福井県のほぼ真ん中にある丹南(たんなん)地域。実はここ、日本の伝統的なモノづくりと作り手にいっぱい出会える旅の穴場的エリアなのです。新しい時代の旅を体感しに丹南へ!
1500年のモノづくりを知る「新しい旅」。
え、福井って、そんなにいいの?
そんなことを思っていると、福井県のちょうど真ん中にある丹南地域で、新しい旅のスタイル「地域周遊・滞在型観光」を提案しているので、来てみませんか? というお誘いを受けました。それは、一つの地域をゆっくりと、時間をかけて旅し、地元の人の話を聞き、暮らしや文化にふれる旅のカタチだそうです。
福井の「幸福」にも出会えそうです。
丹南地域は1500 年の歴史をもつ越前漆器や越前和紙、ほかにも越前焼、越前打刃物、越前箪笥(たんす)といった伝統的工芸品の産地です。メガネの生産や繊維業も盛んで、それらのモノづくりが、わずか半径10 キロほどのエリアにギュッと集まっている、全国的にもまれな場所だとか。
地域全体は鯖江市、越前市、池田町、南越前町、越前町の5 市町で構成され、海から山まであり、昔ながらの伝承料理やジビエ料理も楽しめます。人と人が会い、コミュニケーションをとることのおもしろさを取り戻したい、これからの時代にぴったりな旅のスタイルを紹介します。
「漆を持ち歩く」をコンセプトに生まれたものは?
この旅でまず訪ねたのは、鯖江市・河和田(かわだ)地区の『土直漆器(つちなおしっき)』です。土直漆器の特徴は、素地作り以外の全工程(下地、中塗、上塗、蒔絵)を社内の工房ですべて行うこと。若手もベテランも、スタッフ同士が互いに意思疎通を図り、伝統技術と新しい発想を融合させたモノづくりを行っています。
「発想の融合から生まれたものの一つが漆のタンブラーです。『漆を持ち歩く』をコンセプトに、漆の質感を日々、気軽に楽しんでもらいたいという思いを込めています。タンブラーならば、スタバに持っていってコーヒーを入れてもらうこともできますし、コーヒー文化は世界中で根づいているので、海外の方にも使っていただけます」と、2 代目社⾧の土田直東(なおと)さん。
ほかにも女性スタッフから出たアイデアで生まれた「ONE」シリーズも好評で、これは朝ごはんを漆器のワンプレートに載せて食べる、がコンセプトです。「スタッフには『何をつくってもいいよ』と言っていて、そんななかから生まれました。あとは工房の隣にある直営店で、お客様と会話をするなかでアイデアをいただくこともあります」。
土田さんはそう教えてくれました。
地元の小学生は「福井」を知っている。
現在、Hacoa でWEB事業部部⾧を務める前田元紀さんも、デザインを学んでいた学生時代、デザイン年鑑で木ーボードのことを知り、「(自分の出身地である)福井でこんなモノづくりが行われているなんて!」と驚き、インターンシップに来たことがきっかけで就職したそうです。
前田さんは、地元の小学校に講演に行くこともあるそうですが「子どもたちに『福井の産業は?』と尋ねたら、みんなが一斉に手を挙げて『和紙』とか、『漆器』『刃物』とか答えてくれました。モノづくりが暮らしの中に根付いているんだなと感じました。それが越前の魅力になっていっているのだと思います」と話してくれました。
この話を聞いていたHacoa の工房とダイレクトストアの向かい側は保育園で、隣接する民家では花壇づくりをする姿が見えたりします。
Hacoa 自身も地続きでまちと一体化していました。
https://hacoa.com/
1500年を「更新」していく。
福井の工芸品などが買えるSAVA! STORE、漆器工房、観光客と産地をつなぐ私設観光案内所、レンタサイクル、そして、TOURISTORE を運営するデザイン事務所『TSUGI(ツギ)』のオフィスが入る複合施設です。
「TOURISTORE では私たちがいいと思った工芸品を売っていたり、来られた方の希望を聞いて、ご興味がある工芸品の産地や工房と直接つなぐことをしています。自分自身が生活で使っているものや、本当に使いたいと思えるものを人に勧められるのはうれしいです」
そう語ってくれた室谷さん。2015 年からTSUGI が毎年開催しているイベント「RENEW(リニュー)」もお勧めしてくれました。普段出入りできないモノづくりの工房を各所で開放してもらい、訪れた人が実際のモノづくりの現場を見学・体験できるイベントです。
https://touristore.jp/
新芽を食べる鹿のお味。
その静かな山あいにある、ジビエ料理店と農家民宿を兼ねた『酔虎 夢』を訪ねました。店主の粕谷典生さん自らがワナ猟で仕留めたイノシシや鹿、仲間との猟で捕ったクマなどのジビエ料理や、山菜などの旬の食材を使った食事が楽しめる店です。
もともと福井市内で料理人をしていた粕谷さんですが、自然が好きで池田町に通っているうちに移住し、10 年少し前に『酔虎 夢』をオープンしました。許可を得た食肉処理施設もあり、仕留めた肉はすぐに丁寧に処理され、おいしく提供されます。
「春は山菜もおいしいですが、新芽を食べた鹿もおいしくなる季節ですよ」と粕谷さんは教えてくれました。
日本海の荒波と、日本水仙が織りなす景色。
また、越前海岸は日本水仙の三大群生地の一つで、栽培される水仙は「越前水仙」として全国に出荷されています。人が自然の中で築き上げてきた水仙畑を含む景観は、国の重要文化的景観にも選定されました。
ここでは、この旅そのものの仕掛け人であるJTB 福井支店の観光開発プロデューサー・石原康宏さんが、「ノカテ」の取り組みについて教えてくれました。
さらに石原さんは「ここでは地域の課題として、鹿による水仙畑の食害被害があります。(池田町の)『酔虎 夢』のようなジビエ料理を提供してくれるところがあれば、鹿の駆除と有効活用が同時に進みます。観光で来られた方にそんな料理をおいしく食べていただいたり、越前ならではの地域性を生かして、越前焼で花瓶を作る体験をしてもらって、その花瓶に水仙を活けるというような、丹南全体をつなげるツアーも企画していきたいです」と話してくれました。
思わず手にとってみたくなるうつわ。
「土肌を生かし、手にしたときにホッとするような日常使いのうつわを、一つ一つ丁寧に作っています」という言葉どおり、どれも思わず手にとってみたくなる、やさしさとぬくもりを感じる作品ばかりです。
コロナ禍以前は、実生窯は基本的に作陶のみで、展示・販売は東京など別の場所で行っていましたが、今は月に1 回だけ、「アイテム展」として展示・販売する機会を実生窯で設けています(開催日はFacebook ページなどで要確認)。
「東京では百貨店で展示・販売していましたが、ここだと裏に山がある感じだとか、その時の季節感もいっしょに楽しんでもらえて、すごく喜んでくれます。私もうれしいです」と新藤さんは話してくれました。
https://www.facebook.com/mishougama
同じ地域でも、谷ごとに、家ごとにそれぞれの調理法がある。
かつて越前屈指の宿場町として栄えた、南越前町の今庄宿(いまじょうしゅく)で伝承料理をいただきます。訪ねたのは、今庄宿の北国街道沿いにある『土の駅 しげじろう』。大正11年に建てられた古民家を活用し、「地元の料理をとことん極める」という食事処です。
この日用意してくれた「伝承料理御膳」は、へしこの笹ずし、ゆり根の梅和え、かぶの蕎麦米あんかけ、むかごのごま和え、鮎の甘露煮、ふきのとうの天ぷらなど、皿数にして18。「冬は一番食材が少ない時季なの」と言いながら出される、豊かなごちそうに圧倒されました。
しげじろうを運営している『土の駅 今庄』社⾧の窪田春美さんは、「おいしく食べてもらうのが一番の楽しみ」と話し、「今庄にはいくつかの谷がありますが、同じ食材でも谷ごとに調理法が違っておもしろい。雪深く、山しかないところだから、限られた食材をどうやっておいしく食べるのか、家ごとに工夫をしてきたのだと思います。茶めしの作り方は、宿場町が栄えていた450 年くらい前、京都から来たお坊さんに教えてもらったものだと聞いています」と教えてくれました。
春には山菜料理のフルコースも楽しませてくれるそうです。
これからは「週末工芸」に力を入れます。
RYOZO 店⾧の栁瀨靖博さんは「越前和紙には1500 年の歴史がありますが、生活文化の中に根づいてきたことに注目してほしい」と話します。そして、「越前和紙を知るには、5 社ほどの製紙所へ行ってみてください。工場の雰囲気も、職人さんの様子も、全く違うのでおもしろいと思います」とアドバイスをくれました。
RYOZO では、新しく紙漉きの体験施設もつくり、紙漉きインストラクターの養成講座も始めました。
「最近は若い方で伝統工芸に興味を持つ方も増えています。多くの人にこの文化を知ってもらうため、『週末工芸』にも力を入れています。一般の方に来てもらいやすいよう、週末にイベントを行ったりしています」と、越前和紙の文化を次世代に伝えていくための決意を栁瀨さんは語ってくれました。
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