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特集 | 地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。

複数の駅前に、和歌山県内の魅力を呼び寄せる「きのくに線駅マルシェ」。【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ。[第11回 和歌山県編]】

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和歌山県内を走るJRきのくに線は、海沿いにJR和歌山駅からJR新宮駅までを結ぶ路線。海岸沿いを走り、車窓からの景色がのどかで自然を感じられます。

マリンレジャーを中心とした観光エリアである白浜駅、熊野古道の入り口の最寄り駅でもある紀伊田辺駅の利用者が多いのですが、全54駅の中にはレトロな駅舎の無人駅もあります。2023年10月、和歌山県有田市にある初島駅・箕島駅・紀伊宮原駅にて、駅を活用したマーケットイベント「きのくに線駅マルシェ」が開催されました。

2022年10月にスタートしたイベントで、開催は今回で3回目。3駅に飲食や雑貨などを扱う35店が集結しました。企画・運営しているみなさんに、お話を伺いました。

駅舎などに「きのくに線駅マルシェ」のポスターを掲示して宣伝。写真は第3回のポスター。イラストはHisae Sasakiさんが担当。
2023年10月に開催された「きのくに線駅マルシェ」の、初島駅での様子。駅前が多くの人で賑わっています。
目次

まちの課題は、列車内や駅でも解決できるのでは?

「きのくに線駅マルシェ」が始まったきっかけは、当時JR紀伊田辺駅の駅長で、現在『西日本旅客鉄道 近畿統括本部 和歌山支社』(以下、JR西日本 和歌山支社)地域共生室の御堂直樹さんのアイデアでした。

「私は和歌山県海南市生まれなのですが、大学時代から京都へ出て、入社後長い間大阪で働いていたので、和歌山で働くのは初めてでした。駅長といっても一つの駅だけを管理するのではなく、きのくに線には無人駅もありますから、27駅を管理していたんです。駅関連だけでなく、まちのことをもっと知りたいと思い各地の市町、行政をまわり『お手伝いできることないですか』とご挨拶もしてまわりました。ローカル線は人と人のつながりが大切なので、積極的にコミュニケーションを取りたいと思ったんです」

そう話す御堂さん。そんな中、有田市役所で聞いたのが「昔は『有田みかん』というブランドが広く知られていたが、今はまちに来る人が減って、昔のようにみかんが売れなくなった」という地域の声でした。糖度の高いおいしいみかんでも、販売に苦労しているようでした。

そこで御堂さんは「『特急くろしお』の車内で、昔車内で駅弁を販売していた時のようなやり方で有田みかんを配り試食してもらい、到着駅の駅構内で売ってみませんか」と提案。価格は、やや高めの5個500円にしても、完売したといいます。

さらに、「有田市内に所在する全3駅、初島駅・箕島駅・紀伊宮原駅で乗降する人が少ない」という話も聞き、御堂さんは他の駅員らを巻き込んで、まちに人を集める方法を考えることに。

「県内外の人が移動する・集まるということを考え、駅が「目的地」にできたらいいのではないかと。さらに駅の利活用のポテンシャルを感じてほしいなと思い、駅でのマルシェを考案しました。マーケティング手法の一つである4P、つまりProduct(製品・プロダクト)、Price(価格・プライス)、Place(流通・プレイス)、Promotion(プロモーション)をしっかり行えばうまくいく(良いマルシェができる)ので、有田市の状況や販売する商品、価格設定、ターゲットなどを話し合いました」

写真右から、JR西日本和歌山支社の御堂直樹さん、JR御坊駅駅員の黒栁利将さん、JR紀伊田辺駅副駅長の山東弘幸さん、JR紀伊田辺駅駅長の東 耕太郎さん。御堂さんたちが手にしているタオルは、第2回の際に制作したノベルティ。

初開催の「きのくに線駅マルシェ」に数千人が来場!

マーケットに訪れるメインターゲットを20代から30代女性やファミリーに設定。初回開催のため、実行メンバーの駅員自らが足を運び、声をかけた店舗も多く、和歌山県内の人気店から38店舗が出店することになったのです。さらに、ターゲット層に刺さるイベントキャラクターを誕生させたく、イラストレーターを探して、Hisae Sasakiさんに「きのくに線駅マルシェ」のメインビジュアル(女の子のキャラクターなど)の制作を依頼。情報発信のためSNSの専用アカウントもつくり、毎日コツコツと店舗紹介を行っていきました。

こうして、記念すべき第1回が2022年10月30日に開催されました。御堂さんはこう振り返ります。「フタを開けてみたら、なんと数千人の方に来場いただき、駅のホームから人が落ちるのではないかとハラハラするほどでした。3駅を巡りたくなるように店舗の配置にもこだわりつつバランスも取り、結果半数くらいの店舗がマルシェ出店で過去最高の売り上げだったそうです」。

また、小学6年生までを対象にした子ども向けのコンテンツも大人気でした。3駅のスタンプラリーに加えて、駅員の制服着用体験や「運転士さんが教える運転台の秘密」や「車掌さんが教える車内のひみつ」と題した運転士や車掌が車内を案内するプチツアー企画、駅員が改札で使う「チケッター」で特別切符にスタンプを押すなどの体験を提供したのです。

「無人駅という財産をどうしていくか、変えられないものは、見え方、見せ方を変えてその価値を動かせばいい、操作できるように思います。その成果が『きのくに線駅マルシェ』です」と御堂さんは話します。

初島駅で開催された、子ども向けの車掌体験。電車好きの子どもに大人気でした。

第1回から「きのくに線駅マルシェ」に関わる紀州有田商工会議所の指導課・経営指導員の児嶋佑起さんにも話を聞きました。

「地域振興に効果のある事業だと思って参画させていただき、主に行政的な書類の作成やとりまとめを担当しました。当日は、来場者数が想定以上だったのでとても驚きました。『初島駅にこんなに人がいるのは初めて見た』と言っている方もいましたね。各店舗が大人気で行列になり、午後は買うものが少ない状況でした」

写真右から、紀州有田商工会議所の児島佑起さん、左が有田市の上林剛士さん。第3回ではスタッフとして箕島駅を担当し、会場整備などをしていました。
箕島駅前の様子。スタート早々から賑わい、いたるところで長蛇の列ができていました。この日を楽しみにして足を運んだ人たちなのでしょう。

「この光景を継続したい」と年2回のペース想定で第2回を開催。

「駅の利用者が減るなかで、無人駅に人がこんなに集まるものなんだと驚き、感動して、この光景を終わらせたくない、継続したいと思いましたね」

そう語るのは、紀伊田辺駅で職員を務める浦川賢一郎さん。2022年10月、JR西日本 和歌山支社では地域共生室を新設し、御堂さんは同室へ異動して担当課長に。第2回以降の「きのくに線駅マルシェ」の運営は浦川さんや、同じく紀伊田辺駅副駅長・山東弘幸さんたちが引き継ぎました。

第1回の様子を見た地域で店舗を経営する人から「うちのまちでもぜひやってほしい」という声を受け、第2回の開催駅は海南市の加茂郷駅、下津駅、前回と同じ有田市の初島駅に。実行委員会を新たに立ち上げ、毎月会議をし、メールやSNS等を活用しながら情報共有を行い、準備を進めました。

「第2回の出店数は駅の許容スペースにより46店で、毎日1店舗ずつSNSで紹介したんです。出店者の皆様に気持ちよく出店してほしいという思いから、DMなどの連絡はこまめにやりとりするよう心がけました」と、浦川さんは話します。

開催地の自治体の一つである、有田市の経済建設部産業振興課 商工観光係の上林剛士さんは、「第2回は交通整理などのお手伝いをしました。天気はあいにく雨模様だったのですが、人は市内外からたくさん来場されていて、まちが活性化するという意味でとてもいいイベントだと感じました」と当時を振り返ります。

写真右から、第3回でスタッフとして紀伊宮原駅を担当していたJR西日本和歌山支社の桑滝雄介さん、JR御坊駅駅員の古田大祐さん。左は、会場全体を見守っていたJR白浜駅駅員の浦川賢一郎さん。
和歌山県の九度山駅にある人気店『おむすびスタンド くど』にも、毎回長蛇の列ができるそう。駅前のみならず、スタッフが安全面を常に確保しながら、駅舎内も活用しています。

大人は飲食や買い物を、子どもは鉄道を満喫できる。

第3回は、初島駅・箕島駅・紀伊宮原駅で開催することに。浦川さんは、第2回を実施したとき「自分だけでいろいろと進めてしまうのではなく、運営メンバーのみんなに情報を共有する場をもっともとう」という気づきがあり、「みんなで進める」を心がけ準備を進めていったといいます。その中で、それぞれの駅舎内にワクワクするペイントをするなどのアイディアも生まれました。

そうして2023年10月29日に開催された第3回「きのくに線駅マルシェ」には、有田市内だけではなく、田辺市、橋本市など和歌山県内の各地から、人気店が集まりました。3回を通じて、紀の川市、岩出市、海南市、美浜町、白浜町、由良町、九度山町、中辺路町、紀美野町から出店があり、このマルシェへの注目度がうかがえます。

天気に恵まれ、青空の下で参加者は飲食や買い物を楽しんだり、第1回から毎回行われている子ども向けコンテンツに参加したりして、のびのびとした様子でした。山東さんは、第3回の感想をこう教えてくれました。

「車掌体験などに参加したお子さんの笑顔を見れて、とてもうれしかったです。将来当社へ入社して、このマルシェを担当してもらえたら、と(笑)。また、開催後に出店者さんに行ったアンケートでは、『出店してよかった』という回答が9割でした。個人的には、マルシェの出店者さんが将来、マルシェに関係なく駅にお店を出したいと思ってくれたら……とも考えたりしています」

また、有田市の経済建設部産業振興課 商工観光係係長の南村啓太さんは、マルシェとしての成長を感じたそうです。「いい意味で、出店側もお客様も慣れてきた印象を受けました。お店側が売り切れないように準備を工夫したり、お客様も各店を周る順番を考慮していたりして、マルシェが当日円滑に進行していると感じました」。

箕島駅で子ども向けコンテンツとして開催された、線路点検に使う軌道自転車に乗れる体験。
会場の3駅で開催されたスタンプラリーに、家族と一緒に参加している子どもがいました。スタンプはある駅員が自作していて、すべての駅でスタンプを押すと、くまのイラストが完成するというもの。
右が初島駅、左が紀伊宮原駅の駅舎内の様子。第3回のマルシェに向けて、駅を明るい雰囲気にしようと駅員たちが考案した取り組みです。明るく楽しい雰囲気になっています。

知名度が上がり、出店者からの期待も集まるマルシェへ。

出店者側にも感想を聞きました。第3回に初島駅で出店していた、有田市にある『ARC』の経営者・上田篤さんは、これまですべての回に出店しています。

「普段は人通りの少ない初島駅周辺の地域ときのくに線沿線の魅力に、このイベントをきっかけに多くの人に気付いていただけることを期待して出店しました。毎回多くの人が訪れてくれてうれしいです。日常的に地域が魅力的な場所になるためにはどうしたらいいか考えるきっかけにもなり、とてもいいイベントだと思います。きのくに線沿線を魅力的な場所にしていきたいです」

有田市にある『ARC』の出店の様子。黒板や商品が目を引きます。
柑橘類のほか、デザイン性の高いオリジナルグッズを販売していました。写真は「なましぼりみかんジュース」とロゴがかわいい「有田初島バック」。

また、初出店のお店も。箕島駅で出店していた、橋本市にある『kamuro.coffee&scone』(スコーンは『OKANYA scone(オカンヤスコーン)』、コーヒーは『土屋珈琲研究室』より販売)の店主・土屋理央さんは次のように感想を語ってくれました。

「紀中地域でのイベント出店は初めてで、当店のことを知っていただけたらと思い出店しました。期待した通り新たな出会いがあり、お客様から『和歌山市のイベントや橋本市のお店にはなかなか足を運べなかったので、来てくれてうれしい』というお言葉をいただき、出店してよかったと感じました」

橋本市にある『kamuro.coffee&scone』の出店の様子。店主の土屋さんは、さまざまなお客との出会いを喜んでいました。
コーヒーを担当していた『土屋珈琲研究室』。焼き菓子との相性は抜群です。

紀伊宮原駅で出店していた、田辺市にある雑貨とドライフラワーの店『nene』のオーナー・市田早耶さんも、初めて出店した一人です。

「ご来場者の方々にとっても出店側にとっても楽しいイベントになると思い、出店させていただきました。2023年4月にオープンしたばかりでまだ知名度が低いため、田辺市外の方々に知っていただきご来店につながれば……と期待を込めました。多くのお客様に商品を見ていただけて、またお話しもでき、とても楽しかったです。『田辺のほうへ行ったら立ち寄るね!』と言っていただけたこともうれしかったです。ぜひまた出店したいですね」

紀伊宮原駅前で、田辺市から出店していた『nene』。足を止めるお客が多く、オーナーの市田さんは初めての出店を楽しんでいました。
お土産にしたくなる、市田さんが手づくりしたドライフラワー。センスのよさを感じます。

第3回の開催が終わったばかりではありますが、浦川さんはもう前を向いています。

「運営では大変なこともありますが、継続していきたいので、今後続けるための仕組みなどをより考えるようになりました。来場者の方には、ご自分の地域以外のお店を知って『今度行ってみよう』と思っていただき、県内全体にいい循環ができればと思っています」

駅から、地域や県内がどんどん元気になっていく。そんな好循環の第一歩が始まっています。

第3回の運営メンバーの皆さんに、開催前に集まっていただきました。地域愛の高い皆さんが「きのくに線駅マルシェ」を運営しています!(写真提供:JR西日本和歌山支社)

Information
「第4回きのくに線駅マルシェ」の開催が決定しました。詳細は、「きのくに線駅マルシェ」のInstagramをチェック!  2/1~2/29まで出店者募集中です!
開催日:2024年5月19日(日)
開催駅:初島駅、箕島駅、紀伊宮原駅


JR西日本和歌山支社 地域共生室・梅田知佳さんからのメッセージ

JR西日本は、地域活性化を目指して、2022年10月に和歌山支社内に「地域共生室」を設置。同室のプロジェクトとして、和歌山駅〜新宮駅間の列車に自転車をそのまま乗せて、気軽に乗車できる「きのくに線サイクルトレイン」や、和歌山県田辺市、上富田町、すさみ町、古座川町、那智勝浦町の5市町を定期的に訪れ、地域の隠れた魅力をSNSなどで発信してくれる「ローカルダイバー」等に取り組んでいます。

魅力的で持続可能な地域づくりを。JR西日本が取り組んでいる、地域との共生とは?

JR西日本グループでは、2010年頃から「地域との共生」を経営ビジョンの一角に掲げ、西日本エリア各地で、地域ブランドの磨き上げ、観光や地域ビジネスでの活性化、その他地域が元気になるプロジェクトに、自治体や地域のみなさんと一緒に日々取り組んでいます。そんな地域とJR西日本の二人三脚での「地域共生」の歩みをクローズアップしていきます。

【第10回 山口県編】はこちらから。
今までに公開した【地域×JR西日本の「地域共生」のカタチ】の一覧はこちら
ぜひ他の地域の事例も読んでみてくださいね!

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photographs by Katsu Nagai
text by Yoshino Kokubo

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