ソーシャルでエシカルな関心をもつ人を惹きつける、街の中に広がる学びの場「ソーシャル系大学」。今回は、まちづくりや生涯学習の実践で注目されている2つの概念「プレイスメイキング」と「シビックエンゲージメント」について考えたい。くすぶる空間(space)から心地よい場所(place)へ。これまで建築学の中のノウハウとして語られてきたプレイスメイキングを、学びという観点から考えたい。
まちづくりや生涯学習の実践で注目されている2つの概念。
2011年以降、日本社会では、暮らしを自分たちの手に取り戻そうとする大きな流れが生じている。人口減少社会や地方創生といった政策の言葉も導入され、公共空間の再生にも関心が集まっている。「プレイスメイキング」とは、「多様な属性の人々やアクティビティを許容する『プレイス』を生み出し、都市に豊かな暮らしの風景をつくるための方法論」である(『プレイスメイキング』園田聡著/11頁:学芸出版社2019年刊)。誰かが何かの利害に基づいて設計した計画を追認するのではなく、住宅も、街路も、施設も、公園も、広場も、水辺も、隙間も、その場を利用する人たちが知恵を持ち寄れば公共空間が生まれ変わるというまちづくりの論理である。
このような考え方は20世紀半ば、モータリゼーションに反対する動きの中で形成されてきた。建築家のケビン・リンチは『都市のイメージ』(1960年刊)において、人々が都市をどのように認知し、理解しているのかを調査しヒューマンスケールの重要性を主張した。作家のジェイン・ジェイコブズも『アメリカ大都市の死と生』(1961年刊)を著し、歩いて楽しい街路の条件を生き生きと描き出した。1980年代、日本では好景気を背景に装飾性の高いポストモダン建築が流行したが、欧米の都市では、経済の低成長という条件下で公共空間の再編を迫られ、都市計画を見直す動きが見られるようになる。社会学者W.F.ホワイトは『The Social Life of Small Urban Spaces』(1980年刊)において、ビルの谷間にある噴水や街路のベンチなどで、どの属性の人々がどんな行動をとるのかを観察し、人々が滞留する場の特徴を特定した。建築家のヤン・ゲールも『建物のあいだのアクティビティ』(1987年刊)において、挨拶や会話、コミュニティの活動や人間観察など、自分と他者の両方が存在して成り立つ「社会活動」が都市の豊かさに関わると指摘した。家庭と職場ではない第3の場所の重要性を指摘するレイ・オルデンバーグも、『サードプレイス』(1989年刊)で人間らしい暮らしのあり方を論じている。1990年代にはこのようなニューアーバニズムが理論化され、形態規制のガイドラインを基礎づける体系として発展した。2000年代以降は、戦略的都市主義(tactical urbanism)と称されるゲリラ的な手法が一般化し、都市の隙間を活用したポップアップやDIYがカフェ、ナイトマーケット、芝生、ピクニック、花壇、ベンチ、屋台村を次々と出現させている。
ただし流行が一段落した現在、まちづくりに対する関心は人々の関わり方へと移りつつあるようだ。どのようにすれば建築家やディベロッパーやコンサルタントではなく、その街に暮らす人々が街の主役として真ん中に躍り出るのか。
「シビックエンゲージメント」とは市井の人々が身近な政治に関わることを意味する言葉である。その街にとってのベストな選択肢を選びとるには、人々が紡ぐ学びのコミュニティとの接続が必要となる。各地のソーシャル系大学は、そのようなシビックエンゲージメントの重要な一部として、街への関わり方を普通の人々に実装する機能を果たしている。