海苔師に嫁いで20年。江戸前海苔を作り続ける1日の暮らしとは?

海苔師に嫁いで20年。江戸前海苔を作り続ける1日の暮らしとは?

2022.02.20

海苔師の暮らしって、イメージできますか? 農家や漁師ならなんとなくイメージできますが、海苔師って……。千葉県で江戸前海苔を作り続ける、海苔師としての日々の暮らしはどんなものなのか。海苔を育て、生産し続ける「松金(まつきん)」に嫁いで20年の、松下久美さんに話を聞いてみた。       トップ写真提供:山本 和典

収穫した海苔を乾燥させる、乾燥場の作業

千葉県木更津市出身の松下さんは、海苔師である松下真也さんと結婚して20年。下の子が幼稚園の年中になってから海苔師としての仕事を本格的に始動し、今年で11年目になるという。真也さんは朝早くに養殖場へと向かい、松下さんは子どもたちを送り出してから向かう。海苔の収穫が始まるまでは松下さんも海に出て養殖の作業をするが、収穫が始まれば乾燥場を担当する。

海苔の乾燥

乾燥場には、収穫された海苔に混ざっている小エビ、藻、海藻などの異物を除去する機械や、洗いながらカットしたり、細かくして海苔や水分量を調節したり、水分を絞って乾燥させ、海苔を10枚ずつ束ねてくれたりする機械がある。

海苔を束ねる機械

その日に収穫された海苔の状態や天候を考慮して機械の設定を行い、状況を確認しながら細かな操作と管理のもと、江戸前海苔が作られている。

松下さん「おいしいものを作りたい。乾きが一定になるように、今までに設定した数値を参考にして管理しています。味にも影響するので、品質を一定にしたいのです」

海苔師の平均的な一日の作業とは

真也さんは朝日とともに出港し、海苔を採りに行く。松下さんは朝から作業場で準備を進め、真也さんの海苔を待つ。海苔が到着次第、海苔を攪拌に入れて馴染ませる。

何回目に採った海苔なのかを聞いて、機械に取り付ける刃を選び、天候や今までの経験から機械に入力する数値を決めて、スタート。一周2時間半かけて7800枚の乾燥した海苔ができあがる。富津漁業協同組合の共同乾燥場は、同じく一周2時間半で2万4000枚作れるそうだ。

機械に取り付ける刃や部品
海苔の状態によって機械に取り付ける刃や穴の大きさを決める

たくさんの機械が並んだ乾燥場を、松下さんは行ったり来たりしながら海苔の様子をチェックし、機械を操作し、出来上がった海苔を箱に詰め、新たな箱を用意し、ずっと何かしらの作業をしている。「歩きながらお昼食べています」と言うほどだ。

海苔乾燥作業

海苔の量によって終わりが異なるので、一日で3000枚程度なら昼前に終わるが、4月の忙しいときは、夜中2時まで作業をしている日もたまにあるという。風が強いと海に出られないので、そんな日が休日だ。

海苔師の一年とは

海苔の収穫は、11月から4月。収穫が終わったら、海苔師はどんな風に過ごしているのだろうか? 

松下さん「海底に杭を打って綱を伸ばし、海面に海苔の畑になる部分をつくり、そこに海苔網を縛りつけています。それらの網1400枚ぐらいと綱を陸揚げする片付け作業があります」

養殖場に浮かぶ筏や網
養殖場に浮かぶ筏や網 写真提供:松下久美

陸揚げされた網を専用の洗濯機で洗濯し、切れているところを修繕して12枚一組にまとめて保存。これらの片付け作業は、7月後半まで続くのだとか。片付けが終わると、松下さんの夏休みがやってくる。8月は一か月間休めるが、真也さんは8月中頃から海苔養殖のための場作りが始まるという。

9月後半、海苔の種付け作業がスタート。
10月、養殖場に浮きのついた筏(いかだ)を入れ、網を張る。病害を防いで健康な海苔を育てるために、網を海面に出して乾燥させる干出(かんしゅつ)作業を毎日行う。海苔が育ってきたら、4月までの漁期中を賄うための冷凍作業。秋に収穫する分の網を残し、それ以外の網を冷凍保存する。
11月、干出用筏の撤去と食害対策の防御ネット張り。

束ねられた海苔
写真提供:松下久美

11月7日、今季千葉県でいち早く新海苔を採った松金さん。海苔の収穫は4月まで続き、松下さんは乾燥場で忙しいながらも笑顔できびきびと動き続ける。

おいしい海苔を作りたい

海苔の出荷作業

松下さん「おいしい海苔は、ご飯と食べると海苔の味が分かります。おいしいお米をもらったので、そのお米に勝てる海苔を作りたい。若くていい海苔は甘いけど、米の甘さに負けたりするので。千葉海苔特有の風味の濃さが全面に出た物が作れたときは、うれしいです」

乾燥場で休むことなく動き続けている松下さんの仕事っぷりを目にし、ここだけでは見えない海の上での仕事内容を聞いているだけで、海苔作りにどれだけの手間と労力が使われているか、ほんの一部分を垣間見ることができた。その内容はとてもハードだが、目の前の松下さんはとても生き生きと楽しそうに仕事をこなしていて、海苔に対する愛情を感じさせる。「食べてもらったときに、おいしいって言ってもらうこと」がやりがいだと言う松下さん。そのためには努力を惜しまない。その気持ちは乾燥場の機械を設定するデータや天候などが記された「海苔ノート」にも現れている。おいしい海苔を作るために、できることを全力でやっているのだ。

江戸前海苔を使ったおにぎり
写真提供:松下久美

今回たまたま取材したのが松金の松下さんだったが、江戸前海苔を作る海苔師たち、そして全国でおいしい海苔を作り続けている海苔師たちもまた、同じ想いで同じように努力して生産に励んでいるのだろうと思うと、いつもの海苔がとても重くて味わい深く感じてしまう。

さぁ、みんなでおいしい国産海苔を食べよう。
香り高い千葉の江戸前海苔をぜひ、ご賞味あれ。

写真:松下久美、山本和典,、鍋田ゆかり ※順不同
文:鍋田ゆかり
取材協力:松下久美(松金)