あなたの心のガソリンをお入れします。

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 27 あなたの心のガソリンをお入れします。

2022.02.26

ガソリンスタンドでサードジョブを始める。

福井市東郷地区に移住をし、初めての冬を迎える。あるとき、近所のガソリンスタンドが繁忙期を迎えるためアルバイトを探していて誰かいないかという知らせを聞き、僕はこれはチャンスだと立候補をした。
 
ガソリンスタンドで働こうと思った理由は2つある。1つ目に、ガソリンスタンドは地域のさまざまな人が利用する場であり、実は交流の場として最適だと思ったからだ。東郷地区にはコンビニやスーパーがなく、車に乗らない僕でも夏は商店がわりにアイスクリームを買いに行ったり、飲み物も売っているのでちょっとした打ち合わせに使わせてもらったり、テレビも新聞もあるので、勝手に“喫茶GS”と呼んでカフェ使いをしていた。よく小学生の自転車がスタンドの横に並んでいる光景も見かける。

田中家のある通称「小安文青街」にもほど近い、東郷地区の表通りに位置するガソリンスタンド。

ガソリンスタンドは全国どんな地域にもあり、大通りや比較的アクセスしやすい場所にあることが多い。東郷地区のガソリンスタンドも駅前の大通りの角地にある。素晴らしい点は立地だけではない。ここのガソリンスタンドは「セルフ」と書いていながらも手が空いているときは基本的に給油をスタッフがすることになっていて、お客さんとの距離はとても近く、いつもそこには会話が生まれる。中には給油のついでに店内でスタッフとおしゃべりをしてなかなか帰らない人も多い。そのほか、もとは米屋だったということもあり、ガソリン関連の業務以外にも店内でお米や友人のコーヒー豆を販売したり、宅配便の代行もしたりと業務は多角的。実際に働き始めてみて、ここのガソリンスタンドはコスパだけの勝負ではなく、スタッフのみなさんの人間力と時間をかけて積み重ねた信頼関係で商売をしていることに深く感銘を受けた。
 
人員のコストカットで本当にセルフ化していくガソリンスタンドが増えていく中、さら に将来的に電気自動車の普及や、地域の高齢化・過疎化の一方で、地域におけるガソリンスタンドのあり方を再考していくことは、ここ東郷だけではなく全国どの地域にも元々ある地域コミュニティの交流の場として、おもしろい可能性を秘めているのではと思った。

一番左の店長を筆頭に個性豊かなスタッフのみなさん。

“じゃない仕事”で生まれる「暮らしの肥やし」。

2つ目に、これからの働き方として3つ目の仕事“サードジョブ”の可能性を探りたいと思ったからだ。現状「アルバイト」という雇用の形しかないため仕方ないが、“アルバイト”と聞くとその響きから「生活芸人も苦労されてお金に困っているのでは?」と思われるかもしれない。
 
また、もともとアルバイトという言葉はドイツ語が語源で、「ロボットのように働く」を意味する。なんだか言葉の意味合いとしても違う気がしていて、アルバイトに代わる言葉や働き方がないかと考えた。

ガソリンのついでに心のカフェイン補給を行える。

そこで考えたのが第三の仕事、サードジョブだ。本業、副業、それに加えた“異業”といったところだろうか。昨今働き方として増えてきている副業は、本業以外で自分の得意なことをお金に還元できる職だ。僕が考える第三の仕事“異業”は、得意だったり自分のもともとの分野ではないけれど、本業では味わったことのない体験や関係づくりを求めた仕事を指す。まさに“じゃない自分のじゃない仕事”だ。アジア微住でも、各地の滞在中に“タメづくり”を目的に地元のお仕事(きゅうり農家やお茶屋、夜市のステーキ屋など)のお手伝いをすることで地域により関われる仕掛けを滞在中に行った。どんな身分や年齢の人でも自分のもとの分野からズレてみることでそこから新たな“暮らしの肥やし”が生まれ、それが重なりあうことで地域の見えていなかった可能性や、地域で暮らすお互いの関係に厚みが生まれてくると思う。アルバイトくらいの立ち位置だけどアルバイト的な“時給”が目的だけではないサードジョブ/異業を通してより東郷地区のローカルな日常をより深く味わっていきたいと思っている。

「あなたの車と心のガソリンをお入れします」をモットーに、ガソリンスタンドスタッフとしてサードジョブを全うしていきたいと思う。

アイスを求めにやってくる近所の子どもたち。

たなか・ゆうすけ●職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住®(びじゅう)」とは1週間から2週間程度、特定の地域に滞在する“ゆるさと”づくりの旅。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。

【微住 .com】www.bi-jyu.com 【田中オフィシャルサイト】http://tanaka-asia.com

記事は雑誌ソトコト2022年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。