ひざなどの軟骨が摩耗して炎症を起こし、痛みを伴う「変形性関節症」。治療法としては変形が軽度なうちは運動や薬による保存療法を続け、変形が進んだ場合は人工関節に置き換える手術を検討するのが一般的です。しかし今、保存療法と手術の間に位置する新しい治療法として、自身の脂肪から抽出し、培養した幹細胞を使う再生医療が注目されています。実際にその治療を行っているミライズクリニック南青山の佐藤敦医師に、治療の流れや効果について伺いました。
辛い関節の痛みに手術以外の選択肢
「変形性関節症の保存療法は、関節部にかかる負担を軽減するための減量指導、周囲の筋力を上げる運動療法、サポーターや靴底に敷くインソールや杖の使用、電気などによる温熱療法、炎症や痛みを抑える飲み薬や貼り薬の処方、痛みを和らげるヒアルロン酸注射などがあります。これらを組み合わせ、症状の進行をできるだけ緩やかにしています。そして変形度合いが強くなると、人工関節に置き換えるなどの手術が選択肢に入ってきます」
こうした治療法に新たに加わったのが再生医療というわけです。保存療法と手術との間を埋める位置づけで、新たな選択肢として広がっています。
脂肪由来幹細胞の関節内での働き
改めて再生医療による変形性関節症治療の仕組みを説明すると、脂肪由来幹細胞の働きによって関節の痛みが緩和され、痛みによって中断、もしくは諦めていた運動療法を実践でき、修復機能の高まりと相まって、関節の保存期間の伸長が期待されるというもの。日本で再生医療に関する法律が整備されたのは2014年。まだ新しい治療法であり、今後、エビデンスを蓄積していくことも再生医療先進国としての使命と言えます。
脂肪採取も幹細胞注入も基本的に外来治療
変形性関節症と診断され、再生医療を希望した場合、まずは血液検査で細胞が培養できる状態であることを確認します。問題がなければ、腹部などから20mlの脂肪組織を採取。これは局部麻酔によって行われるので入院の必要はありません。取り出した脂肪から幹細胞を抽出し、それを6~8週間かけて200~400倍に培養したものを関節内に注入します。脂肪採取や幹細胞注入当日は入浴および激しい運動を控える必要がありますが、翌日からは普通に生活できます。治療後の効果について、佐藤医師はこう述べています。
「どれくらいで効果があるのかよく聞かれますが、人それぞれで個人差があるため、一概には言えません。しかし、すぐに効果が表れるというものではないため、長い目で見ていただくことをお勧めしております。まだ承認されてから年数の経っていない治療法ですから、そうした持続性に関してはもっとエビデンスを積み重ねていきたいところです」
佐藤医師は再生医療の特徴についてメリットとデメリットを交えてこう教えてくれました。
「脂肪由来幹細胞による再生医療の特徴は自身の細胞を使うことにあり、これによって体への負担が少ないことです。また脂肪の抽出、幹細胞の注入、どちらも基本的に外来治療で済むことも患者さんのメリットとなるでしょう。ただし現在は自由診療なので健康保険の対象外であり、高額な費用がかかります。御自身の関節の状態と期待する効果を照らし合わせ、費用対効果を含め、主治医とよく相談していただきたいと思います」
佐藤医師の言うようにメリットは体への負担の少なさですが、脂肪抽出時に人によっては傷跡が残ることもあり、また幹細胞の培養時に牛の血清と抗生剤(ペニシリン)を使うため、それらのアレルギーのある方は治療を受けられません。また自由診療ゆえに高額な費用がかかります。
ミライズクリニック南青山の脂肪由来幹細胞再生医療にかかる費用は自由診療/1関節129万円(税込)、2回目以降は49万8000円(税込)です。
いつまでも動ける身体で健康寿命を伸ばす
「歯科に通う高齢の患者さんの多くが、関節にも何かしらの問題を抱えています。そうした部分もなんとかできないかと外科医と歯科医がともに考えたことが(再生医療導入の)きっかけです。歯科と医科が連携して知見を共有することは、患者さんや医学界にとっても大切だと考えています」
そうした歯科・医科連携の一例が顎関節症の治療です。従来、顎関節症に対し歯科ではマウスピースやマッサージなどの対症療法しか実施できませんでしたが、同院は顎関節症に対する再生医療の認可も受けています。再生医療で効果が出れば顎関節症治療にも「新たな可能性が開けることになります」と佐藤医師。また、慢性疼痛に対する脂肪由来幹細胞の静脈投与(点滴)による治療も認可済みです。
ミライズクリニック南青山の脂肪由来幹細胞再生医療にかかる費用は自由診療/1関節129万円(税込)、2回目以降は49万8000円(税込)です。
我慢は美徳という日本人の国民性もあるのか、佐藤医師によれば「痛みがあってもなかなか医師の診断を受けないという人も多くいる」そうです。再生医療という新しい選択肢が加わった今、健康寿命の延長、そしてQOLの向上のためにも痛みは我慢せず、まずは受診し、適切なアドバイスと治療を受けることが何よりも重要になっています。
Text: Yoko Takeda Photos: Ikuko Yanada, MIRISE CLINIC
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