ヤギのひじきが生き生きと不自由なく暮らせて、田んぼや畑ができる家を探した。そこで出会ったのが、“無い無い”古民家だ。物理的なものは無いが、物理的でない“在る”がたくさん存在していることに気付かせてくれる家。まずは引っ越したばかりのころの家と、代表的な“3無い”を紹介しよう。
ヤギとともにお引越し。風呂なし、トイレなし、キッチンなしの古民家で新生活
この家に出会ったとき、そう思った。土壁が崩れ、なかの骨組みである竹小舞(たけこまい)が丸出しになっている場所を覆うようにトタンが張られた壁。錆び錆びのトタン屋根にも、パッチワークのように新たなトタンが張られている。土間に入ると大きな緑色の穀物缶や樽、犬小屋や昔のテレビ、衣類を入れるための長持(ながもち)が置かれていた。
ガラス戸の玄関と、壁に空いた穴から僅かな光が差し込むだけの暗い土間。中に入って見上げると、立派な梁とトタンの下で眠っている茅葺きが見える。
「この上で横になるのは無理!」
と思ったことを、よ~く覚えている。
私が入居した2016年は、この家生誕100年の年。おおよそ100年ぐらいと聞いたので、入居を機に100年ということにした。この家のいいところは、中途半端な改修がされていないところ。トイレは外に厠(かわや)小屋があり、そこに昔懐かしの“ボットン便所”が。タイル張りでも陶器の便器でもなく、板張りで穴が空いているだけのボットンだ。ボットンのままトイレを使おうと思ったが、汲み取りはできないといわれてしまった。よって、使える風呂なし、トイレなし、キッチンなしの“3無い古民家”で、ひじきとともに新生活をスタートさせることになった。
新居にガスは必要か? パーマカルチャーという考え方
自分の土地、自分の家を手に入れたのなら、循環するデザインや循環する暮らしを取り入れていきたいと思った私は、南房総で開催された「PAWA Permaculture Design Course」を受講。雨水を利用し、アースオーブンやロケットストーブを使ったキッチン、コンポストトイレが設置された実際のフィールドで、理論とデザインの両方を学んだ。
コース終了後、改めて自分に問いかけてみた。
「ガスは必要か?」
と。電気、水道、ガスはあって当たり前のものと思い込んでいたが、実際それがなくても暮らしている人たちがいる。初めから全て揃えなくても、無いなら無い状態を楽しんでみて、無いことが負担になったときにLPガス契約という道を考えても、決して遅くないじゃないか。
■お知らせ
古民家暮らしの始まりから綴り始めた今回の記事だが、今現在の暮らしを去年から数回に分けてテレビが撮影に来てくれていた。それがいよいよ放送されるようだ。安房暮らしの魅力が少しでも多くの人に伝わることを願って。
番組名 :「自給自足ファミリー2022春」
放送局 :BSテレビ東京
放送日 :5月18日(水)
放送時間:19:00~20:54