地道に、壮大に。新たな価値を提案する、『道の駅たがみ』。

特集 | 道の駅入門 | 地道に、壮大に。新たな価値を提案する、『道の駅たがみ』。

2021.11.25

新潟県・田上町に昨年、『道の駅たがみ』が開設された。人口約1万人の町にできた道の駅は、存在自体が町のメディア。町の外だけでなく、地域の魅力と文化を次世代へと伝える場所になることを目指しています。

まずは、町の人に道の駅のファンになってもらいたい。

 約78万人の都市・新潟市に隣接して田上町はある。人口はおよそ1万人。新潟市在住者でも田上町の位置を知らない人が多いと聞くが、2020年10月に『道の駅たがみ』がオープンして以来、順調に来場者が増え、今年7月には来場者50万人(推計)を突破した。
『道の駅たがみ』には、開店と同時に多くの人がやってくる。朝採りの野菜や果物を買い求める地元の人を中心に、町名産の梅を使ったかき氷やソフトクリームを頬張る人、温泉旅館の料理長が監修した食堂の食事を楽しむ人、町内外のお菓子屋とコラボしてつくったオリジナル商品を買い求める人、ひたすらのんびり休憩する人など、過ごし方はいろいろ。共通しているのは、みんなのーんびり、心地よさそうに過ごしているということ。ここが道の駅だということを忘れてしまうほどに。

町の生産者の畑へと道の駅スタッフが出向き、コミュニケーションをとりながら出荷してもらう野菜は、良質のものが集まり道の駅の目玉のひとつに。

 その心地よさを生み出すために日夜頭を捻り、広告塔となっているのが、『道の駅たがみ』駅長の馬場大輔さんだ。「いつでもいる」と思えるほどお客さんから見えるところにいるようにしたり、新商品のポスターにアイコン的に登場したりと、自らが顔となり道の駅を発信。お客さんから「お久しぶり」「昨日テレビ見ましたよ」などと親しげに話しかけられている馬場さんは、道の駅を「町のメディア」だと考える。
「いいものをつくっているのに、これまであまり情報発信をしてこなかった田上は、色でいうと真っ白。何色にも染まっていない分、自分たちで色付けをして発信すれば、ファンを増やしていける伸びしろがある」と考えている。
 ファンづくりは身近から。道の駅のコンセプトに掲げる「近きものよろこびて、遠きもの来る」という孔子の言葉のとおり、まずは地域の人に満足してもらいたい。そのために地域の人が誇りに思える自慢をつくりたいと考えた。実は、馬場さんが駅長に、長田明子さんが副駅長に就任したのは、道の駅開業の半年前。準備期間が少ない中で最初に決めたことは「町内外のプロフェッショナルと手を組むこと」だった。
 馬場さんはいう。「これまでは町内で完結することが多く、田上は”ガラパゴス“状態。枠をはずして町内外の人を結びつけながら、地域の魅力を掘り起こし、つくっていきたいと思ったんです」。

和やかに話す馬場駅長(右)と長田副駅長。

 そうしてまずパートナーに迎えたのは、新潟市内で地域に根ざしたものづくりを行うクリエイト集団『hickory03travelers』だ。ロゴやパッケージ、webサイトのデザインだけでなく、店舗デザインや販売方法、さらには道の駅をどのような場にしていくかといったような、ブランドマネージメントも一緒に行っていった。
「地域にどういう効果を与えられるかが大切なので、見せ方を含めてつくり込むことにしたんです。たとえば古くから愛されている町のお菓子屋の既存の商品を、どう変化させるか。手を組むことによって、より収益を出せることを提示したかった」と馬場さんは振り返る。そうして町のお菓子屋『小柳菓子店』と『hickory03travelers』と一緒に、もともとある温泉まんじゅうをリ・ブランディング。茶色だった温泉まんじゅうを、田上町の人たちが大好きな「護摩堂山」に咲くあじさいをイメージした「紫」「ピンク」「緑」の3色にして、餡の味もバリエーションを加えるとともに、パッケージも刷新。すると、一日に3回蒸して納品するほど、道の駅を代表する人気商品となった。
 田上町でよく栽培される梅の品種「越の梅」を使ったオリジナル商品も一緒に開発。この夏も「うめ味噌ソフト」の販売を開始した。「田上は新潟県で2番目の生産量を誇る梅の産地。この町の人は、そのことを世界中の人が知っていると思っているけれど、町外の人にはあまり知られていない現実があった。発信し続けないといけないんです」と馬場さんはいう。
 副駅長の長田明子さんは『情報発信 休憩施設棟』に常駐して、必要な人に町のあれこれを提供。「やればやるほど手応えがあります。町の飲食店や見どころをまとめたマップも発行したいと思っていて」とうれしそうに話す。また、『情報発信 休憩施設棟』にはその名のとおり休憩スペースもあり、「用事がなくても、ここは居心地がいいからと毎日やってきてくださる町の方もいます」と顔をほころばす。まさに「近きものよろこびて、遠きもの来る」の理想的な関係が生まれはじめている。

地元で愛される温泉まんじゅうを、あじさいをイメージして道の駅用にリ・ブランディング。こし餡、白餡、抹茶餡がある。

新しい価値を生み出し、次の世代へとつなげる。

 こうした関係性づくりの背景には、デザインの力も一役を買っている。山の稜線と動物が描かれたロゴマークは、ゆるく、かわいく、ほほえましい。さらには、アクリル板にプリントしたあじさいの写真をつけた風鈴を回廊に吊るすなど、季節ごとのインスタレーションも行っている。「これらはコミュニケーションツールでもあるんです」と馬場さんは話す。「『このかわいい動物、なんだろう』と思ったお客様には、『これは「護摩堂山」という田上町にある山と、そこで暮らす生きものをイメージしているんです』とスタッフが教えてあげられる。『風鈴きれいね』と言われたときには、『隣接する新潟市秋葉区のガラス工房です』といったこともお伝えできる」。
『hickory03travelers』代表の迫一成さんはいう。「地域が尖っていないから、デザインに隙間があるといい。かちっとしていないこと、押しつけがましくないこと、かっこつけすぎないこと。あえて境界線があいまいであることを目指しました」。
 そしてなんといっても来場者との関係性づくりを支えているのは、道の駅のスタッフたちだ。求人で「田上を楽しくしたい人」を募集したら、元・看護師や元・職人など、いろいろな分野のエキスパートたちが集まった。職人魂で商品を開発したり、接客の方法を考えたりと、楽しみながらスタッフたちが仕事をしているのも、道の駅の居心地のよさへとつながっている。「スタッフ全員の一瞬、一瞬の対応の結果なんですよね。人のファンになってもらって、『田上っていいね』と思って帰ってもらいたい。結局はスタッフたちの総合力だと思います」と馬場さん。

山の稜線+動物が描かれたロゴマーク。稜線はわざと荒さを残して、整えすぎないようにしている。

 そうして生み出した賑わいの、さらに先を馬場さんは見ている。町の価値は新しくつくれるんだということを地域の子どもたちへ伝える場所に道の駅をしたいと考えているのだ。今、計画しているのは、町の中学生たちと地元のアーティストが一緒に、町から出る竹の廃材を使ったアート作品をつくること。「アイデア次第で価値をつくれるんだということを身をもって知ってもらいたい」と目を輝かせる。
 道の駅のオープン当初は新しい取り組みに懐疑的だった人たちも、この場所に賑わいが生まれているのを肌で感じて、だんだん前向きになってきたという。「道の駅が町の人のチャレンジの場になってほしい。そしてみんなを包むやさしい道の駅でありたい。地道にコツコツと、だけど壮大な視点をもって進んでいきたいですね」。道はどんな場所へも、次の世代が活躍する未来へもつながっている。

中央にあるのが『道の駅たがみ』。周囲は田園に囲まれている。

『道の駅たがみ』
新潟県南蒲原郡田上町原ヶ崎新田3072番地1
https://michinoeki-tagami.jp

photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kaya Okada

記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。