学校空間から町の持続可能性を考えてみる。
何がすごいか。まず教室が普通じゃない。オープンモールという幅広の中廊下に対して完全に開かれたつくりをしている。単にオープンにするだけでなく、「デン」や「クワイエットルーム」などの小空間を用いた多様な場所性のしかけがあり、施設というよりも家のような居心地のよさである。低・中・高学年ごとに異なる周到な空間デザインが施され、体育館が楕円形であるなどあらゆる個所が緻密に設計されている。そして画期的な空間設計に応えるようにして熱意のある教育者が集まり、オープンスクール型の画期的な教育が展開されていく。開校当初の写真からも多様な活動の受け皿となっている雰囲気がよく伝わる。
ハードとソフトの連携による斬新な教育空間がつくられた結果、驚くべきことが起きる。打瀬小学校に通わせたいという移住者が相次ぎ、住所を借りての越境入学など社会問題にもなっていったという。
先日、私が建築を教えている大学の新入生に建築学科への入学の理由を聞いていたところ、一人の学生がこの打瀬小学校を理由に挙げた。彼は「自分が通っていて、建築デザインによって、まさに社会は変えられるのだ」という実感を、打瀬小学校の教育空間から教わったのだと言う。
各地で子育て世代の移住促進を図りたいという声を耳にするが、もし本気でこれに取り組むのであれば、小学校の空間からまず変えてみることを強くお勧めしたい。
住所:千葉県千葉市美浜区打瀬1-3-1
施工年:1995年