2年前の9月。当時1歳と0歳の子を連れ、東京から愛媛県の今治市へ移住した。今治は妻である私の生まれ故郷。つまりUターンである。昨年、築70年を超す古民家を自宅として購入、再生し、家族4人で暮らしている。そんなわが家の日常を通して、住むほどに味わい深く、子育て世代におすすめしたい古民家の魅力をお届けしたい。
東京→瀬戸内へ子連れ移住
「いつかは生まれ育った地域へ」という未来が、一気に現実味を帯びた。
私たち夫婦は職を変え、住む場所を変えた。
選んだのは瀬戸内海を臨む私の生まれ故郷、愛媛県今治市。
私は30歳だった。
わが家が古民家暮らしを選ぶまで
高校時代、代わりゆく地元の町並みに一抹の淋しさを覚え、大学時代には建築やまちづくりを専攻した。スクラップ&ビルドで、町のアイコンが壊され、どこにでもある町並みに塗りかえられていくような感覚にずっと違和感を抱いていた。そしてそれは、住宅に対しても同じだった。
瓦の屋根並みや、土地ごとに導き出された建築様式は、日本全国で標準化された商品としての住宅に置き換わり、「機能的」で「新しく」「美しい」家が立ち並ぶ。もちろんその良さも理解しつつ、私はそれにうまく愛着を見出すことはできないだろうと、心のどこかで思っていた。
“木をふんだんに使った”や“ナチュラル”といった言葉を手掛かりにハウスメーカーを巡りながら、モヤモヤを払拭しきれなかったころ、ふと、古民家という選択肢を思い出した。
今思うに、古民家という中古物件とアラサーの私たちとの接点があまりに少なく、また検索したとて情報としてほぼ皆無だったために、自身の住み家の選択肢として結びついていなかったように感じる。
確かに田舎には古民家はあちこちにある。でも物件情報としてはほぼ見つからない。空き家バンクの登録数もかなり少ない。実際、購入に至ったわが家も、空き家バンクには登録されておらず、不動産屋の担当者が記憶を振り絞って紹介してくれた奇跡の物件だ。
新築か、古民家リノベーションか。
後者に対して「イメージが湧かない」という夫と、再三協議を重ね、2つの方向でしばし物件を探した。かれこれ10件以上の古民家(中古のボロ家も含む)物件を巡り、出会ったのが今の家だ。決め手は、むしろ夫の一目ぼれだった。
どんどん深みにハマる「古民家沼」
なにより、長年の時を過ごしてきたという、どっしりとした安心感と包容力。五感を刺激するこの空間で子どもたちを育てたい、そう強く思った。
「昔の家は不便で、暑くて寒い」というのは、確かに嘘ではないけれど、現代の知恵と技術を以てすればそんなハンデは十分吸収することができる。
ただ確かに、古民家ならではの苦労も多いのも事実だ。ゆくゆく書こうと思うが、物件探しの大変さや、難航したプランニング、思いがけない工事中のハプニングや(わが家は家の中から井戸が出た)、住んでからも隙間問題に紐づく虫問題、草刈問題など、挙げればキリがない。
大学卒業後、大手総合PR会社にて日用品メーカー・製薬会社・商業施設など幅広い広報業務の支援に従事。5年のPRキャリアを積み、2020年に愛媛県今治市にUターン。現在はフリーランスとして活動中。2児の母。大学在学中には、島根県美郷町の「地域おこし協力隊」を務めた。