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日本最古の道後温泉にキーパーソン集結。最先端の議論が発信されました。〜関係人口サミットin道後温泉レポート〜

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日本最古といわれる、愛媛・道後温泉。今その「地熱」が再び活発化しています。2014年の芸術祭「道後オンセナート2014」以降継続的なアート事業がまちづくりに貢献してきた道後温泉地区では、新たに3年間にわたる「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」が進行中。今年度はすでに保存修理工事中の道後温泉本館のを覆う工事用仮設物をキャンバスとした大竹伸朗さんによる『熱景/NETSU-KEI』や、「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」の中庭一面を彩る蜷川実花さんによる『飛鳥乃湯泉インスタレーション』などの作品がエリア内に展開されています。さらに全国から公募した50人のクリエイターが道後に1週間滞在し、街・人との多様な関わりの中で得た刺激を自らの表現で還元する「クリエイティブステイ公募プログラム」も新たな熱源となり、アフターコロナの道後温泉での滞在スタイルの可能性を広げようとしています。
この動きの中、プロジェクト初年度の目標である「関係人口の構築」を議論し地域内外に発信すべく「関係人口サミットin道後温泉」が開催され、指出一正『ソトコト』編集長をモデレーターに、全国から地域づくりのキーパーソンが集いました。
サミット第一部では各パネリストが自らの取り組みを次のように紹介しました。
三度目の道後訪問で自らを「道後温泉の関係人口」だと言う片岡大介さんは、志賀直哉『城の崎にて』ゆかりの宿、城崎温泉・三木屋の10代目主人。城崎は湯治場であった歴史を踏まえ、町全体が1つの宿というコンセプトで成り立っていると話し、また城崎のみで購入可能で特徴的な装丁の書籍を発行するNPO法人を立ち上げ「地産地読」の出版をしてきた経験から、作家や外部スタッフと地域との関係構築が町の一体感を生んだと述べました。
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「ローカル個人プレイヤー」としてこの場に呼ばれたと言う周防苑子さんは、東京からUターン後、地元滋賀で廃ガラスと植物をかけあわせたプロダクト「ハコミドリ」で作家となり、まだ地方発のクラウドファンディングが珍しかった頃に当時滋賀県内最高額を集め、コンビニ跡地をリノベーションしたアトリエカフェ「VOID A PART」を拠点に活動しています。自身を振り返り、廃材やありきたりな植物を作品化するなど視点の転換が活動を支えてきたと話します。
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心を温かくできるよう日々の生活をネタにする「生活藝人」を自称する田中佑典さん。日本と台湾間のカルチャーコーディネーターとして活躍する一方、地域の生活資源を味わう、観光と暮らしの中間の旅行スタイル「微住®️」を提唱、実践しています。またコロナ禍以降、地元・福井中を徒歩で巡る「微遍路」を実行。時間に余裕を持ち、あえて歩くことで生まれる旅の不便さを享受し、豊かさを見出しています。
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文化的景観の保全に取り組み、クールな空間デザイナーを目指していたと言う木藤亮太さんは宮崎県日南市の「猫すら歩かない」と揶揄される油津商店街の再生をきっかけに地域にべったり寄り添ったまちづくりの道を歩んできました。福岡県那珂川市に拠点を移し、ベッドタウンの駅ビルの再生や、昭和からある喫茶店を残すべきものとして事業継承するなどしています。九州への移住希望者のドラフト会議などユニークな仕掛けで、若者の心に火をつけ、楽しみながら関係づくりを行なっています。
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『田舎暮らしの本』(2022年2月号・宝島社)による「2022年版 住みたい田舎ベストランキング」5万人以上20万人未満のまちグループ、若者世代・単身者部門で全国第1位の愛媛県西条市を拠点とするフリーランスデザイナーの日野藍さん。東京・大阪で働いた後にUターンし21年3月まで7年間市役所で広報業務を担当。「発信する側がまちを好きでないと」と言う日野さんにとって市の広報業務はまちを知ることができるぴったりの職で、市内全校区を3年間かけ徒歩で回るなどもしました。携わったシティプロモーションのキャッチコピー「LOVE SAIJO まちへの愛が未来を作る」は「住民が自分たちの言葉で恥ずかしがらずにまちのよさを伝えられる」ことを重視し、関係人口へのアプローチも視野に入れたものにしたと言います。
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開催地・道後を代表して登壇する山澤満さんは、地元旅館や商店街だけでなく、それ以外の地元住民や関係者も含んで道後温泉を考える場としてつくられた「道後温泉誇れるまちづくり推進協議会」の副会長です。平成4年の設立以降のまちづくりの歴史、観光地としての変化を振り返りました。道後は「すでに“見つけられている”まち」である一方、クリエイティブステイの滞在者には「まだ“見つけられていない”もの」がたくさんあると気づかされたと言います。まだ見ぬ街の資源に磨きをかけ、楽しんでいきたいと話しました。
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自己紹介の後、サミット第二部では指出編集長がテーマを提示しトークセッションが行われました。
まず交流人口と関係人口の違いを踏まえ、関係人口は単純に数が増えればいいのかと言う問いかけに対し、登壇者からは「関係人口との関係性の深さ(片岡)」や、「関係人口は街の足りないポジションに必要(田中)」「その人の行動変容を生む力(日野)」などといった、数よりも関係性の質が重要だとする意見が述べられました。
次に指出編集長から関係人口の最新トレンドについての紹介がありました。一つ目は「地域内関係人口」。これまでは都会の人と中山間地域との関係が主でしたが、今その距離が縮まっていて、たとえば松山市内の誰かが道後のまちづくりに関わるような例も関係人口と呼べるそうです。この2年、コロナ禍で増えています。二つ目は瀬戸内海沿岸や信濃川流域、など行政区分の範囲を超えた「流域関係人口」です。さらに地域とオンラインでのやり取りが一般化したことで、「オンライン関係人口」も増えています。
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この分化した3つの関係人口について感想を求められると、「道後のお客さまには、道後をハブにして瀬戸内を巡りたいという思いがある(山澤)」「住民票の場所ではなく実質的な人のつながりが地理的な要素とつながってくるというのをヒシヒシと感じる(木藤)」などの発言がありました。
山澤さんの「道後はハブ」という言葉を受け、指出編集長は続けて「ハブになるには何が必要か」と問いました。
片岡さんは世界的にも著名な劇作家である平田オリザ氏がディレクターを務める「豊岡演劇祭」を例に挙げ、「それによって市内に城崎温泉への観光だけでない滞在が生まれだした」と話しました。
また木藤さんからは「道後は四国にとって温泉観光地という非日常だけでなく、日常の価値を伝えるインターフェース(接点)となる関係案内所のような場所だ」という意見もありました。
次のテーマは街が変化していくバランスについて。今あるものを大事にしながら変わっていくには何がポイントなのでしょうか。片岡さんは城崎温泉が戦後、日本の多くの温泉街とは異なるルールで発展したことを紹介します。
戦後、日本の温泉地が湯治場から観光地へと転換する中、全国の温泉宿はお風呂や売店を抱え自らの利益を最大化しようとしました。しかし城崎では宿の規模によって浴槽の大きさに制限をかけ、地域全体の利益を持続可能なものとしたのです。結果、浴衣で散策する城崎の街の姿が今も続いています。
これに対し指出編集長は「城崎は他者との関係性を大事にした結果、街の人たちと街に来る人たちが互いにイーブンで街を楽しむような場所になっている」と述べました。
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次に「関係人口を迎え入れる側がどうすればいいのか。どう心構えをしているか」ついて意見が交わされました。
田中さんは「『うちの街が何々』ではなく『うちの街“も”何々』として共通点を見出すことが関係構築になる」と話し、また「モテる人には隙がある」として、隙や弱点を見せることが街がモテることになると述べました。これに対し指出編集長から「ここで言う隙とはまちづくり用語で『関わりしろ』と言えるものだ」と補足がありました。
「関係人口になりたい人はおしゃべりがしたい人」と分析するのは日野さん。受け入れ側に話しかけやすい雰囲気作りや人とのつながりを作るアクションをして欲しいと話しました。また20代前半の地域への興味の高さに触れ、彼らに届く情報発信が必要と述べました。
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続いてのテーマは「まちを面白がる視点」について。どうすればまちを面白がることができるかという指出編集長の問いかけに、「見えないものを楽しむ心(山澤)」「目に見えているものの裏側が見えると面白い(木藤)」「あえて不便な状況を楽しむこと。自分に負荷をかけて付加される価値を『負荷価値』と呼んでいます(田中)」という能動的な態度が重要とする意見がある一方、「まちを面白がる人たちに好きにやらせること(日野)」「ヨソモノに寛容に意見を求める(片岡)」という面白がられるまち側の態度にも通じる意見もありました。
また周防さんは「一石を投じる甲斐があるかどうか」と言い、自らの行動がまちを含む他者にどんな影響を与えられるか、という視点に立っています。
最後に提示されたテーマは未来。5年後、10年後、30年後にどんな街に住んでいたいかについて会場と共に考えました。
各登壇者からは「我々にできることをやりながら次の世代にバトンタッチして、次の世代が活躍できる土壌ができるというのが30年後(木藤)」「西条市の地下水が枯渇しないようみんなで自分ごととして考え、未来に繋いでいきたい(日野)」「地域も街も人もイズムとリズムが大事。イズムは思想、リズムは目に見えないノリやムード。短期間にできないのでじっくりと醸成する。コストパフォーマンスよりも縁を大事にする(田中)」「多様性がローカルでも認められるといい(周防)」「次の100年の為、変えるべきところは変え、変えないところは変えないという選択をしっかりする(片岡)「若い人の芽を潰さない、次の世代に委ねることが、街が残っていく礎になる(山澤)」と、それぞれの未来像が語られました。それらを受け指出編集長は「未来は楽しくあるべきなので、ワクワクする自分や街を作っていければいい」と述べました。
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総括の前に会場から質疑応答が行われました。
「道後や松山、愛媛において変えるべきもの、そうでないものは何だとお考えですか」という質問には、「変わって欲しくないのは人の温かさ。変わらなきゃと思うのは、広い視野で多様な事例を発見して、自分たちのまちづくりに活かすこと(日野)」「例えば道後温泉本館にブームだからと言ってサウナを作ることはやってはいけない。本質的なものを大事にしたい(山澤)」などと回答しました。
さらに「自分は関係人口になりたいと思っています。心がけを教えて欲しいです。また私や友人が関係人口になりたい時、その地域へ何かお土産を持っていくとしたら何が良いでしょうか」という質問には、木藤さんが「モノではなく、自分には何ができるか伝えてください。専門的あるいは高度なスキルでなくても、その街の好きなところ、興味のあるところを伝えてどういう関わり方ができるかを話しあうことが関係人口につながると思います。自分の手の内がお土産」とアドバイスしました。
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最後に登壇者全員で採択された「関係人口サミットin道後温泉」宣言が指出編集長から発表され、サミットは閉幕しました。
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宣言は以下の通りです。
「関係人口サミットin道後温泉」宣言

本日、道後温泉で開催された「関係人口サミットin道後温泉」において、日本各地で関係人口に関わる多彩なプレイヤーが集い、極めて有意義な議論がなされた。

関係人口という概念は、それがなんであるかの議論を超えて、「地域内」「流域」「オンライン」といった新しい傾向が見えはじめていることが明らかになった。

また、関係人口への期待は高まっているが、その評価の軸は、人数すなわち「量」の問題ではなく、あくまでも人が、それぞれ異なる「粒」として地域に関わることが重要との指摘もなされた。

本日語られた様々な事例が、そのままあてはまるまちはない。しかし、関係人口をいかすために、いくつかのコツがあることも見えてきた。たとえば、外からの目線に刺激を受けながら同じ目線で地域を面白がることや、友人としての信頼関係を大切にすることなどだ。

関係人口がまちに現れ、そのまちを楽しそうに歩き、まちの仲間と出会い、まちに関わり、面白いことが起こり、そのまちの人たちが面白いことに自分ごととして関わっていく。

私たちは、関係人口がまちの人とともに未来をつくり、まちを幸せにすることをここに宣言する。

令和4年1月10日
登壇者一同

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目次

サミット前日譚。ランチミーティングではじめまして!

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「関係人口サミットin道後温泉」に先立ち、指出編集長はじめ登壇者らは前日にクローズドトークを行いました。美味しい昼食を囲んでざっくばらんに自己紹介を行い、サミット本番に向けコミュニケーションを図りました。その会場となったのは松山市内のデザイン事務所『NINO』。「道後オンセナート2014」から現在まで現地での制作業務を一手に引き受け「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」松田朋春総合ディレクターの全幅の信頼を得ています。
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松山市在住の料理家・野上彩さんによるお弁当。愛媛産の野菜をふんだんに使う。じゃがいものスープ/サトイモコロッケ/干し柿クリームチーズの春巻/みかんと人参のラペ/平飼い鶏のゆで卵/菜の花おひたし/レンコン甘辛揚げ/ごぼう肉巻き/じゃこ入り大根葉菜めし

次のページ:歴史とアートの交錯する道後温泉をぶらり。

歴史とアートの交錯する道後温泉をぶらり。

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サミット本番当日、登壇者らは午前中道後温泉街をそぞろ歩き。日本最古の温泉の歴史と文化、最先端のアートに触れました。案内人は登壇者の一人、山澤満さん。最初の目的地、第三の外湯である「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉」の中庭『ハダカヒロバ』には蜷川実花さんによる約230点の花の写真で埋め尽くされたインスタレーション作品が展示されています。昼と夜の異なる姿も注目です。
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飛鳥乃湯泉の中庭『ハダカヒロバ』の蜷川実花さんによる「飛鳥乃湯泉インスタレーション」。昼夜で異なる姿を見せる
商店街を抜け道後温泉本館に移動すると、後期保存修理工事用の巨大な素屋根テント膜をキャンバスに愛媛県宇和島市に活動拠点を置く画家・大竹伸朗さんによる作品『熱景/NETSU-KEI』が現れます。ちぎり絵の手法で表現された5枚の原画を25倍に引き伸ばし高精細プリント。道後温泉を発見した白鷺伝説、西日本最高峰石鎚山のモチーフのほか水・熱・光、あらゆるエネルギーをテーマに描かれています。
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本館を半周し本館東側に出ると休憩所「振鷺亭」に到着。ここでは地元松山市在住のテクニカルイラストレーター隅川雄二さんが道後温泉の歴史絵巻をテーマにした作品『道後温泉五如団子』を鑑賞できる他、フィリピン出身の作家・尾野光子さんによるAR作品をスマホで見ることもできます。
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さて一行はかの一遍上人誕生地の宝厳寺を目指します。途中案内人山澤さんのお店「山澤商店」に寄り道。ここはクリエイティブステイによる滞在クリエイターの「関係案内所」にもなっています。
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商店を後にし、上人坂を登るとお寺の目前で交流拠点「ひみつジャナイ基地」に到着。宝厳寺をお参りした後は遊歩道を通り日本三大八幡づくりのひとつと言われる伊佐爾波神社に向かいます。
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松山城を望みながら坂を下り次に温泉の守護神、最終目的地である湯神社へと到着。付近の「道後温泉 空の散歩道」からは先の『熱景/NETSU-KEI』を上空から眺めることができました。
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さて取材班は別日にて日本の伝統芸能、お座敷文化を体験できる道後唯一のお茶屋「華ひめ楼」を訪ねました。団体旅行が減り、コロナ禍も相まって明治から続くお座敷・芸妓文化が危機に瀕しましたが、関係者の厚い支援の元、路地の風情のある古民家を改修しお茶屋として晴れてオープンしたのです。実は華ひめ楼はクリエイティブステイ滞在者が期間中何人も訪れ、交流を通じ互いの表現に刺激を与え合う場となっています。『ハダカヒロバ』での蜷川さんのインスタレーション作品のお披露目の際には舞を披露したり、またクリエイティブステイで滞在した舞踊家・梅川壱ノ介さんとのコラボも行うなどしたりしました。
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女将・美帆さんは当初道後のアートとは距離を感じていたそうですが、一旦関係者になると一気に虜になったと言います。クリエイティブステイ公募プログラムが伝統とアートの新たな関わりを創出した好事例の一つです。
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さて関係人口サミットを締めくくり、松田総合ディレクターは「ある閾値を超えると関係人口が顕在化し始めるだろう、道後温泉はその直前にあると思う。登壇者のみなさんには引き続き道後の関係人口であって欲しい」と述べました。関係人口の最先端の議論を受け、サミット参加者は道後温泉の「地熱」の高まりや新たな可能性を感じました。参加者は今後まさに「みんなの道後温泉 活性化プロジェクト」にある「みんな」の一員となって道後温泉の活性化に関わるはずです。未来に向けより多くの人を巻き込み、さながら道後温泉のお湯のように関係人口が湧き続けることが期待された関係人口サミット。「地熱」が生んだ熱気は冷めることなく、閉幕を迎えたのでした。
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photographs by Shinya Kondo text by Hiroshi Minao

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