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特集 | 道の駅入門

進化を続ける『道の駅川場田園プラザ』という存在。

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『道の駅川場田園プラザ』を運営する『田園プラザ川場』社長の永井彰一さんは、「私は道の駅を運営しているつもりはありません」と言い切る。いったい、どんな道の駅を目指しているのだろうか? 訪ねてみた。

目次

約7割がリピーター。目指す施設はあの……!

 群馬県・川場村という人口3184人の山間の村に、年間約200万人(2020年は新型コロナの影響で約175万人)もの人々が訪れる施設がある。『道の駅川場田園プラザ』だ。約6ヘクタールの広い敷地に、地元産の素材を使ったメニューを提供する飲食店や、新鮮な農産物を販売するファーマーズマーケット、体験コーナーなど多彩な施設が立ち並んでいる。多彩であるだけでなくバージョンアップも早いため、来場者は、「こんなものもあったのか。今度来たらこれを食べよう」と、もう一度来たくなる新たな”ワクワク感“を家に持ち帰ることができるのも人気の理由だ。

「約7割がリピーターのお客様。年間5回以上来られるコアなリピーター客は約5割おられます。コアなリピーター客は、次に来るときの楽しみを探しながら遊んでおられます」と、運営する『田園プラザ川場』の社長・永井彰一さんは話す。しかも、来場者の約7割が県外客。首都圏から車で1時間以上かけてリピートしたくなるほど、たくさんの新しい魅力にあふれているのだ。「東京ディズニーランドのリピーター率は9割以上と言われています。私はあのような、高い入園料を払ってでも何度も遊びに来たくなるエンターテインメント施設を目指しています」。

 もちろん、『道の駅川場田園プラザ』にミッキーマウスはいないし、派手なアトラクションもない。「入園料もありませんが、首都圏から高速道路で往復1万円もかけて283円の名物ふわとろ食パンを買いに来られるお客様が大勢おられます。目指すのは、その期待値に応えられる商品づくりやサービス、笑顔にあふれた接客です」。

 一流のサービスやおもてなしを、いかなる形で『道の駅川場田園プラザ』に落とし込むか。永井さんと約140人のスタッフ全員は常に考え、実践している。

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虚空蔵山の麓の雑木林を開いてつくった『道の駅川場田園プラザ』。当時の木も残り、自然を感じながら過ごせる。外のテラス席は犬同伴もOK。

おもてなしを向上させる、1000項目の指摘事項。

 一流のおもてなしを実践するために行われているのが、2か月に1度の「経営戦略会議」だ。そこで、永井さんから「指示・指摘事項」が伝えられるが、その数、年間約1000項目。「週末は自ら場内や店舗に足を運び、改善点を探しています」と、『そば処 虚空蔵』の例を挙げる。以前のメニューには、ざるそばともりそばがあったという。ご存じのとおり、その違いはそばの上に海苔がのっているか、のっていないか。ある時、スタッフがそばの上にのった海苔を取り除いているのを目にした永井さんが、「何してるの?」と声をかけると、「もりそばにかかった海苔を取り除いているのです」と。もりそばにのりがのっていてはいけないのだ。その出来事は早速、「指示・指摘事項」に。「あんな無駄な仕事はない。そばにかける海苔やネギなどの薬味はお好きなだけ使っていただけるようにテーブルに常備しなさい」と指示。そして、ざるそばともりそばをやめ、せいろそばに統一した。
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天ぷら付きせいろそばは、『そば処 虚空蔵』の人気メニュー。川場村産を含む群馬県産のそば粉を丹念に手打ちしたそばと、半年以上、貯蔵庫で保存することでまろやかな味わいに仕上がったつゆが自慢。
 あるいは、丼のご飯。『麺屋 川匠』のかわば丼は、鶏の唐揚げがのった丼。唐揚げはもちろん、川場産コシヒカリの「雪ほたか」のご飯がおいしいと人気だ。「丼にはホクホクのご飯をよそいます。炊きたてを用意し、少し時間が経ったご飯は電子レンジで再加熱して丼に。熱々のご飯が人気の秘訣です」と、ご飯の温度にまで気を配るよう改善した。すると、ファーマーズマーケットで販売している「雪ほたか」もたくさん売れるという相乗効果が生まれたそうだ。

 永井さんからだけでなく、スタッフ側から挙がる改善項目もある。サービスやおもてなし、あるいは新規商品や新規施設の開発など常に新しく、前よりも居心地のいい道の駅になるよう努めている結果が、リピーター率のアップにつながり、年間約20億円を売り上げる道の駅に成長させているのだ。

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『麺屋 川匠』のかわば丼は、軟らかくジューシーな鶏モモ肉を使った自家製唐揚げに、地元のコンニャクを使った特製タルタルソースをかけたオリジナルの丼。唐揚げはもちろん、熱々のご飯がおいしさの秘密。

400人以上が登録する、ファーマーズマーケット。

 1993年にミルク工房やファーマーズマーケットからスタートし、施設を増やしながら96年に道の駅になった『道の駅川場田園プラザ』。以前から村が掲げていた「農業プラス観光」という理念を実現しようと、期待されてつくられた施設だった。

 しかし、期待とは裏腹に、2007年に赤字に転落。そのとき、事業の立て直しを村から一任されたのが永井さんだった。造り酒屋『永井酒造』の5代目として多くのヒット商品を生み出した醸造家、そしてビジネスマンとしての手腕が買われた。

「赤字に陥った理由は、第三セクターにありがちなコスト意識の欠如や、自分の部署以外は関係ないという風潮。集客の工夫やサービスの向上を図ることもなく、マンネリ化していったことが原因です」と厳しく指摘する永井さんは、1000項目の「指示・指摘事項」を実践し、スタッフに東京ディズニーランドを訪問させて一流のおもてなしを体得させるなど、徹底した意識改革を推し進め、商品やメニューの開発にも力を注いだ。その結果、リピーター率7割という道の駅に生まれ変わったのだ。

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村内の主に小規模農家が育てた農産物や、アイデアを凝らしてつくった加工品などが販売されているファーマーズマーケット。「ナス、おいしいですよ。僕はここのしか買いませんから」と永井さん。
 ファーマーズマーケットは年間約6億円を売り上げる施設になった。新鮮な野菜が所狭しと並べられているが、「生産者のほとんどが兼業農家。家庭菜園から始めた新米農家もおられます」とのこと。川場村は83パーセントが森林で、田畑を耕せる平地が少なく、大規模な専業農家はほとんどいない。「それがよかった」と永井さん。「大規模農家にとってはファーマーズマーケットへの出荷は非効率的。小規模農家や新米農家が少量ずつ出荷でき、副業として少しの収入を得るための受け皿として役立っているのだと思います」。3200人ほどの村民の400人以上がファーマーズマーケットに出荷登録をしているというから驚く。その売り上げは約4億円、うち15パーセントが手数料で、約3億4000万円が農家に分配される。まさに、「農業プラス観光」による地域経済の活性化が実現している。

 また、都道府県が策定する広域的な防災計画に位置づけられている道の駅から選ばれる「防災道の駅」への認定や、1981年から続く川場村と東京・世田谷区との縁組協定による交流など、さまざまな役割も果たしている。「これからも、ここを訪れたすべての人が笑顔になるよう取り組んでいきます」と場内を見渡し、目を細める永井さん。『道の駅川場田園プラザ』は今日も進化を続けている。

『道の駅川場田園プラザ』
群馬県利根郡川場村萩室385
www.denenplaza.co.jp
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2021年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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