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特集 | 地域をつくるローカルデザイン集

ここが東海エリアの玄関口。 『OMYAGE NAGOYA』にいらっしゃい!

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東京と名古屋間のリニア中央新幹線開通まであと5年と迫ってきた。レトロな雰囲気が残る名古屋駅の西側のエリアにセレクト土産店『OMYAGE NAGOYA』が誕生。まちの歴史を感じる空間は、土産物を通じてこれらも人々の記憶に刻まれていく。

目次

センスの光る土産物が、 こだわりの空間に。

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愛知県産の杉の間伐材をふんだんに使った店内。奥の「あんこがね」を販売するスペースに貼られた茶色いタイルは常滑市産。
「おみゃーげ」と聞いて、東海地方出身者ならピンとくるはず。名古屋弁で「お土産」を意味するこの言葉を冠したセレクト土産店『OMYAGE NAGOYA(オミャーゲ名古屋)』が、昨年3月に愛知県名古屋市にオープン。名古屋駅から徒歩5分の場所にあり、旅館だった建物をリノベーションした。お店のロゴマークは、プレゼントの箱の上に大きな松が生えている家紋のようなデザイン。大きな松をあしらったのは、かつての名称『大松旅館』の名残からだ。

店の外壁には竣工当時のタイルをそのまま活かし、店内は木を基調にしたやさしい雰囲気が漂っている。そこには、名古屋名物のエビフライのワッペンがついたキャップや、あんこトーストの箸置きなど、クスッと笑ってしまうようなお土産が並んでいた。「ここでしか買えない? おみやげもの」がキーワード。店内には40センチ角のレンタルボックスが60棚あり、地域のアーティストや企業がポップアップストアとして出店可能だ。雑貨のほかにも、バター風味の生地にあんこを入れて焼き上げたお菓子「名物あんこがね」や、国産和牛のミートパイ3種も販売。こだわりのあるラインナップを見ているだけでもワクワクした気持ちになってくる。

『OMYAGE NAGOYA』を生み出したのは、この建物の斜め前にある『ホリエビル』でフリーペーパー専門書店や喫茶店などを営む『屋上とそら』代表の堀江浩影さん。「いろいろやってます」と書かれた名刺のとおり、堀江さんはデザイナーでありながら数えきれないほどの事業を手がけている。

縁があってホリエビルから見える物件が借りられることになり、土産物店を始めようと思い立った。「大きなクライアント相手に広告の仕事をやってきましたが、年齢を重ねて無理ができなくなってきたので(笑)。自分たちでデザインしたグッズを販売する小商いもこれから必要だと思いました。それにクライアントと広告の仕事を直接する際にも、自分たちで商売をしている経験が生きてくると思って」と堀江さん。デザインの仕事を一緒にする岩井宏和さんとTシャツなどのグッズをつくったり、岩井さんが立ち上げたオリジナル刺繍ワッペンブランドの缶バッジやアクセサリーを制作し、アイテムを増やしてきた。そして、この空間もまた愛知県産のレンガや木材のほかにも岐阜提灯のライトや常滑市産のタイルなど東海エリアの素材を使い、こだわりを詰め込んだ。

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刺繍を施したグッズや、旅館の部屋の鍵をモチーフにしたキーホルダーなど、ほかでは手に入らないオリジナルの土産物。
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岩井さんが手がける刺繍ブランド『Iwappen STORE』の工房。毎週土曜日に岩井さんは在中。オリジナル刺繍のオーダーを受けることも。

レトロな空気感を つないでいくチャンス。

『OMYAGE NAGOYA』誕生の背景には、ホリエビルの存在と、2027年の東京・名古屋間のリニア中央新幹線開通があった。このビルが建つのは元々、堀江さんの祖父が会社を営み、小さい頃からよく遊びに来ていた思い出深いエリアだ。名古屋駅の東口側は開発が進んでいるが、こちらの西口側は駅から徒歩数分で昭和の時代にタイムスリップしたかのような古い町並みが残る。しかし、リニア新幹線口がここにできるとあって、数年のうちに開発によってまちが激変してしまう可能性が高い。

堀江さんはこのまちの風景が失われていくことに寂しさを感じていたところ、2000年からこのエリアでひきこもりの支援活動を行う『オレンジの会』の山田真理子さんと出会った。「就労の場としてパン屋を経営していましたがどうしても福祉の考えが抜けず、一般的な商売感覚がないのが悩みでした。そこで、堀江さんに組織の運営方法などを相談したり、一緒に事業に取り組むようになりました」と山田さん。朝5時から数十種類もつくっていたこのパン屋を、堀江さんがプロデューサーとなってミートパイ専門店にリニューアル。一日150個売り切りの高価格帯の専門店にすることで、労働負担を大幅に減らしながら収益の安定化もできるようになった。
 
そんな中、持ち主から元・旅館を福祉の作業所として借りてほしいと同会に相談があったが、築年数の経ったこの物件は福祉の要件には満たず、借りることを断念。そこで堀江さんが手を挙げた。「リニア開通で地価が上昇して、物件を借りるにもハードルが上がってきた。山田さんの話を聞いて、これはこのまちのよさを留めるチャンスだと思い、元・旅館だから旅に関することがしたく、リニアの駅に近くなるから土産物店をやることを提案しました」。

大家さんからのひきこもりの人が働ける場所にするという条件のもと、大切な場所を借り受けることになった堀江さんは、改装をデザイナーの服部隼弥さんに依頼した。名古屋らしいレトロな雰囲気を残したいという思いを汲み、服部さんは建物の鉄骨の腐食具合や耐震基準などを考慮して、できる範囲で旅館の痕跡を残すデザインを選択。1階はレンタルボックスの土産物販売スペースのほか、同会が運営する「あんこがね」の製造販売スペースがゆったりと配されている。2階は旅館の小部屋を残したまま、岩井さんが手がける刺繍ブランドの工房やほかの事業者が入居するシェアオフィスとして、3階は同会の作業を行うスペースとして利用されている。

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『ホリエビル』1階のフリーペーパー専門書店と喫茶店。

自然な関係性から生まれた 地域を育む店。

販売中のオリジナルグッズに施されているシルクスクリーンや刺繍した布をカットする作業を、『オレンジの会』が担当。ていねいな仕事ぶりに堀江さんをはじめ関わるメンバーが驚いているという。山田さんは、「ひきこもりの人たちは、働く能力があるのに社会の規範に合わないだけ。社会に出るにはハードルがあるけれど、カッコいい場所で働く機会もあればいいかな」と話す。そんなカッコいい『OMYAGE NAGOYA』だからこそ、彼らの能力が発揮されているのだ。さらに服部さんも、「什器に使った愛知県産の杉材は知名度の低さからか注目されづらかったり、岐阜提灯のライトに使われた美濃和紙は伝統工芸としての認識が強かったり。より活躍の機会をつくりたいという思いもありました」と、これらの素材を選んだ理由を話した。

人も素材も、社会の規範に合わないという壁を取り払ってできた『OMYAGE NAGOYA』には、互いを認め合う居心地のよさがある。それは、大義名分のもとではなく、自然にメンバーが集まり、目の前の課題に向き合ってきた結果なのだ。これからも旅人と地域をつなぎ、多くの人に愛される場所として育まれていくに違いない。

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オープンから1周年で猫のお土産を集めた「おにゃーげ」を実施。4人のアイデアでさらに盛り上げていく。

おすすめのおみゃーげ。

『MEAT PIES MEET』のミートパイ。420円。

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ミートパイ好きが高じて、『オレンジの会』に提案。ザクザクがうまい!
(堀江浩影さん)

「glo部e」のポーチ。2550円。

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メンバー三人の名前にちなんだ手芸ユニット名。メガヒットを狙って創作。
(山田真理子さん)

「土筆」ペン、ペン置き、インク壺。1万3200円。

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急須づくりの技術から生まれた陶製の文具。独特な書き心地。
(服部隼弥さん)

「Iwappen/space T-shir t」。3520円。

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Tシャツの好きな場所にオリジナルワッペンを貼って完成させます。
(岩井宏和さん)
photographs by Masaya Tanaka 
text by Mari Kubota

記事は雑誌ソトコト2022年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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