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連載 | 「自分らしく生きる」を選ぶローカルプレイヤーの働き方とは

持続可能な水産業で、人と社会を変えていく。 “美味しい”だけじゃない魚の価値を伝えたい。

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小さい頃から生き物や環境問題に関心があり、現在は水産テック企業で「持続可能な水産業」の実現を目指す木場さん。最初に就職した大手水産食品会社で働くなか、水産業界の世界的な課題を感じ、解決策を求めてインド・ノルウェーでMBAを取得しました。学び続けるなかで、木場さんが決めた次なる挑戦とは?お話を伺いました。

木場 智弘
こば ともひろ|ウミトロン株式会社 Market Success / Business Development
大学院で環境政策を学び、大手水産食品会社へ就職。水産物の輸入・販売に8年間従事した後、インドのビジネススクールでMBAを取得。2020年8月から日本の水産テック企業のウミトロン株式会社で流通開発や資産管理の技術導入を担当する。
目次

生き物や環境問題への好奇心

鹿児島県鹿児島市で生まれました。幼稚園の頃から生き物が好きで、近所の山を探検しては、虫などを捕っていましたね。好奇心が満たされること、親に報告して「すごいね」と褒めてもらえることが嬉しかったです。

小学生になり、友人の影響で始めた釣りにハマりました。父にお願いして、いろいろな釣り場へ連れて行ってもらいましたね。特にお気に入りなのが、薩摩半島にある祖父母宅からすぐの海。たくさん魚がいて、行く度に違う種類の魚が釣れたんです。船や磯で釣っている人もいて、どんな魚を狙っているのだろうと好奇心をくすぐられました。

中学に進学してからは部活や勉強が忙しく、釣りの回数は減りましたが、たまに父とバス釣りへ行くように。高校進学のタイミングで父の転勤が決まり、熊本へ引っ越しました。

高校では、勉強にのめり込みました。入学して最初のテスト結果は悪かったのですが、挽回しようと頑張るうちに勉強が楽しくなったんです。

なかでも関心を持ったのが地学でした。地球がどうやってできたのかや、地球の内部がどうなっているかを考えるのが面白かったですね。

担当もいい先生でした。進路の相談をした時には、「大学生活は自由な時間も多い。打算的に就職ありきで選ぶより、興味のある分野を勉強できる場所がいい」とアドバイスをしてくれました。

自分が興味関心のあることで、大学で何を勉強したいかを考え至ったのが「環境問題」でした。生物をはじめ、地学や環境に興味が湧いていたのと、ニュースで知った温暖化現象に衝撃を受け、危機感もあって学びたいと思ったんです。

「学ぶ」から「実行」へ

環境問題について学べる東京の大学へ進み、他校へも通って授業を聴講しました。就職活動の時期になっても、まだ学びたいという気持ちが強く、「環境政策」を学べる名古屋の大学院へ進みました。

入った研究室は机上で学ぶだけでなく、官学連携での実証など、実際に街の中で新しい取り組みを行い、社会の変化を検証する実践的な場所でした。

例えば、市役所と一緒にシェアサイクル事業を企画し、自分たちで手を動かしながら運営しました。まだ国内外の事例が少なく、認知度も低かったのですが、取り組みが徐々に受け入れられ、町の人の移動手段が変わっていったのには感動しましたね。

そこから環境や経済、社会にどんな変化が起きるか研究しました。研究結果以上に、新たなサービスを創造し、実行することの面白さを知れたのが、大きな財産となりました。

また、同じ時期に、魚の環境問題についても関心を持ち、調査・研究を行なっていました。ある漁港に行くと、魚の需要が落ち、売れずに困っている漁師の話を聞きました。また、地球上では1990年代から天然の魚の水揚げが増えていない一方で、海外の魚の消費は増えているというニュースを耳にしました。せっかく獲ったのに国内で食べられず機会損失になっている魚を輸出する可能性に興味が高まり、仕事として「実行したい」と考えるように。こうした研究や考え方を面白がってくれた、大手水産食品会社へ就職を決めました。

目の当たりにした資源管理の大切さ

水産食品会社では、世界各国から魚を買い付けて、日本国内で流通させるチームに配属されました。輸出に関わりたいと考えていた自分からすると、想像以上に輸入魚の需要が多いことに驚くと共に、国内で販路に困っている魚を思って、悶々とすることもありました。しかし仕事で出会った量販店や外食店の話を聞く中で、国内の魚は「量が安定しない・サイズがバラバラ」などの流通上の課題があって、取り扱いが難しいという事情を知ったんです。

また、仕事で訪問する機会のあったアメリカのアラスカで、魚の品質や資源を管理するレベルの高さに驚かされました。漁業者が自分たちの利益だけでなく、周りの生活者や10年・20年先の未来まで考えて漁を行っているのです。全ての漁師が同じ考えではないかもしれませんが、科学的な評価に基づく、透明性のある資源管理のルールを守っていることに感銘を受けました。

例えばスケソウダラという魚は、それ自体の獲っていい量や、漁の際にうっかり混入してしまう他の魚の量にも制限があります。そのルールを厳格に守るため、アメリカでは船の上で毎回、目視で数えているんです。

普通に漁をするだけでも大変なのに、同時並行で資源の管理にも気を配り、もし制限を超えてしまったら、そこで漁をストップする。そうした努力の結晶ともいえる素晴らしい自然がアラスカにはたくさん残っており、感動しました。

刺激を受けて、日本国内で品質管理・資源管理の事例を探しましたが、なかなか見つかりません。むしろ上の世代の方たちに「今の収入さえ十分ではないのに、漁獲量は制限できない。そんな管理に何の意味があるのか」と言われてしまいました。

確かにアラスカと日本では、一船あたりの平均就業者数や条件、もともとの自然環境、獲れる魚の種類、数にも違いが多くあります。国外の成功事例を単純に押し付けるのは違うなと思い、難しさを痛感しました。

アラスカを3年担当した次は、インドの担当に。アラスカと違って、資源管理がほとんどされていません。それどころか、1回あたりの漁獲量を増やそうと、どんどん船を大きくしていました。

結果、10年前より獲れる魚のサイズが明らかに小さくなっているとインドの漁師が言うのです。資源管理の大切さを、改めて目の当たりにしました。

海の危機に、学び直しを決意

インドを2年ほど担当した次は、ノルウェーのサバなどを日本で販売する部署に異動しました。国内の水産加工会社さんたちとも協力しながら、量販店や飲食店へ輸入魚を流通させるのです。

日々、海外から入ってくる魚の商売をしていたところ、数十年以上も手作業で漬け魚を作っている職人の方から話を聞き、原料の魚の量やサイズ、質までもが下がってきていることに気付きました。世界的に食用魚の需要が増えて、競争が激化。各国で魚を獲る量が大幅に増えたことで漁場が荒れ、その結果、獲れる量が減ってしまったのが一因かもしれません。

海の中は、想像以上に悪い状態になっているのではないか。危機感を覚え、これまでにない新しいやり方を模索するために、会社を辞めてMBAを取ることにしました。

場所は、インドです。インドでは、IT産業を中心に最先端のテクノロジーが生まれていましたし、テクノロジーをいかして様々な若い起業家が社会課題の解決に挑戦しているのを見ていました。何より決め手は、仕事で何度も訪問し、インド人の人懐っこさが大好きになっていたことでした。

インドでは、経営学の理論や様々な業界のビジネスモデル等について学び、そして今後の社会でどういかすかについて、世界で活躍を目指す同世代の仲間と日々議論しながら知識を深めました。

印象に強く残ったのは、インド人が自分たちでつくろうとする精神。海外の良いものを単純に輸入するのではなく、最低限の機能をコピーしながら、安価に最速で作るのです。輸入の仕事を日本で経験していたため、現地転職支援の起業家の考え方や事業の作り方は、教科書で学ぶこと以上に得られるものがありました。このインドの大学院の交換留学制度を活用して、水産業界で先進国と言われるノルウェーの学校へ留学しました。

ノルウェーで話を聞くと、水産業は先進的で稼げる業種として認識されており、特にサーモンを養殖する大手企業は、若者の就職先としても、日本でいうトヨタのような感覚。テクノロジーの導入も進んでおり、労働環境も良いのです。日本となぜこんなに違うのか。日本でも水産の立ち位置を変えていけないか。そんなことを考えるようになりました。

養殖から持続可能な漁業へ

ノルウェーで勉強を続けるなか、転職サイト経由で、ウミトロンという日本の水産テック企業から連絡をもらいました。日本の水産業にAIやリモートセンシングと言った最先端のテクノロジーを導入している会社で、その取り組みや「持続可能な水産養殖を地球に実装する」というミッションに共感し、興味を持ちました。

MBAを取った後は、インドなどの海外や他の業界でさらに学び、スキルアップしたうえで、いずれ日本の水産業に関わろうと思っていました。しかし、ビジネススクールを終える頃、新型コロナウイルス感染症が世界を襲いました。海外に残るか日本に戻るかで悩み、ウミトロンに連絡しました。

ウミトロンは、水産業界にとって新しいテクノロジーを開発して、魚の養殖事業者をサポートする会社。例えば、自動で魚に餌を与えるIoT機器を養殖現場に設置し、経験と勘で判断することの多かった餌やりの生産性を上げたり、海へ無駄に流出している餌を削減し環境負荷を下げたりしています。しかし、この技術で育てられた養殖魚が、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、行き場を失っていました。

以前から、日本では肉を好む人が増えて、魚の消費量が減少していました。生産者の中でも、丹精込めて育てた魚が消費者に評価される機会がなく、販売に困っている人が多い。ウミトロンとして、養殖魚の流通改善に挑戦したいと思っていた矢先、新型コロナウイルス感染症の影響で、小売・飲食店が休業となり、その緊急度が一気に高まったと言うんです。

私も、増え続ける世界人口の需要に応えるために、天然魚だけでなく養殖魚は重要になると考えていました。また、学生時代に聞いた、国内の魚の需要が落ち、売れずに困っている漁師の話を思い出しました。ウミトロンは、その実践を始めていましたし、また日本だけではなく、海外のプロジェクトを行なっており、何より社員と話をする中で感じたフラットな文化を心地よく感じました。スタートアップのメンバーとして、これまで業界にない新しいサービスやビジネスモデルをつくることに挑戦できると考えて、入社を決めました。

水産の隠れた価値・魅力を形にしたい

現在はウミトロンで「生産者への技術導入」と「養殖魚の販路開拓」を行っています。

技術導入は、例えば、養殖生育中の魚を水中カメラなどで数えたり、サイズ測定をする技術です。現在は網の中にいる魚の価値、つまり数やサイズが、実際に水揚げしてみないとわかりません。そうすると販売にあたっては、在庫の不足や、逆に余らせてしまう課題があります。

また銀行からの借入などの際も、自分の資産を正確に把握できないと、交渉に苦労するのです。正しい資産管理が可能になれば、売上や資金繰りの予測も立てやすくなり、それによって消費者もより美味しい魚を安価で食べられるようになるのです。

また、販路開拓では、実績を重ねることで、少しずつ生産者さんにも信じていただけるようになりました。入社当時は「ウミトロンが魚を売る」と言っても実績がないため、漁師さんには相手にしてもらえませんでした。前職の経験を活かして販売先の確保からスタートして結果も出始めたことで、最近では「今後、植物性の餌で養殖した魚を生産していきたいんだけど、どうすれば売れると思う?」など、相談もいただきます。

今後、魚を届けていく中では、魚の本当の美味しさを丁寧に伝えていきたいと考えています。例えば同じ魚種でも、調理法による違いを差し引いても、美味しさに違いがあります。そのことを多くの消費者はまだ知りません。生産者のこだわりなど、情報や想いを一緒に届けることで、流通量や価格はまだまだ上げられます。特に、養殖の魚は、稚魚から育てられるため、今後、消費者の声を品質改善に反映することができると、食べる人の心を動かせるような感動する、より美味しいものができると信じています。

また、美味しさ以外にも、魚には様々な価値があります。例えば、海の自然環境を教えてくれること。管理の仕方によって、ある魚が枯渇してしまうか、孫の代まで食べられるかは変わります。魚はただの食糧でなく、自然環境の危機を伝えてくれる役割があります。消費者が、地球環境に配慮した魚を選ぶようになると、この自然環境を未来の世代まで繋げることができます。

また、地域雇用の創造にもつながっています。私たち消費者が魚を美味しくいただくほど、漁師さんはもちろん、加工や流通、その周辺まで地域の雇用が生まれます。食べ支えることで需要が増え、さらに魚が生産・流通されるようになり、地域の幸せが拡大されていきます。

こうした、現在ではあまり認識されていない魚の価値を、楽しくわかりやすく伝えることで、消費者を、社会を、良い方向へ変えていけるんじゃないかなと思い、仕事をしています。

その他にも、国外への販路拡大にも挑戦していきたいです。ウミトロンは面白い技術を持っています。遠隔で魚に餌やりをできるシステムを活用して、例えばフランスから餌やりをしてもらい、2年後に成長した魚を届け、フランス料理で食べてもらうような、国を超えた体験設計が可能になるのです。私たちが海外のワイナリーに行くような感覚で、海外の方が日本の養殖水産場に来てくれる。そんな新しい文化創造を思うとわくわくします。

水産には課題もたくさんありますが、隠れている価値や魅力がたくさんあります。それらを掘り起こして、新たなサービス・企画をたくさんつくっていきたいです。私自身も世界各地をもっと回って、多くの魚や人、刺激と出会いながら。

この連載記事は、自分らしく生きたい人へ向けた人生経験のシェアリングサービス「another life.」からのコンテンツ提供でお届けしています。※このインタビューはanother life.にて、2022年4月14日に公開されたものです。
インタビュー・ライティング:中川 めぐみ

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