「ただ住むだけじゃもったいない」「自分たちの住む町をおもしろがる」そんな掛け声で集まったローカルを思う存分楽しみたい3人の新連載。北海道の東川町役場で働く畠田大詩と、東京の墨田区での暮らしをはじめた編集者の竹中あゆみ、福岡市を拠点にカメラマンとして活動をする中村紀世志。離れているからこそ伝えたい日常を、写真とことばでお届けします。
どこにいたって、自分が暮らす場所を楽しむことはできるはず。
今回の書き手:畠田大詩
「それぞれの地域で感じていることを、写真とことばで発信する企画やらない?」
4月も終わろうとしている金曜日の夕暮れ、今日の仕事もそろそろキリをつけて整理しようと翌週のカレンダーを確認していたとき、Facebookメッセンジャーのポップアップがぴょこんと立ち上り、気持ちが上振れしたことを思い出す。カレンダーから目を離し「どんな内容ですか?」とメッセンジャーを打ち返す。「ピコーン」と、続けて返信がきた。
「同じ時に生きていて、こうも見える世界が違うのかと思うとおもしろくて。ローカルと写真好きでポツポツとつくっていく、公開型の文通のようなことががWebでできるといいなーと!」
メッセージをくれたのは、元々同僚でかれこれ10年来の付き合いになる(もう10年になるのか)、東京在住の先輩編集者の竹中あゆみさん。聞くと、福岡県在住でお互いに仲のいい中村紀世志(きよし)さんも含め、写真が大好きである3人で、この企画を立ち上げないかという誘いだった。
僕は今、北海道にいる。大学まで過ごした地元の地方都市から就職を機に上京。写真関係の会社で9年働いたのち、2020年の4月から縁があって人口8400人の小さな町、東川町の役場で働いている。こちらに来てからは、日々目の前にあわられる圧倒的な自然風景に驚いてばかりで、それをパチパチとカメラに収めてはSNSで投稿をしていた。ただただ、心動いた景色をファインダーに納めて、そこに感じたことを添えてひっそりと投稿するだけ。それでも、友人知人からは「まちに行きたい」と言ってもらったり、実際に来てもらえるようなことが増えてきていた。同じ日本でも「こうも見える世界が違うのか」と日々感じていたし、東川の風景をより多くの人に見てもらえるチャンスがあるなら、それは素直にうれしかった。
声かけには、二つ返事で参加をすることに。それから竹中さん、紀世志さんの3人で、夜な夜なzoomをつないではそれぞれが住む場所のこと、考えていることを侃々諤々話す中、「今は、住んでいる場所をそれぞれがおもしろがっているよね」という話を繰り返ししていた。僕は東川町、竹中さんは東京の墨田区、紀世志さんは福岡市。「ただ住むだけじゃもったいない」。それが僕らの合言葉となっていた。それぞれがそれぞれに、いかにこの土地を愛し、おもしろがれるか、この土地で遊べるかを現在進行形で模索している。
たとえば僕なら、冬の話。北海道に来ていちばん心配していたのは、「雪」と「寒さ」だった。けれど、あんがいすぐに平気になるもんだなというのが、最初の冬を越しての実感。一面まっ白になった景色を眺めるのが楽しすぎて、シャッターを押しに何度も何度も同じ場所に出かけたりもしていた。
ただ、さすがにマイナス15度あたりを下回ると「身の危険」を感じる寒さになる。鼻毛が凍り鼻腔がチリチリして、息をするたび鼻の奥が痛い。それでも「これは”慣れる”のではなく”諦める”ものなのだ」と思えたあたりから、「冬よ、もっと鼻毛をチリチリさせてくれ」と変なエムっ気を出して楽しんでる自分がいた。
一方で、こんなふうに心動くことって、この場所ではなくても本来ならどこにでもあるはずだ、と思うようにもなった。変わり続けるビル群、路傍に咲く野花、絶え間なく変化する雲の形と空の色、陽の光。確かにこの場所は、四季や自然が身近ではあるけれど、対象へ向ける視点は「都市」か「地方」かはあまり関係ない。自分自身がどんな眼差しを持つかが、何より大切なんじゃないか。ゆるやかだけど確かに変化しているものを、目や耳、肌できちんと知覚すれば、どこにいても自分が暮らす場所を楽しむことができる。
僕ら3人は遠く離れた場所で暮らしているのだけど、それぞれが五感ですくい上げた感情を写真や文章をとおして伝えることで、この場所を近く感じてもらえる気がする。写真と文章が、僕ら同士の、そして僕らとあなたの「窓」になることで、誰かがまちを見る眼差しをわずかばかりでも変えることができれば。
距離は遠いけれど、近くにいる。遠くの景色を、僕らの感覚や”知覚”を使って、近くに感じてほしい。そして、この企画を見てくれた人が、自分自身の知覚を使って、身の回りの景色をよりいっそう近くに感じてもらえれば。そんな話をしているうちに、「とおくの、ちかく。」という言葉が浮かんできた。
そんなわけで、みなさんどうも、はじめましてこんにちは。畠田大詩(北海道)、竹中あゆみ(東京都)、中村紀世志(福岡県)が写真と文章で届ける、「とおくの、ちかく。」を、スタートします。