学生時代に『ローカルフラッグ』というまちづくり会社を立ち上げ、20代の仲間と一緒に、地元の丹後地域を元気にする事業を展開中の濱田祐太さん。どんな事業を、どんなふうに発展させているのか、伺いました!
目次
与謝野町ならではのクラフトビールが誕生!
「ASOBI」という名前のクラフトビールが誕生したのは2020年秋のこと。つくったのは京都府・与謝野町の『ローカルフラッグ』。代表は濱田祐太さん、25歳。学生時代に故郷・与謝野町を中心とした丹後地域(与謝野町、京丹後市、宮津市、伊根町)の”旗振り役“になりたいと立ち上げたまちづくり会社で、ビールは『かけはしブルーイング』というブルワリーから売り出している。「2015年にビールジャーナリストの藤原ヒロユキさんが与謝野町でホップ栽培を始めました。『京都与謝野ホップ生産者組合』も組織され、年間約2トン栽培されています。新しい与謝野町の魅力をまちづくりに活用したくて挑戦しました」と、濱田さんはクラフトビールづくりに取り組む背景を語る。
一方で、丹後の有名な景勝地・天橋立がある阿蘇海は内海のため富栄養化し、牡蠣が大量発生。死んだ牡蠣の殻が海岸を覆うという環境問題があることも知った。そこで、大量の牡蠣殻を活用できないか調べたところ、ビールの醸造に使う水の硬度を上げ、ビールの本場のイギリスのような硬水に変えられることがわかった。こうして、まちの魅力と課題に紐付いた、与謝野町ならではのクラフトビールが生まれたのだ。
地域事業とビール事業。2本の柱で会社を運営。
イノベーションハブ『ATARIYA』で打ち合わせをする『ローカルフラッグ』のメンバー。左から、代表の濱田さん、与謝野町生まれの野村さん、川崎市から移住した高橋さん、京丹後市生まれの梅田さん。みんな20代だ。
『ローカルフラッグ』のメンバーは濱田さんを含めて四人だ。主に地域プロデュース事業とクラフトビール事業を軸に運営している。
地域プロデュース事業では、丹後地域にある企業の新入社員採用のためのサポートを行っている。企業と一緒に採用戦略を考え、インターンシップの企画・運営を実施している。また丹後地域出身の学生がUターンしたい、あるいはほかの地域の学生がIターンしたいと考えるとき、地域を案内したり、地域のキーパーソンを紹介したりして、学生と丹後地域をつなぐ事業も実施している。担当する梅田優希さんは、「ローカルビジネスにチャレンジするときに大事なのは、飛び込む勇気。やりがいを感じる仕事も多く、稼ぐチャンスもあります。U・Iターンを考えている若い人たちが『帰ってきたい』と思える仕事をつくったり、見つけたりして、その受け皿になりたいです」と話す。
神奈川県川崎市から宮津市に移住した高橋友樹さんは、「丹後同期会」という丹後地域で就職した新人社員の同期が、横のつながりをつくるための研修プログラムを実施している。また「まちのコイン」という、まちと住民、住民と住民の関係を生むためのプロジェクトも担当。「顔が見える関係性のなかで仕事ができ、楽しいです」と、ローカルビジネスの魅力を語る。
右/「ASOBI」は、爽やかな柑橘の香りと麦のコクが味わえるペールエール。のどごしはスッキリ。左上/『ローカルフラッグ』のメンバーと、ビールづくりに詳しい外部委託の山根大樹さん。左下/出来立てのビールの香りと色をチェックする濱田さん。
もう一つの事業、クラフトビール事業の責任者は野村京平さんだ。「地元産のホップを使い、海岸の牡蠣殻を活用して、与謝野町ならではのクラフトビールをつくることで、まちの課題解決や地域の活性化につながればという思いはもちろんあります。ただ、ビール事業はまちづくりのためだけに行っているわけではなく、ものづくりを究める思いでビールづくりに取り組んでいます。その結果として、まちに人が集い、まちが元気になればうれしいです」と、ビールづくりに向き合う姿勢を熱く語った。
ここから始まる! 地域と僕たちの未来。
濱田さんは学生時代、「まちづくりには条例や制度が必要。政治家になろう」と考え、市議会議員の事務所でインターンシップを始めたが、そこで社会起業家に会う機会も多く、「事業を通じて社会課題の解決に取り組む姿がかっこよく見えました。こんな地域の変え方があるんだと気づかされ、僕も起業家を目指しました」。
1年間休学し、全国20ほどの地域へ視察に訪れ、ローカルベンチャーの起業家や地域のキーパーソンに会い、まちづくりを学んだ。そして2019年、4年生のときに『ローカルフラッグ』を立ち上げた。「起業する前に、丹後地域の企業と大学生をマッチングする学生インターンも企画していました。交通費程度の収入を得ていましたから、月に2、3回は与謝野町へ帰れました。企業や役場の方、地域のキーパーソンとのつながりが生まれ、起業後にやりたいことも見つかりました」と濱田さん。その経験があったからこそスムーズに起業できたそうだ。
今、『ローカルフラッグ』を立ち上げて4年目になる。事業を行うなかで、まちのさまざまな課題が見えてきた濱田さん。「移住者を増やすには、住んでもらう家が必要です。空き家は増えているのですが、活用が進んでいません。リノベーションして貸し出すなど賃貸事業も行いたいです。子どもの教育事業も充実させる必要があるでしょう。教育リテラシーの高い親御さんは移住の要件に教育を挙げる方が多いですから。また若い人たちの人材育成も重要ですが、後継者がいない企業の事業承継も弊社でサポートしていけたら」と将来的な事業展開も見据える。
そうしたまちの課題を解決していくには、まずは『ローカルフラッグ』が会社としての基盤をつくることが第一だと濱田さんは言う。「そのためにも、クラフトビール事業に力を入れているのです」と、四人である場所へ向かった。
そこは、京都丹後鉄道与謝野駅の駅前にある更地だった。「ここにクラフトビールの醸造所とパブをつくります」と濱田さんたちは購入した更地に立った。土地を買い、醸造所をつくることは、地域に根ざす強い覚悟を示すものでもある。今、「ASOBI」は静岡県の醸造所にレシピを伝えてつくってもらっているが、醸造所が完成すれば、製造から販売まですべてを自分たちで担うことになる。当然、リスクも負うだろう。「でも、まちの方々からの応援を感じているので心強いです」と濱田さん。野村さんも、「イギリスでビールを飲める場所を尋ねると、『グッドビアか? グッドパブか?』と聞き返されます。僕らはここに、地域内外の大勢の人が集い、『ASOBI』を飲み、地元のおいしい料理を食べ、楽しく交流できる『グッドパブ』をつくりたいです」と意気込んだ。
この醸造所建設のプロジェクトは、与謝野町のふるさと納税を通じて応援できるガバメントクラウドファンディングにも登録している。「応援をお願いします!」と、四人は『ソトコト』読者に呼びかけた。夢は始まったばかりだ。
『ローカルフラッグ』・濱田祐太さんが今、気になるコンテンツ。
Book:ローカルベンチャー─地域にはビジネスの可能性があふれている 牧 大介著、木楽舎刊
起業前に牧さんが活躍される岡山県・西粟倉村も訪れました。この本は地域でチャレンジする若い人たちに勇気を与えてくれます。背中を押されるし、悩んだときに読み、解決の糸口を探っています。
Online Salon:地域資本主義サロン
『面白法人カヤック』のオンラインサロン。月1回の講座では、CEOの柳澤大輔さんとまちづくりの達人の対談が行われ、成功や失敗の事例が語られます。参加者のディスカッションもあり、実践のアイデアが得られます。https://smout.jp/event/online-salon
Newspaper:北近畿経済新聞
与謝野町を含めた北近畿エリアのニュースが満載です。僕は紙版を購読しています。新しい出来事や企業の挑戦などの情報が入手でき、事業にも役立ちます。紹介された企業や人に連絡を取り、つながりが生まれたりも。https://kitakinkikeizai.jp
photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui
記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。