著書『プレイスメイキング』で都市における場づくりの方法をていねいに示す園田聡さんが、インスパイアされたり、自分のスタンスを再認識させられた本をピックアップ。「ウェルビーイングな場づくりは、空間だけ格好よくてもだめ」と本質を探る大切さを説いています。
『ハートビートプラン』取締役|園田 聡さんが選んだ、ウェルビーイングを感じる5冊
まちづくりや都市計画の仕事をしているので、「どのまちが一番好きか?」と聞かれることがありますが、僕は「歌舞伎町(東京都新宿区)」と答えます。理由は、語弊を恐れずに言うと、社会からドロップ・アウトしたような多様な人たちを懐深く許容しているまちだから。匿名性があり、いい意味で他人に無関心で、多くのことは自己責任ですまされます。少しでもはみ出すと排除される田舎的な社会よりもある意味、健全だと僕は思っています。
また、歌舞伎町は意外にデザインされたまちでもあります。東京大空襲によって歌舞伎町があった辺りも壊滅状態となり、戦後に復興するのですが、その際に石川栄耀という都市計画家が再生計画を実施しました。石川は盛り場の研究者でもあったので、区画整理などを進めると同時に劇場や映画館を誘致しようとしました。その一つが歌舞伎座だったので「歌舞伎町」という町名になりましたが、誘致は失敗したため町名だけが今も残っているのです。
石川は歌舞伎町を文化的な繁華街にしたいという設計思想を持っていました。今は解体された『新宿コマ劇場』や『新宿ミラノ座』といった演劇施設が中心にあり、周辺にはそれぞれの土地のオーナーが雑居ビルを建て、商売を始めました。店の間口は狭く、あの規模のまちとしてはヒューマンスケールな印象で、少し歩くと次の店、次の店と現れる楽しさがあります。T字路も多く、突き当たると右か左に曲がって、さらに進むとまた突き当たって右か左かという迷路に迷い込んだような構造。誘い込まれるようなワクワク感もあるのです。
そんな歌舞伎町について書かれたのが『生き延びる都市』。この本を通じて僕が伝えたいのは、多様性のある場づくりです。歌舞伎町はまさに多様性の宝庫で、多様性を認めることは多くの人のウェルビーイングの実現につながるとも考えます。
多様性のある場づくりにまず必要なのが観察です。徹底的に観察することで、その場にどんな人が訪れているか、どんなふうに過ごしているか、あるいは、なぜ人がいないのかという理由を探ります。やがて、その場に社会の様相が立ち現れ、さらに、場の本質も見え隠れしてきます。本質を捉え、現代的な価値を見出しながら、どういう場をつくることがもっともふさわしいのか見定めていくのです。『CITY 都市という劇場』は、そんな場づくりのための観察の重要性を説いています。