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連載 | “大継業時代”の担い手たち|齊藤 隆太

事業承継によって、やりたかった「ビジネスに直結するIT」ができるように【岡村慎太郎×齋藤隆太】

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relay対談企画の第二弾は、relayの「事業承継ストーリー#41」にご登場いただいた、広島県広島市で「ワキヤコーヒー」を運営する「有限会社 脇屋」の代表取締役・岡村慎太郎(おかむら しんたろう)さん。事業承継後も、IT関係の仕事と二足のわらじで会社を経営しているという岡村さんと対談させていただきました!

目次

義父から事業承継をお願いされた

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齋藤 よろしくお願いします。僕もコーヒーが好きなんで、コーヒー店を承継されているのがちょっとうらやましいなと思いました(笑)

岡村 そうですか(笑)。

齋藤 岡村さんは通算3社のIT系企業で働いていたんですよね。情報システムの責任者やCIO(最高情報責任者)を目指していた中で、奥様のご実家であるコーヒー店を事業承継されたと。

岡村 はい。ただ、事業承継後もITの仕事は退職せずに、契約社員という形で続けています。店の仕事がない時間を利用して仕事をしています。

齋藤 岡村さんの会社員時代は、順調にキャリアを積んでいるなという印象をもちました。CIOを目指すなど、夢も大きく持っていますよね。その中で突然、事業承継の話が出てきたわけですけど、最初に話を聞いたときはどんな気持ちでしたか?

岡村 実は数年前にも先代である義父から「会社を畳むかもしれない」という話は聞いていたんです。それで、30年もやった会社をなくすのはもったいないと思ったので「よかったら私が継ぎましょうか?」と答えていました。ただ、そのときは結局会社を畳まずに済んでいます。

齋藤 それから数年経って再び承継の話が出たと。

岡村 はい、今度はお願いされた形で。義弟がいるのですが、彼は継がないとのことでしたから。

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齋藤 岡村さんの今までのキャリアを考えると、有限会社脇屋は大きく方向性が違うように感じます。承継する決め手になった部分はありますか?

岡村 実は、自分の中ではそれほど方向性が違っているとは思っていないんです。もともと私はCIOを目指していました。それはIT部門の一人の人間が、何をどう整えてもビジネスに影響を及ぼすことは難しいと思ったから。だから、経営に参画できる立場でITを考えていかないと、本当に効果的なITって実現できないし、ビジネスを伸ばしていくことはできません。それでCIOを目指したんです。

齋藤 CIOを目指したのは、そういった理由だったんですね。

岡村 でも実際はCIOでなくても、組織の代表などでもいいわけですよね。事業承継すれば、組織の代表者になります。自分がもっている知識とかで、ビジネスに直結するITができるんだったら、それは自分がもともとやりたかった方向と同じですから。

齋藤 たしかに。

岡村 ワキヤコーヒーは、非常にアナログな形で事業をしてきました。これまでは広島の一地域が商圏でしたが、インターネットを活用すれば全国が商圏になるわけで。これは可能性しかないなっていうのが、事業承継するときに見えていました。

齋藤 もともとご自身のやりたかったことが、バッと近くに現れた感じですね。

岡村 そうですね。チャンスが到来したという感じでしょうか。組織のトップとして経営をやっていくってことは、CIO以上の経験です。だから、万が一失敗したとしても損はしないって考えてます。

30年以上の店の歴史がライバルにない強み

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齋藤 コーヒー屋さんってけっこうライバルが多いじゃないですか。岡村さんの中でライバルに負けないための戦略や攻略法などはありますか?

岡村 おっしゃるとおりライバルは多くて、近年は新興のコーヒー店や小規模ロースターさんなどがめちゃくちゃ増えています。その中で当店の強みを挙げるとしたら、1988年から続く30数年という歴史です。

齋藤 具体的には、店の歴史がどのような強みになるんでしょうか?

岡村 20〜30種類のいろいろな種類の豆を安定して、かつ継続的にダイレクトトレードするのって、けっこう難しいと思っています。当店は一次輸入のところから直接仕入れているので、まず仕入れ値が安いんです。これは長年やってきたからできること。だから価格差で強みを打ち出していこうっていうのは、ひとつの軸として考えています。

齋藤 なるほど!

岡村 いい豆をよそより安く仕入れられるのは強みですね。ただ現状、安く売りすぎているっていうのがあるので、そこはもう少し利益率を上げていきたいとは考えています。

齋藤 ECサイトを拝見したのですが、ロゴがかわいいですよね。

岡村 もともとネットショップはやっていたんですよ。10年くらい前からでしょうか。ただ、店に来るお客さんがネットでも買えるようにした感じのものでした。ですから、ネットだけのお客さんってほとんどいなくて。それで月10万円くらい売り上げがあったんです。ネットショップは、これから1年で売上を10倍にしたいなと思っています。今は5倍くらいにまでなりました。

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インターネット販売の多くは新規の顧客

齋藤 岡村さんに代替わりしていろいろ変えていったこともあり、新しいお客さんが増えているのではないでしょうか?

岡村 はい、増えてますね。とくにインターネット販売は新規がほとんどです。

齋藤 どういうルートでお客さんになったんですか?

岡村 SNSで知ったり、インフルエンサーの方が紹介してくださったりとかですかね。もともとECをやる上で基本とされているような、最低限のマーケティングを何もやっていない状態だったので、ちょっとやれば伸びるんですよ。まずは露出していくっていうことですね。

齋藤 岡村さんは最近、こういう事業承継関連の話題の中でも露出が増えてきていますよね。

岡村 そうですね。ですから、インターネット検索で「有限会社脇屋」と調べてコーポレートサイトを見て、そこからワキヤコーヒーのサイトに流入できるよう動線を整えたりとか、裏で地道にやってたりしていますね。あとは、福利厚生のサイトに掲載をしたりしています。大手三社くらいあるんですけど、そのうちのひとつに出ているんですよ。そういったところでも露出を増やしていこうかなと思って。

代替わりは変化と効率化のチャンス

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齋藤 今は、従業員は何人いるんですか?

岡村 再雇用している方が1人、アルバイトが2人、あとは私の計4人です。今は電話とファックスの注文があるんですけど、これは来年なくす予定です。あとは店舗でのギフト販売。包んだり、熨斗(のし)を付けたりと手間がかかるので店舗では廃止して、ネット注文のみにしようと思っています。

齋藤 オペレーションの統一化を行うと。

岡村 そうです。店のオペレーションを楽にして人件費を下げつつ、ネットの方で売り上げを出していくというのが基本的な戦略です。

齋藤 岡村さんは情報システム(情シス)の経験がありますが、まさにその経験に裏打ちされた考え方ですね。

岡村 自分の得意な部分でやっていかないと意味がないので。逆にカリスマ性のある人だったら、コーヒー界で名を上げてブランディングを高めていくような戦略もできるんでしょうけど…。自分はその方向ではないなって思います。

齋藤 僕はいわゆるDXってそういうことだなと思うんですよ。DXっていうと、いかにもめちゃくちゃ高度なツールを入れまくって売上を伸ばさないといけないとかって思ったりするんです。本当は、当たり前のことを当たり前にすることがDXだと思うんですよね。

岡村 わかります!

齋藤 大廃業時代って、チャンスの時代だと思っていまして、岡村さんのように継業して、誰に言われることもなくおのずと若い血が入ってDXに向かっていったりします。だから、中小企業がもう一度生産性を高めていけると思っているんです。

岡村 なるほど。

齋藤 DXに資する一番の行動というのは、人を突っ込むというか、人を代替わりさせるくらいの意思決定者を変えてしまうことだと思います。

岡村 そうですね。世代が変われば「めんどくさい」と思うことも新たに出てきます。私は、めんどくさいというところから効率化って進むと思うんです。でも、そもそもめんどくさいと思わないのなら、それ以上の効率化は発想として出てこないんですよね。だから人を入れ替えるというのは、効率化への近道ですよね。

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齋藤 岡村さんに経営が代替わりしたことで、発言などでギョッとされたりとか、反対意見も出てくるのかなと思うんですけど、大丈夫でしたか。

岡村 もちろん、めちゃめちゃありますよ。「これを切っちゃうのか」とか「今までのお客さんへの説明はどうするのか」とか「そんなの無理でしょ」みたいなことを言われましたね。

齋藤 誰によく突っ込まれましたか?

岡村 先代とか再雇用の従業員とかには毎回反対されました。最近はあんまり反対されなくなりましたけどね。

齋藤 先代は義理のお父様でもありますが、ご家族だからこそのやりにくさはなかったですか?

岡村 あまりなかったですね。私自身が遠慮しない性格という理由もあるかもしれませんが(笑)。客観的に見たらやりにくい状況だったのかもしれませんが、私が気にしないので。

齋藤 逆に言えば、岡村さんが遠慮せずに率直な物言いをしたことで、馴れ合いにならずに済んだかもしれないですね。

岡村 それはあるかもしれません。結局ここ10年、ずっと売上は右肩下がりでした。お客さんは70〜80代が中心。質が落ちているとか関係なく、右肩下がりの原因はそれまでのお客さんがお亡くなりになっているからという状態だったんです。「このまま同じことを続けていても、みんないなくなったら終わりだよね」という意識は常にあります。だから「変えなきゃいけないね」という話はよくしていました。

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脇屋を成功させ、並行してDXのコンサルをするのが目標

齋藤 事業承継して、奥様との関係で昔と変わったことはありますか?

岡村 関係性が変わっていませんが、事業承継に関して感謝されましたね。

齋藤 話は変わりますが、岡村さんは神戸のご出身で香川の大学を出たあと、東京でお仕事をされていました。事業を承継するにあたり、東京を離れることに未練はなかったんですか。

岡村 未練はなかったですね。コロナ禍の前だったら違ったかもしれないですけど。事業承継したときはコロナ禍の真っ只中。東京にいるときでも、ずっと家で仕事をしていましたし、イベントもオンラインがメインになっていました。だったらどこにいても同じだなって思ったんです。

齋藤 コロナ禍になってからだいぶ環境も変わったし、東京を離れやすくなったと。

岡村 そうですね。どうせ家で仕事しているなら、物価の高い東京にいる意味はあまり無いというか。

齋藤 そうですよね。ところで、広島にも昔住んでいた時期があったとか。

岡村 はい。最初に入った東京の会社はSES(システム・エンジニアリング・サービス)の業態だったんですが、現場が広島になったんです。それで1〜2年ほどですが、広島市内で働いていました。

齋藤 それでは東京に未練もなく、本当にいいタイミングが重なったんですね。事業承継前に働いていたIT系の会社からも新たに契約社員として雇用されていて、岡村さんは離したくない人材なんだろうなと思いました。

岡村 ありがたいことです。本当のところ、私は辞めますと言っていたんですよ。とはいえ、私のポジションは社内で一人しかいなかったので、後任が育つまでは業務委託とかで協力すると話をしていました。でも、会社からは「社員として残ってくれ」と。新しく契約社員という形までつくってもらって、それはもう本当に感謝しかないです。

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齋藤 今は脇屋とIT系の会社の「二足のわらじ」ですが、どのようなバランスで働いているんですか?

岡村 IT系の会社は珈琲店が店休日の月・水曜日に働いています。

齋藤 土日はお休みなんですか?

岡村 いいえ。土日もコーヒー店は空いていますから。

齋藤 となると、休みは少なめですね。

岡村 ほぼないですね。もちろん、あまりにもしんどかったら休むときはありますが。

齋藤 もともとIT系の会社は退職する予定だったということですが、最初はワキヤコーヒーだけでやっていくつもりだったんですか?

岡村 いいえ。実は事業承継の前から、副業っぽくフリーランスでIT系のコンサルのような仕事をしていたんです。だから事業を承継したあとも、何かしらの副業はやろうと思っていました。

齋藤 完全に一本でやろうとは思っていなかったんですね。

岡村 もちろん、コーヒーだけでも食べていけないことはありません。年収はガクッと下がってしまいますが。だから、年収が下がらない程度には副業をしようかなとは思っていたんですよ。お店の売上が伸びていって、コーヒーだけでやっていけるようになったら、どこかのタイミングで専業になろうかなとは思っていますけど。

齋藤 じゃあゆくゆくはコーヒー、自分の会社を伸ばしていくことに注力したいということなんでしょうか?

岡村 専業にしたいなとは思いつつも、ITから完全に離れることはあまり考えていません。ずっと何かしらの形で、ITの仕事もしていきたいなと思っています。

齋藤 そうなると、レアな存在になっていきますね。

岡村 そうかもしれませんね。やってみたいのは、脇屋を成功させたあとに、地方の中小企業向けにDXを推進していくコンサルですね。

齋藤 いいですね! むしろ岡村さんみたいな人が増えると、事業承継をしてDXやって生産性高めていきたいみたいな人が増えると思います。ニーズは高まるんじゃないでしょうか。

岡村 そのためにも、実際に承継してITで成果を出す必要があります。そういう実績を引っ提げた上でのコンサルじゃないと意味がないので。だから、今は何よりも会社を成功させるのが先決だと思っています。

継業のメリットは信頼性がすでにあること

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齋藤 ズバリ、継業のメリットとデメリットはなんですか?

岡村 メリットは、すでに売上が立っていたりとか、社歴があるので融資を受けやすいことですね。また、すでに取引先があるので、新しく取引先を開拓しなくて良いこともメリットではないでしょうか。しかも長くやっていると、よそよりだいぶ安いんですよ。昔からやっているからこそ、いろいろな面で有利な条件の取引ができたりするので。

齋藤 長く事業を続けているから、信頼性の面で有利だと。

岡村 そうです。融資を受けるにしても、何十年続いていて、しかも直近の数年で黒字が出ているなら融資も受けやすいじゃないですか。いっぽう、自分で立ち上げるとなったときの資金調達って、やっぱり相当に事業計画を練り込まなきゃいけなくて、融資を受けるのは簡単ではないと思います。そういった資金面での差は感じますね。

齋藤 では、デメリットは?

岡村 メリットの裏返しになりますが、三十数年やっているがゆえに、ハード面でもソフト面でも老朽化が見られることですね。オペレーションとかもそうですし、今立っている売上、お客さんとのリレーションみたいなところに縛られやすいと感じています。

齋藤 長年の付き合いみたいなのが、どうしても残ってしまうのでしょうか。

岡村 ありますね、やっぱり。客観的に見たら、どちらに舵を切らないといけないかは分かるんです。今まで続けてきたことが間違っていることも多いんですけど、間違っている期間が長すぎると、変えるのに多大な労力が必要です。いっそ、お金さえあればつくり直したいなと思うような感じ。そういうスピード感が思ったより出せないのは、承継したときのデメリットかなと思います。

齋藤 でも、メリットの方が大きいですか?

岡村 はい。トータルしてみると、企業として売上を出すまでって大変ですよね。最初何年も売上が出ないとかザラじゃないですか。その点を考えると、すでに売上が立っているというのはめちゃくちゃ幸せなことだと思います。だからトータルで見ると、同じ業態のものをやるかことが前提だったら、事業承継は絶対得だなと思います。だから一からコーヒー店をやるより、コーヒー店を承継した方が絶対いいです。それはやってみて確実に思ったことですね。

齋藤 いいですね。コーヒーが好きな人がコーヒー屋さんを継げるって、それだけで幸せじゃないですか。

岡村 そうですね! もともとコーヒーが好きだったので。めちゃめちゃマニアってほどコーヒー好きなわけでもないですけど(笑)

広島市内で3本の指に入るくらいのコーヒー屋として価値を高める

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齋藤 来年度はインターネットショップの売上を10倍にしたいという話でしたけど、ワキヤコーヒーを事業承継した岡村さんのビジョンはなんですか? 中長期的にこうなりたいという展望を聞かせてください。

岡村 現代的な店に変えていきたいです。店内をモダンな感じに変えていきたいですね。今、すべてがもうめちゃめちゃ古いので。儲けを出さないとそういう入れ替えもできませんが。

齋藤 なるほど。

岡村 あとは持ち帰りのカフェ業態をスタートさせたいなと思っています。これまでのワキヤコーヒーは、悪くないけっこう美味しい豆を、めっちゃ安く買えるお店でした。サイトのデザインなども含めて、もう少ししっかりとブランディングして、価値を高めていきたいなと思っています。広島市内でコーヒー屋と言えばワキヤコーヒーが3本の指に入ることが目標です。今でも、広島だと10本の指には絶対に入っていると思うんですけどね。

齋藤 広島も大きな都市ですから、その中で10本の指に入るのはすごい!

岡村 ありがとうございます。やっぱり、ほんとに街中の一頭地で20〜30年やっていたこともあって、知っている人がけっこう多いのはありがたいです。

齋藤 さきほど話された事業承継のメリットですね。

岡村 あと、もうひとつやりたいことがあります。コーヒー鑑定士という資格があるんですけど、それを4〜5年のあいだに取りたいですね。ワインでいうソムリエみたいな資格ですが、日本で過去40人くらいしかいないという難関です。コーヒーは嗜好品なので、”何”を言うかより”誰”が言うかの方が大事だと思うんですよね。ですから資格を取得することでも、店の価値を高めていきたいなと思います。

ワキヤコーヒー通販サイト

有限会社脇屋(ワキヤコーヒー) 岡村慎太郎さんインタビュー記事

聞き手:株式会社ライトライト代表取締役|齋藤隆太
クラウド継業プラットフォーム「relay(リレイ)」

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