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NFTを使って村民になる? 「ネオ山古志村」に広がる「デジタル村民」!

雑誌『ソトコト』編集部

雑誌『ソトコト』編集部

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2004年の新潟県中越地震の発災から20年が経とうする中、新潟県長岡市山古志地域でユニークなコミュニティが活発化してきています。バーチャルとリアルが融合する「ネオ山古志村」です!

目次

「Nishikigoi NFT」を購入し、山古志地域との関わりを始める。

雪に覆われた山古志地域。春になると雪が解け、美しい棚田が表れる。

ローカルとの関わり方はさまざまだが、新潟県長岡市山古志地域にはほかにはないユニークな関わり方が用意されている。「Nishikigoi NFT」だ。NFTは世界で一つであることを証明できるデジタルデータで、音楽や動画、デジタルアートなど幅広い分野で発行や取引が行われている。そのNFTを地域づくりに活用しようと、『山古志住民会議』が山古志地域の特産である錦鯉をモチーフにしたNFTアートを創作。購入すると同時に山古志地域の「デジタル村民」になれる仕組みをつくった。これまでに1600人以上が購入し、山古志地域の課題や魅力を話し合うディスコード上のミーティングに参加し、アイデアを出し合っている。

「デジタル村民」の中には山古志地域を訪れ、独自の文化や住民との触れ合いを楽しむ人もいる。山古志地域の住民と「ネオ山古志村」というコミュニティをつくり、交流も深めている。この日は雪かきを体験しようと、6人の「デジタル村民」が「帰省」した。

「ネオ山古志村」を運営する『山古志住民会議』代表の竹内春華さん(左)と、「越後雪かき道場」に参加した「デジタル村民」。

山古志地域を元気に!それぞれの「帰省」の形。

「デジタル村民」は、山古志地域を訪れることを「帰省」と呼ぶ。ある「デジタル村民」がディスコードやSNSで、「デジタル村民になったので、山古志に帰省します!」と発信したことを機に「帰省」と呼ぶようになったと、『山古志住民会議』代表の竹内春華さんが教えてくれた。山古志地域を自分たちの「第二の故郷」と慕う気持ちの表れだろう。

「帰省」して何をするかは「デジタル村民」次第だ。神奈川県在住の会社員・るいさんは、1年余りで4回も家族と一緒に、「帰省」している。「帰省したらまず『やまこし復興交流館おらたる』を訪れ、竹内さんと挨拶を交わして、地域を散策します。牛の角突きを見たり、鯉の養殖場を見学したり。農家民宿にも泊まりましたが、ご飯がとてもおいしかったです。何度か訪れるうちに実家の母も『デジタル村民』になりました」と笑顔で話す。

『やまこし復興交流館おらたる』のインフォメーションと交流スペースカフェ。「おらたる」は「私たちの場所」という意味の方言。

静岡県在住の会社員・まゆぞうさんと、神奈川県在住の会社員・まめこさんは2人で「帰省」した。「秋の終わりでした。道沿いで催されていた錦鯉の販売会を眺めていると、錦鯉にもいろいろな種類があることをおじいさんに教わったり、直売所で棚田の新米を買ったり。一度『帰省』すると距離感が縮まり、また『帰省』したくなります」と話す。23年3月の「古志の火まつり」にも「帰省」して参加したそうだ。「集落ごとに小正月を祝う『さいの神』を、地域全体で行うのが『古志の火まつり』。稲藁や茅で高さ25メートルの『さいの神』を組み、燃やすのですが、ものすごい迫力でした。でも、35年続けられてきたお祭りが去年で最後に。資金と人材が足りなくなったのが理由だそうです」と残念そうに話した。

『おらたる』に設置された水槽の中を泳ぐ錦鯉。山古志地域は錦鯉の産地として世界的に知られている。

そんな山古志地域の暮らしや文化が存続するためのアクションプランを「デジタル村民」がプレゼンテーションし、人気投票で選び、「Nishikigoi NFT」の売り上げから与えられる予算を使って実施するというプロジェクトが行われた。1位の「仮想山古志村プロジェクト」は山古志地域を再現したメタバース空間をつくり、たとえば、中越地震の追悼式の会場をバーチャル空間にも設け、リアルとバーチャルの追悼式をハイブリッドで開催したり、小正月の「さいの神」をつくって、リアルとバーチャルの両方で燃やすイベントを行ったりしている。「メタバース空間をつくるには、リアルの山古志地域を訪れ、風景をスキャニングする必要があるので、制作スタッフは何度も『帰省』していました」と竹内さんは話す。

『おらたる』の震災メモリアル施設で中越地震の被害を説明する竹内さんは、2007年から『山古志災害ボランティアセンター』の職員も務めている。

そうしたDAO(分散型自律組織)につながる取り組みもあり、2023年末までにのべ約350人の「デジタル村民」が「帰省」し、山古志地域の現在を知り、住民と交流を深めている。

左上から、山古志地域の風物詩、牛の角突き。/長岡市山古志支所地域振興・市民生活課課長の五十嵐豊さん(中)と係長の今井雅廣さん(右)。/東京で開催された「ネオ山古志村」の新年会。/「古志の火まつり」。/「ネオ山古志村」新年会での餅つき。/メタバース空間でのミーティング。/「帰省」の一コマ。夏の山古志地域は冬とは違う顔を見せる。/「地形模型シアター」の説明をする竹内さん。/『おらたる』での「帰省」の様子。/発災から復旧までの記録をプロジェクションマッピングで紹介する「地形模型シアター」。

竹内さんを介さずに、地域住民とつながっていく。

この日の雪かきは、「帰省」した6人の「デジタル村民」とボランティアで行われた。指南役は、『越後雪かき道場』代表の上村靖司さんだ。1時間ほどの座学で雪かきの必要性や雪かきを行うときの注意点をレクチャーした後、『山古志の宿 あまやちの湯』の駐車場の雪かきをした。

左上から、30分ほどかけて掘ったかまくらに入って、快適! /かまくらの前で写真を撮り合う参加者たち。/竹内さんも雪をかき出す。/アルミ製やプラスチック製のスコップと、雪を一気に運び出すスノーダンプ。場所や状況によって使い分ける。/座学の後、室内で準備体操をしてから屋外へ。体を温め、ヒートショックで心臓に負担がかかることを防ぐ。/『越後雪かき道場』代表の上村さんによる、ユーモアを交えた座学。

参加者の一人に神奈川県から来たRYUさんがいる。RYUさんは牛の角突きにはまり、1年に10回以上も「帰省」している。竹内さんは、「私は『デジタル村民』と山古志地域の住民をつなぐブリッジ役を務めていましたが、RYUさんをはじめ何名かの『デジタル村民』は私を介さず、『いつ行きますから!』と住民と直接連絡を取って行き来しています」とうれしそうに話す。住民も『デジタル村民』に信頼を置き、意見を求めたり、課題を相談したりするようになってきているそうだ。「『デジタル村民』は、山古志地域にあるさまざまな団体とつながる中で、住民の生の声を聞き、自分ができる範囲で経験や知恵を生かして活動してほしいです」と竹内さんは話す。

今後は、長野県・天竜峡や宮崎県・椎葉村との連携も進めていく「ネオ山古志村」。リアルな移住はすぐにできなくても、「帰省」したり、バーチャルで応援したりすることで、地域を盛り上げていく。

「デジタル村民」のみなさんにとって山古志地域とは?

るいさん

「帰省」すると時間の流れがゆっくりになります。頭の中を切り替えたり、仕事や生活のアイデアを出したり。季節に即した暮らし方を実感でき、都会に戻っても元気に過ごせます。

merichan_senseiさん

東京から新幹線とレンタカーで2時間ほどの、意外と近くにある日本らしい田舎です。地域の方々は温かく、食べ物もおいしい、まさに「第二の故郷」として「帰省」しています。

RYUさん

牛の角突きが大好きで、1年間で11回、「帰省」しました。「デジタル村民」と山古志地域の方々が互いに関心を持つことで、距離を縮められたら。今度、「大人の運動会」をやりたいです。

marinasさん

雪が降らない地域に育ったので雪かき体験、楽しかったです。山古志地域との関わりが深まるにつれて、愛着が湧いたり、何かやってみたいというモチベーションが高まったりしそうです。

『山古志住民会議』・竹内春華さんの、移住にまつわる学びのコンテンツ。

Movie:振るまいか
2003年日本、橋本信一監督
「山古志で暮らし続けるためには道が必要」と、村民が日本一の手掘りトンネル「中山隧道」を完成させる足跡を追った映画。自分や家族や仲間がより豊かな暮らしを送るためにアクションする住民の姿に、暮らすことは生きることと学びました。

Book:ウェルビーイングのつくりかた
渡邊淳司著、ドミニク・チェン著、ビー・エヌ・エヌ刊
地域の風景をつくり、その中で生きていることで、次第に「わたしたち」という感覚を持つようになりました。自分らしく生き、暮らし、多様な価値観を認め合う中で、拡張していく「わたし」と「わたしたち」という感覚を言語化した書籍です。

Book:写真集 山古志村
須藤 功著、農山漁村文化協会刊
民俗学者・宮本常一とともに山古志村の調査と撮影に携わった著者及び出版社が、山古志地域に寄贈した「復興支援本」。多様な人を惹きつけながら地域をつないできたことや、日本の地域が持つ価値観や文化は財産であることを教えられます。

photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui

記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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