だから、「微住」はやめられない。

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 最終回 だから、「微住」はやめられない。

2022.04.26

台湾人と一緒に「微住」して食堂オープン!?

コロナ騒動が始まる約2年前、埼玉県の熊谷市にて「微住」についてトークショーをさせていただいたご縁で、熊谷市にて台湾からの微住を受け入れる話につながった。しかし落ち着くことのないコロナにより受け入れの延期を繰り返し、対象を日本在住の台湾人に変更。ようやく2022年2月下旬から3月上旬にかけて実施することとなった。

2年間もの間「アジア微住」をすることができなかった僕自身、なんだか久しぶりにスーツケースを引き、熊谷駅でメンバーと落ち合う。受け入れホストは埼玉県熊谷市生まれ、地元のキーマンである『PUBLIC DINER』の加賀崎勝弘さん。熊谷市は農業を中心に暮らしの生活資源が豊かで、近年では加賀崎さんを中心に主催した「熊谷圏オーガニックフ ェス」が開催されるなど、食やオーガニックへの関心が強いまちだ。

微住者が地域の“立場”をズラす、混ぜる。

拠点は加賀崎さんの手掛ける「農からはじまる暮らし」がテーマの文化的サロン『THE PUBLIC』。微住中の移動は、基本自転車だ。季節が春へと向かう空の下、宿から荒川の土手を通り、熊谷のまちへと繰り出す。最初はまったく分からない土地も毎日自転車で走ると徐々に土地勘がついてくる。初日にたまたま通りかかった宿のほど近くにある居酒屋は、何度か通うことで馴染みの「一期三会」の店となった。

本州一の小麦の生産量を誇る熊谷。とある日はうどんづくり体験をして、つくったうどんの半分は自分たちで食べ、もう半分は顔見知りになった喫茶店へ。持ち込んだうどんを使ってお店の看板商品のナポリタンを特別につくってもらい、店主や店内にいたお客さんに食べてもらった。また別の日は熊谷で長く続く伝統菓子の「五家宝」づくりの体験をし、できたお菓子を地元のみなさんに差し入れする。地元の食を楽しみながら、お互いがおもてなしをし合う「タメづくり」をしていくことで、地元の人たちとの距離が近くなっていく。
 
普段の暮らしや旅では「旅行者側と地元側」や「客と店」というように一方通行の関係だけど、その向きをちょっと変えたり、双方向にすること、立場を混ぜ合わせることで、普段は見えない地域の景色や味わいを楽しめる。「熊谷微住」最終日は加賀崎さんの運営する『加賀家食堂』にて、微住中に出合った食材や知識を使い、そして微住者たちの台湾人目線の味付けや調理法で「台湾定食」を販売。滞在中にお世話になったみなさんたちにも来ていただき、予想以上の盛況で完売。地域のリアルな仕事の現場で微住者も参加し、交わり合う光景……、以前行った「台南微住」の際、夜市のステーキ屋で感じた楽しさが蘇ってくる。 

帰りの車窓からの風景は、行きとはまったく違う馴染みのまちへ。
熊谷、ここに“ゆるさと”あり。

小麦の状態からのうどんづくり。
台湾人の微住者のみんなと加賀崎さん。

あの素晴らしい微住をもう一度~♪

2017年「微住」という言葉をつくり、この言葉も僕と同じく歳をとった。この連載では「アジア微住」と題し、2018年の7月の香港微住を皮切りにアジア各地での微住の記録、そしてコロナ後は世界が閉ざされたなかで、田中は福井県に移住し、「微遍路」という新たな旅に出た。そのほか、暮らしからの新たな気づきとして自宅と近所同士で「開街」をしたり、ガソリンスタンドで「異業」をするなど地域の中で“ズレ”と“混ぜ”の実験を行ってきた。そしてまた少しずつ「微住」の扉が開きつつある。

「微住」とはいったい何なのか。「ゆるさと」「タメづくり」「一期三会」というキーワード。僕自身も日々考えているが、いまだにぼんやりと、わかりづらい“微な状態”のままだ。ただ間違いなく「微住」とは単なる旅の方法ではなく、旅やそれを含む自分の暮らしに対する向き合い方だと思っている。その中で大事にしたいのが「“エラー”を楽しむ“心の余白”」だ。

決められた立ち位置が微妙にズレる、混ざっていくことでエラーが起きる。そんなエラーをネガティブに捉えない“負荷価値”が我々が人間らしく暮らしを楽しむこれからの豊かさの鍵だ。旅も暮らしもエラ ーがあるからドラマが生まれる。そのエラーはパッケージできない。正解はないから、僕らは旅に出る。だから、「微住」はやめられない。

たなか・ゆうすけ●職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住®(びじゅう)」とは1週間から2週間程度、特定の地域に滞在する“ゆるさと”づくりの旅。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。

【微住 .com】www.bi-jyu.com 【田中オフィシャルサイト】http://tanaka-asia.com

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。