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関係人口

特集 | 関係人口入門 2023

「超帰省」 ──友達の地元に帰省すること。

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コロナ禍で多くの人が「帰省」できなかった2020年。三人の若者が、地域と関わる新しい考え方「超帰省(ちょうきせい)」を打ち出した。帰省を超える帰省。その先には、信頼関係から始まる地域との関わり方があった。(※「超帰省」をSNSで情報発信するためにロゴもつくった。)

目次

キーワードは帰省と友達。

生まれ育った土地を離れて暮らす人が、年末年始やお盆など長い休暇がとれるときに実家や故郷へ帰る「帰省」。旅的な要素はありながらも、観光旅行とは違う文脈がそこにはある。
そんな帰省を「地域と新たに出会う方法」としてデザインしなおし、「超帰省」と名付けて活動しているのが一般社団法人『超帰省協会』だ。
発起人は、根岸亜美さん、守屋真一さん、原田稜さんの三人。活動のきっかけをつくったのは根岸さんだ。彼女の出身は神奈川県小田原市の隣にある大井町。「小さな地方の町で、とくに地元が好きというわけでもなかった」という根岸さんだが、東京の大学で地域活性化に関わるうちに、「自分の地元を知ってもらいたい」という思いが募ってきた。

どうしたら地元のよさを知ってもらえるのだろうか?

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渋谷駅前に「帰省」姿で集まった三人。右から守屋さん、根岸さん、原田さん。
根岸さんがこだわったのは、地元に「友達」を連れて行って、自分の暮らしの部分を見せるということと、「個人の人生やエピソード」を通して地域を知ってもらうという2点だった。
「普通の旅行とは逆のプロセス、つまりとても個人的なところから地域と出会い、そこから逆上がりをする形で地域のことを知ってもらったほうが、地域の魅力がより伝わるのではないか」。根岸さんはそう考え、何度か小田原エリアを対象とするツアーを実施した
そのツアーに根岸さんの友達だった守屋さんが参加した。守屋さんは神奈川県秦野市の出身で、小田原市内の高校に通っていた。根岸さんの地元の小田原エリアは、守屋さんにとってもよく知っている場所だった。
ところがツアーに参加して見えてきたのは、まったく知らない小田原。とくに、人との出会いが、普通の旅では出会えないものだったと守屋さんはいう。
「みんな亜美ちゃんの友達なので、自然とすぐに距離が縮まりました。とくに印象に残っているのが亜美ちゃんのご両親と一緒にバーベキューをしたこと。亜美ちゃんの小さい頃の話が聞けて、いろいろな話をしているうちにすこし遠い親戚のような感覚になっていきました」
守屋さんは、大学の同期で友達の原田さんにこの体験を話した。二人とも建築やまちづくりに携わっていて、「何か一緒に地域に貢献できることをやりたい」と考えていたタイミングだった。守屋さんの話を聞いた原田さんは、根岸さんのツアーのことを聞き「温度感ややりたいことが似ている」と直感した。
そこで原田さんは、三人で活動を始める前に二人を、自分の地元の焼津に連れて行った。自分でもツアーを主催したのだ。

「通っていた高校やよくサッカーの練習をしていたグラウンドなどを案内しました。また地元の友達と一緒にバーベキューもしました。二人ともそれを楽しんでくれましたし、地元の友達も『またあの二人来ないの』と言ってくれています。東京と静岡が仲良くなったようで、自分でやってみて亜美ちゃんがやっているツアーの魅力がわかりました」と実感を込めて原田さんは説明してくれた。

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神奈川県秦野市出身の守屋真一さん。芝浦工業大学大学院建築学科卒業後、建築やまちづくりの企画・設計・運営に携わる。プロジェクトではプロデューサー的な役を果たす。三人のポートレートは、『SHIBUYA QWS』にて撮影。
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守屋さんの「超帰省」の旅。右上/初めて参加した根岸さんの小田原ツアー。右中/何度も「超帰省」している秦野市の実家の風景。右下/2020、2021年の暮れには、庭の落ち葉を集めて焼き芋をする日帰りツアーを開催。左上/親戚のような感覚になり、根岸さんのご両親に生まれた子どもを見せに行った。左下/穂に火をつけると蚊除けになる「がんも」。秦野への「超帰省」に参加した人から教わった新たな魅力。
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神奈川県・大井町出身の根岸亜美さん。早稲田大学教育学部在学中にまちづくりに触れる。卒業後は広告代理店勤務。プロジェクトでは、仕事で磨かれたワードセンスとディレクション能力を発揮。
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根岸さんが小田原エリアで開催した「超帰省」ツアーから。最初に開催したのは2017年、社会人2年目のこと。ツアーの目的地は、根岸さんの実家や高校時代に通学に使っていた駅。根岸さんの思い出とともに語られることで、なんでもない風景にまったく違う色が付く。その経験があるから、訪れた場所が参加者にとっても特別なものになっていく。
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静岡県焼津市出身の原田稜さん。芝浦工業大学建築学科卒業後、大手ハウスメーカーを経て、スポーツを通したまちづくりなどに関わる。プロジェクトではプロジェクトマネジメントまわりを担当。
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右上/本業では、サッカーの練習と防災訓練を組み合わせたワークショップに取り組む原田さん(写真:HITOTOWA INC)。右下/根岸さんの小田原ツアーに参加した原田さんは、「超帰省の原点を見た」そう。左上/小田原ツアーで原田さんは運営側に。左下/コロナ禍で、各地のアンバサダーとの顔合わせはオンラインで。「みんなでやる、それぞれやる」の両方をできることが理想。

全国47都道府県で「超帰省」を広める。

2020年に任意団体を設立し、21年に一般社団法人化。三人はそれぞれの仕事をしながら、この活動に取り組んでいった。

活動をするにあたって必要だったのが名称だ。自分たちの考えている新しい旅の形を伝えるインパクトがありながら誰にでも分かるような名前は、と考えたときに生まれたのが「超帰省」という名称だった。

「これは亜美ちゃんの発案。すぐに僕も原田も『これしかない』と決まりました。僕たちの活動は、旅行会社のようにツアーを販売することではなく、『超帰省』の考え方を広めること。そういう意味で、誰もがすぐにイメージが湧く『帰省』という言葉が入ったネーミングはとても力がありました」と守屋さんは言う。

根岸さんも「知らない地域との最上の関わり方って、地元に帰省する感覚で出会うことだと思います。多くの人に実践してほしいので『超帰省する』というように動詞として使えることもいいなと思っています」

「超帰省」という概念を広げる。その第一歩として取り組んだのが、全国47都道府県にアンバサダーを置くことだった。「超帰省」の考え方に共感する人たちがつながり、彼らが中心となって地域ごとに活動を進めていけば、広がりが生まれると考えた。

コロナ禍にもかかわらず、多くの人がやってみたいと手を挙げた。全員、一度は地元を離れ「帰省」した経験があり、外からの視点で地元を紹介できる。すでに『超帰省』的な取り組みを行動に移している人も多かったそうだ。

現在は、全都道府県に合わせて100人を超える人がアンバサダーとして活動している。一つの地域に複数のアンバサダーがいることもあるが、同じ地域で行われてもツアーはアンバサダーによってまったく違うものになり、違う魅力を参加者に伝えることだろう。

コロナ禍ではアンバサダーの活動は、SNS上の「超帰省名鑑」から発信されていたが、行動制限がなくなれば、アンバサダー同士のつながりも活発になりそうだ。三人も「各アンバサダーの地元に行ってみたいですし、『こんなツアーを企画したい』という相談もきています」と、今後のアンバサダーの活動に期待している。

原点は忘れずに、地方自治体などとも協力。

20年には未来に向けた価値創造活動を応援する『SHIBUYA QWS』が主催するチャレンジプロジェクトに応募し、その活動を加速させている。

同時に地方自治体や観光協会、企業などから、「関係人口」を増やすために「超帰省」を活用したいという問い合わせが増えている。

ただ、そう簡単なものではない、と守屋さんは考えている。「僕たちは友人同士でやっているからうまくいっているという面が大きいと思います。表面的なコンテンツだけを使っても、そのまま関係人口につながるとは思えないですね」となかなか厳しい。

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『SHIBUYA QWS』のチャレンジプロジェクトに応募し、「超帰省」のプレゼンをする三人。
一方で、大分県中津市の耶馬渓エリアや新潟県の村上エリア(村上市、関川村、粟島浦村)では、自治体や観光協会と一緒に超帰省ツアーを運営し、手応えを感じている。ツアーの参加者からは、その後何度も中津市に通う人が出ている。また3回ツアーを行った村上市では、参加者らたちと地域の人たちの間に友達に近い関係が生まれ、その後につながりそうだ。
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耶馬渓エリアのツアーでは、大分県中津市の観光協会などとコラボ。アンバサダーの松本太さんが、祖父母の暮らしを元にしてプログラムを作成し、祖父母の家訪問(左下)や、川でとれた鮎を塩焼き(右下)にする竹串づくり(右上)、戸外でのランチ(左上)などを楽しんだ。
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新潟県村上エリアでは、自治体や地元の地域づくり団体とコラボし、3地域で計3回実施した(左下)。粟島浦村へはフェリーで渡り(左上)、魚を使った島料理(右上)や土地神様へのお参り(右下)など、観光情報では出てこないスポットや島の暮らしを体験した。
こうしたツアーが成功するポイントは、原点を忘れないことだ。「超帰省」のキモは友達を連れていくこと。自治体のツアーでは事前に参加者同士がオンラインで顔合わせし、関係の下地をつくった。そして、地域のアンバサダーが軸となり、その個人的な視点で地元を紹介することが欠かせない。
もうひとつ大切にしているのは、ツアーの参加者はお客さんではない、ということ。「友人を連れた帰省なので、食事の後片付けも手伝いますし、布団も自分で敷きます。帰省するって、そういうことですよね」と守屋さんは笑う。

信頼関係をベースに地域と出合う。

こうした旅は、地域とのどんなつながりを育むのだろうか。たとえば、東京で天気予報を見ていても、大分の天気が気になる。ささいなことかもしれないが、こういう気持ちが、それまで関係のなかった地域とのつながりを意識する一歩になるのかもしれない。
原田さんが地元に根岸さんと守屋さんを連れていったとき、「東京と静岡が仲良くなった気がした」と言っていた。根岸さんや守屋さんにとっても、「焼津は知らない土地ではなく、親近感の湧く土地となった」という。こうした変化をもたらしてくれるのが、「超帰省」であり、そこから生まれる地域と人とのつながりを3人は「信頼関係人口」と呼ぶ。
友達同士の信頼関係があるから、友達の地元は、自分の地元と思える。そんな気持ちを育んでくれる超帰省が広がれば、日本中に帰省できる場所が増えていく。3人の目標は、「この言葉が広まり、『広辞苑』に載るくらいのカルチャーにすること」だそうだ。今回の取材で、これはそう難しいことでもないのかもしれない、と思うようになった。

『超帰省』のメンバーが今、気になるコンテンツ。

Radio:COTEN RADIO
Apple Podcast、Spotify、YouTube、
「世界を客観視すること」「今存在しているものが絶対ではないと認知すること」の大切さを教えてくれるラジオ番組です。間接的にも、今やっていることにつながると思います。(根岸亜美)
Radio:GOOD NEIGHBORS
J-WAVE
ナビゲーターのクリス智子さんとゲストとの会話が、近所の人同士のおしゃべりのようでおもしろい。クリスさん(=主催者)がいちばん楽しんでいるところが、「超帰省」の考え方と通じます。(守屋真一)
Book:笑える革命
小国士朗著、光文社刊
多様なソーシャルプロジェクトを手がけてきた著者の視点は勉強になります。とくに「中途半端なプロより熱狂的な素人」が社会課題の解決の糸口をつくるという言葉を大切にしています。(原田稜)
photographs by Mao Yamamoto text by Reiko Hisashima

記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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