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特集 | SDGs入門〜海と食編〜

中川めぐみさんが取り組む、「釣り×地域活性化」の可能性。

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釣った魚を地域通貨で買い取ってもらい、それでお土産を買ったり、地元の料理に舌鼓を打ったり。そんな、「ツッテ西伊豆」という静岡県・西伊豆町で体験できるユニークな取り組みをご紹介します!

目次

新規事業の案がきっかけで、 釣りにハマッた中川さん。

釣り船に乗って海釣りをするとなると、釣り未経験者にはハードルが高く感じられるが、「大丈夫。楽しいですよ!」と、「釣りアンバサダー」を名乗って「釣り×地域活性化」に取り組んでいる中川めぐみさんは笑顔で呼びかけてくれる。「大丈夫」と言うには根拠がある。中川さん本人がまったくの釣り未経験者だったからだ。

中川さんが釣りにハマッたのは30歳のとき。当時、ゲーム事業が主体の東京のITベンチャー企業に勤めていたが、ゲーム以外の新規事業が社内で募集され、人気を博していた釣りゲームを生かして、リアルの釣りの予約サイトやECサイトを提案すると、部長プレゼンにまで進んだ。ところがその段階で、チーム全員が釣りの経験がないことに気づき、東京湾に釣りに行くことにした。「釣りはおじさんの趣味」と考えていた中川さんだが、「生まれて初めての釣りでした。竿などはレンタルでき、初心者にもていねいにレクチャーしてくださる釣り船でした。で、アジが10匹も釣れたんです! アジがかかった瞬間、竿を持つ手にビクビクッと振動が伝わってきて、狩猟本能が目覚めるみたいな衝撃的な感覚を覚えました」と、中川さんは興奮気味に話す。釣ったアジは家に持ち帰り、YouTubeを見ながら三枚に下ろし、刺し身やフライにしておいしく食べた。

その体験をSNSでシェアすると、「楽しそう!」「連れてって」という反応が、特に女友達から多く返ってきたそうだ。その後、中川さんは数年間勤めた会社員時代に男女100人ほどを「釣りデビュー」させることになるが、何よりも自分自身が釣りにハマッた。

旅先でも釣りをしてみた。釣り船に乗ると、「どこから来たの?」と声をかけられ、釣った魚はその地域ならではの食べ方を教わった。釣りを終えると、「何月には何が釣れるから、またおいで」と言われ、笑顔で別れた。釣った魚を料理してくれる飲食店に持ち込むと、常連客が、「何が釣れたの?」と入れ物を覗いて会話が始まる。そんなコミュニケーションが新鮮だった。「釣りをすることで旅が変わるんだ」と中川さん。さらに、地域の現状に触れるなかで、「釣りは地域活性化にも貢献するかも」と考えるようになった。ITベンチャーから人材領域のIT会社に転職し、UIターン転職のサポートをする部署の広報を担当したことで地域で活動する人々とも接するようになり、「私も地域活性化のプレイヤーになりたい」と、35歳で退職。フリーランスとなり、1年間ほどは各地で釣り三昧の日々を過ごした。手ぶらで行って釣りが楽しめ、初心者でもレクチャーが受けられ、釣った魚を料理して食べさせてくれる飲食店がある地域を探して訪ね、体験し、記事に書き、自撮り棒で写真も撮り、自身で立ち上げたウェブサイト「ツッテ」に掲載するという作業を繰り返した。そんな”釣り愛“が結実した「ツッテ」で紹介する地域は、約110か所にも上る。

「『ツッテ』は、釣って食べる、釣って出会う、釣って自然に触れるというように、釣りの向こうに地域があると捉えたタイトル。釣りは、地域の魅力を味わう入り口の遊びなのです」と、釣りや地域に対する思いを語った。

ひょんな出会いから、 「ツッテ西伊豆」スタート!

釣りにハマッて数年が経った頃、中川さんは静岡県・西伊豆町を紹介するメディアのモデルとして西伊豆町を訪れた。その取材をアテンドした役場の担当者が松浦城太郎さんだった。西伊豆に生まれ、子どもの頃から釣りが大好きで、今は週末に漁師もしている松浦さんは、「釣りは地域の入り口」という中川さんの考え方に共感。「お客さんが西伊豆での釣りを存分に楽しみながら、地域課題の解決につながるような取り組みができれば」と中川さんや関係者と話し合いを重ね、ユニークな仕組みをつくった。それが、「ツッテ西伊豆」だ。遊び方は、こうだ。

提携している釣り船に事前予約をする。初心者や子どもには釣り具のレンタルと釣り方のレクチャーがついている「ファミリープラン」がおすすめだ。予約ができたら、釣りの当日、直接港に集合し、出航。魚のいそうなところへ船長が船を近づけてくれて、釣り方も教えてくれるので、初心者でも安心して魚釣りが楽しめる。釣った魚は漁港にある産地直売所『はんばた市場』で買い取ってもらえるので、船長の指示を聞いて血抜きや氷締めを行う。釣りが終わり、『はんばた市場』に魚を持ち込み、市場の担当者が買い取り価格を査定する。ワクワクする瞬間だ。査定額に納得したら、西伊豆町の電子地域通貨「サンセットコイン」と交換。スマートフォンにチャージされ、西伊豆町内の飲食店や宿、土産屋、温泉施設、釣り船、ガソリンスタンドなど約130店舗で使える。さらに、釣った魚は自分で食べることもできる。提携の飲食店に事前予約をし、指定の時間までに持ち込めば、昼食や晩ご飯に食べられるよう料理してくれる。

「『ツッテ西伊豆』を2020年9月に始めてからファミリーや女性など新しいお客さんが増えました」と中川さん。「お子さんは魚を釣って、地域通貨と交換して、自分でお金を得たのがうれしいのでしょう、『パパ、おごったげる』と父親にお土産を買ってあげたり。魚が食卓に上るまでの流れや、命を頂く大切さも学んでいます」。

「ツッテ西伊豆」は町の課題にもアプローチする。それは、漁業者不足。「西伊豆町は高齢化率約52パーセントと県内で最も高齢化が進むまち。第一次産業に限ると90パーセントを超えます。漁師が減り、漁獲量が減っています。『ツッテ西伊豆』のお客さんが釣った魚が販売されることで魚不足を補えるのはありがたいこと」と松浦さんは話す。観光を盛り上げつつ、漁業のまちとしての漁獲量を確保する取り組みとしても「ツッテ西伊豆」は役立っているのだ。

「西伊豆だけでなく、全国の漁業のまちも気にかけてほしいです」と、中川さんは言う。「漁法や資源管理、魚の品質にこだわった獲り方をする漁師さんたちを”推し漁師“と呼んで応援しています。多少値段が高くても買い支えになるし、どこの海で、どんな漁師さんが、どうやって獲った魚なのかを意識することで、ちゃんと料理して、おいしく食べたいという気持ちになります。食べることが何よりの応援です。皆さんも”推し漁師“を見つけてください!」。

中川さんは、故郷・富山県で副業、海女をスタートした。「漁業権を持つプレイヤーとして、深く海と関わりたいです」と目を輝かせる。その奮闘ぶりはnoteで発信する予定だとか。乞うご期待!

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「ツッテ西伊豆」の釣りを楽しめる龍海丸。仁科漁港から出航!
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朝、西伊豆町の仁科漁港に集合。船長の山田雅志さんの案内で出航!
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潮風を浴びながら釣りを楽しむ中川さん。船長が釣り客に「50メートルです!」と伝えると、その深さにイサキの群れが泳いでいる合図。教わったやり方で竿を操り、糸を垂らす。すると……。
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「丸々と肥ったイサキが釣れました!」と中川さん。
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船長の息子の山田龍哉さんは約1.5キロのアマダイを釣り上げた。さすが!
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仁科漁港の『はんばた市場』。下船したら新鮮なうちに魚を持ち込もう。
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地域通貨アプリ「chiica(チーカ)」をダウンロードしたスマートフォンからQRコードを読み取り、サンセットコインを付与。
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みんなで釣ったアマダイ、サバ、イサキ、レンコダイ、アジ(一部)を抱えてご満悦。
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事前に予約しておいた食事処『竹内』に持ち込んだイサキの刺し身、煮魚、焼き魚。計1940円。
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日本財団主催の「海のごちそうフェスティバル」でトークショーに登壇。
photographs by Hiroshi Takaoka  text by Kentaro Matsui

記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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