全国各地、読みにくい地名はたくさんあるが、岡山県にも簡単には読めない珍しい地名が数多く存在する。今回紹介したいのは、岡山県のほぼ中央部、久米郡美咲町にある地名「打穴」。これ、何て読む?(写真上/打穴川沿いに咲く芙蓉の花・写真提供:美咲町)
正解は「打穴」と書いて「うたの」
「打穴」を見たままに読むと、訓読みで“うちあな”、音読みなら“だけつ”と読んでしまいそうだが、正解は「うたの」。一体何がどうなると、「うたの」という読みになるのか? 調べてみると、どうやら地名の由来に関係しているらしい。
昔から繊維産業がさかんな岡山県。この「打穴」という名もまた、この土地でかつて盛んだった織物に由来する。道路沿いに立つ看板を読んでみると、かつてこの地では“打綾”という織物が盛んで、「うちあや」→「うちあな」→「うたの」と転訛したものだという。
織物にまつわる響きも美しい「うたの」という名前は、今なお打穴下・打穴中・打穴里・打穴西といった地名として残っている。
打穴川沿いの通称“芙蓉ロード”
豊かな自然に囲まれた打穴地区。なかでも打穴川沿いには“芙蓉ロード”と名付けられた並木道があり、9月中旬〜10月下旬には美しい芙蓉の花が楽しめる。
打穴下地区では、2005年の岡山国体開催時、民泊で北海道の高校からソフトボールのチームを受け入れた。その数年前から打穴川の両岸に芙蓉の苗を植え、国体までには花が見られるようになったのだという。それ以来、地元の有志により毎月の草刈などの管理が続けられ、秋の美しい風景が守られている。
元祖!?桃太郎伝説
岡山市の吉備津神社や総社市の鬼ノ城など桃太郎で有名な岡山県。実はここ打穴にも桃太郎の伝説があるという。現在の打穴下・打穴中、隣の錦織にあたる場所はかつて三保村という一つの村だった。1928年に発刊された「三保村誌」には“桃太郎伝説”が掲載されており、これが文献として残っているものとしては日本最古で、元祖とも言えるそう。
「三保村誌」では桃太郎に関する様々なエピソードと場所が紹介され、現在でもその地名は残されている。そこで美咲町では、そんな桃太郎ゆかりの地を巡るウォーキングなど、桃太郎伝説を知るイベントが開催されている。
周辺の豊かな自然と歴史遺産も魅力
打穴地区のある美咲町には、他にも自然や歴史に触れられるスポットがたくさんある。
「柵原ふれあい鉱山公園」は、鉱石輸送用に作られた片上鉄道の吉ケ原駅舎と操車場のあった場所に、1998年に開園した公園。昭和30年頃の鉱山の様子や鉱山町の暮らしぶりを再現した資料館のほか、修復して残された吉ケ原駅舎、輸送用貨車や客車車輌11両がある。鉱山で栄えた町の歴史を学べ、家族連れはもちろん鉄道ファンにもおすすめだ。
標高270mの山から旭川湖を一望でき、桜の名所として知られるのが「三休公園」。園内に約5,000本、ダム沿いに約3,000本の桜と、約1万本のツツジもあり、春は美しい景色が楽しめる。また園内には、宿泊施設や体験施設を備えた「民話の村」もある。
「まきばの館」は、ふれあい動物広場やアスレチック広場、乗馬クラブ、ハーブガーデン、レストランなどがある施設。自然と動物に触れて、思いきり遊べるスポットだ。
美咲町役場の清水博史さんによると、上記の他にも「美咲町のグルメといえば、たまごかけごはんです。2008年からたまごかけごはんでの町おこしも始め、なかでも専門店『食堂かめっち。』は、おかげさまで全国的にも知られるようになりました」とのこと。
一見読みにくい地名だけれど、織物で栄えたことから生まれたという由来のある「打穴」。いつかまた自由に旅ができる日がきたら是非訪れたい場所として、さまざまな魅力も合わせてインプットしておきたい。
▼取材協力
※新型コロナウイルスの感染状況により、イベントや施設の開館状況など記事内容とは異なる場合があります。