デジボノ」チームとともに活動した現地のスタッフからはこのような声も寄せられたのだそうです。 

「意欲と専門知識があり、地域を全力で楽しんでくれる方が来てくれてよかった。現地をしっかり訪問してくれたからこそ、課題を体感し、それが成果物につながったと感じた」 

「一つの団体だけでは解決できない問題はたくさんあり、特に団体の運営についてのサポートは少ない。『ふるさとプロボノ』がさまざまな価値観や視野を広げるための場、機会になれば」 

10年前から地方に深くコミットし、さまざまな地方創生のプロジェクトに携わってきた高野さんに、プロボノという活動への今後の期待について聞くと、こう答えてくれました。 

「『ふるさとプロボノ』のような、個人と地方を結びつける仕組みができてきたことはとても喜ばしいと思います。プロボノがさらに普及していくために今後必要になってくるのは、個人と地方の中間に立つ、コーディネーターの育成や、そのマネタイズの成熟化ではないでしょうか。地方の活性化には持続性が重要です。『ふるさとプロボノ』に登録されているプロジェクトは一過性のものではなく長く意味を持つものなのかどうかといった点なども考慮されています。プロボノという活動のあり方を広めるだけでなく、プロジェクトを精査し、社会人と地方の両方にとってよりよい判断ができる人材を増やしていくこと、それが私にとっても今後の課題ではないかと考えています」

高野哲成(たかの・てっせい)
滋賀県出身。岡山県西粟倉村で色々な生き方に触れ、尾道市向島で子ども達の未来に残したいものを思考し、「子どもの育ちや学び」に関する企画運営とコーディネートを通じて持続可能な地域の実現に取り組む。誰もが学び、伝えられる市民大学/フリースクール「WAKU WAKU GAKKO」準備室、10代のための居場所づくり「ユースセンターズ オノミチ」運営部、自然保育/保護者同士の仲間づくりの場「みらいのこども舎」運営部。

取材を終えて

地方自治体やNPOはさまざまな課題を抱えつつも、それを解決するためのリソースが不足していることも多いのが現状です。地域社会にさまざまなスキルを持った社会人が自らの経験を活かして関わることで、それらの課題解決につながります。また、プロジェクトを通じて地域と都市の人が絆を持つことで、一過性の結果に終わらず、継続的に地域に力を注ぐこともできるようになるでしょう。

もちろん、プロボノワーカーとして活動する人も、ただ与えるだけではありません。プロボノ活動を通じて、自分のスキルを実践的に磨き、発展させることができます。また、新しい分野に触れることや、これまでとは異なった環境に身を置いたという経験も、時に得難いものとなるでしょう。

個人の持つ「力」と、地域の持つ「場」をつなげ、双方をよりよい状態へと高められるプロボノ活動は、これからの地域活性化や地方創生になくてはならないムーブメントであるとあらためて感じることができました。今回の記事を通じて、自身のスキルを地域で活かすプロボノに興味を持ったかたは、ぜひ以下の動画やサイトをご覧になってみてください。また、地域で行政や団体運営に携わっている方も「ふるさとプロボノ」を通じて地域に新しい人やスキル、価値観を招き入れることを考えてほしいと思います。人と地域がプロボノ活動によって新たに結ばれることで、一つでも多くの課題が解決に向かうことを願っています。

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