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芸術と社会をつなぐアートマネジメント古都奈良で新たなうねりの予感

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芸術と社会、芸術家と鑑賞者をつなぐ、そんな仕事を学ぶプログラムが今夏、始まる。奈良県立大学はその実践型アートマネジメント人材育成プログラム「CHISOU(チソウ)」の受講者の募集をかけた。が、「予想を超える反響で、予定よりも早く募集を締め切った」(同事業広報)という。募集をかけて一週間余りで100人超の応募があった。奈良県以外からも応募があり、職業は学生、NPO職員や行政職員など様々な背景を持つ人々が集まった。古都奈良から、アートマネジメントを育む想いをCHISOUディレクターの西尾美也(美術家/奈良県立大学准教授)氏に聞いた。

目次

「アートマネジメント」とは

チェ・ジョンフ「Air Air」奈良県立大学での展示風景、2017年 Photo by Chihiro Matsushita
チェ・ジョンファ「Air Air」奈良県立大学での展示風景、2017年 Photo by Chihiro Matsushita

同事業はアートマネジメントの技法を修得する実践型人材育成プログラム。では、そもそもアートマネジメントとはなにか。

アートマネジメントについて、西尾氏は「一般的に作り手(アーティスト)と受け手(鑑賞者)、作品と社会をつなぐ仕事のことを指します」と解説する。

ただ、アートマネジメントはつなぎ手としての仕事だけを担っている訳ではない。

アーティストにとって、ひとつの表現媒体や手法に囚われることなく、社会の中で表現を行おうとする上で、「何を、どこで、誰と、どのように表現するかについて全体的・俯瞰的な視点でみつめながら、実際に構想を実現していくために、自己マネジメントという意味で必要不可欠」と西尾氏は言う。

鑑賞者という立場からはまた別の視点が現れる。

黒川岳「ローリングドラム」奈良県立大学での展示風景、2019年 Photo by Miyo Ogawa
黒川岳「ローリングドラム」奈良県立大学での展示風景、2019年 Photo by Miyo Ogawa

鑑賞者によるアートマネジメントの役割において、アーティストに寄り添い、アートに関わることは、作り手側に一歩踏み込んでいく方法のひとつ。また同様に、最も近くかつ深く作品を鑑賞したりすることで、社会や生活、物事に対する新しい見方を獲得したりする方法とも言える。

「このようにアートマネジメントは、作り手にとっても受け手にとっても有効な手法です。このことを本プログラムでは、『あらゆる物事を多角的な視点から読解・表現・共有することの循環と重層のプロセス』と説明しています」。

つまり、アートマネジメントを、“先の読めない時代を生きる技術として、誰しもにとって、どのような職業の人にとっても必要なもの”として捉えている。本プログラムは、このアートマネジメントを学び合う機会としたのだ。

古都奈良における、アートマネジメントの課題とプログラムの狙い

提供:奈良県立大学
提供:奈良県立大学

長い歴史と文化が息づく古都奈良。史跡、古墳、神社仏閣が数多く保存され、伝統的な芸能や工芸品に親しむ機会に恵まれている。

ただ、現代的な芸術表現を学び、創り、発表するための美術館や劇場、アートセンター、学校といった場所、機会が多いとは言えないという。

「現代文化やアートマネジメントの視点で奈良をながめた時に、活かしきれていない地域資源や取り組むべき活動の余地はたくさんあるように感じています」。

提供:奈良県立大学
提供:奈良県立大学

そのような中、「歴史が深い一方で、コミュニティの規模が小さいため、近隣の京都や大阪とも異なったあり方を実験できるはず。その意味で、本プログラムを通して、受講者が奈良に集い、奈良で考えることで、今後の奈良を面白くしていく仲間を増やしたいという想いはあります」と、関係人口の創出も狙う。

しかし、本丸は異なる。

「生活者の日常的実践にアートマネジメントの技法が取り入れられることで、じわじわとその成果が出てくるようなボトムアップ型の地域創造のあり方をイメージしています」。

つまり、プログラムを終えて修了証を発行するだけでなく、プログラムを通じて得た“知の地層”を持つ人材が、新たな地域創造の担い手となることも願っているのだ。

「CHISOU(チソウ)」に込められた想い

Photo by Miyo Ogawa
Photo by Miyo Ogawa

本プログラムの正式名称は、「地域の多層化と共有空間の創造に向けた実践型アートマネジメント人材育成プログラム」だが、より分かりやすくしようと、キーワードを絞っていった。

奈良には1300年以上の深い歴史がある。これを、さまざまなモノや知恵が蓄積されたメタファーとしての「地層」とした。

こうした歴史ある場所に立地する奈良県立大学が、全国でいち早く立ち上げた地域創造学部=「地創」が、地域に関する知識や知恵を蓄積してきた「知層」という意味も、「CHISOU(チソウ)」には含まれている。

奈良県立大学でのジェームズ・ムリウキによる国際セミナー、2017年 Photo by Chihiro Matsushita
奈良県立大学でのジェームズ・ムリウキによる国際セミナー、2017年 Photo by Chihiro Matsushita

さらにこのプログラムを発端に、読解・表現・共有というプロセスを繰り返していくことで、奈良から「知の地層」を形成していくという想いを込めた。

「奈良は文化財の印象が強く、実際に保存修復や復元遺産、観光などのイメージでその表象が一面化されがちだと感じています。本プログラムでは、この歴史の土台がある地から現代文化を醸成させていくためにも、過去の地層を掘り起こし、それらを編集し、共有しながら、より多様で新しいモノや知恵を重ねていきたいと考えています」。

流行に左右されない 壮大な時間軸のなかで

Photo by Miyo Ogawa
Photo by Miyo Ogawa

最後に、西尾氏はこうまとめてくれた。

「奈良は、過去から多くのことを学べることが実感できる場所。先人たちの知識や経験から学び、新たに発見したり創造したりしながら、未来の他者へと受け渡していく。一過性のものではなく、文化ということをこうした壮大な時間軸の中で捉えると、流行に左右されず、資本主義的価値観(速さや効率)に囚われない奈良でアートマネジメントを学ぶことが、必然的に思えてくるのではないでしょうか」。

CHISOUディレクターの西尾美也(美術家/奈良県立大学准教授)氏

西尾美也 Yoshinari Nishio 1982年奈良県生まれ、同在住。美術家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。文化庁芸術家在外研修員(ケニア共和国ナイロビ)などを経て、現在、奈良県立大学地域創造学部准教授。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目した作品や日本とアフリカをつなぐアートプロジェクトを各地で展開している。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。
西尾美也(Yoshinari Nishio)…1982年奈良県生まれ、同在住。美術家。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。文化庁芸術家在外研修員(ケニア共和国ナイロビ)などを経て、現在、奈良県立大学地域創造学部准教授。装いの行為とコミュニケーションの関係性に着目した作品や日本とアフリカをつなぐアートプロジェクトを各地で展開している。奈良市アートプロジェクト「古都祝奈良」ではプログラムディレクターを務めている。(提供:奈良県立大学)

プロジェクトのHPはこちらから

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