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愛媛県松山市・興居島にこの春クラフトビールのお店がオープン。オーナーに聞く開店までの苦労と喜び

斉藤恵美利

斉藤恵美利

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瀬戸内の島へ家族で移住した南雲さん。約一年前、移住した理由や島でやりたい事業について取材したが、今回はその後についてお話を伺った。一年でどのような変化があり、どのような苦労や喜びがあったのだろうか。

目次

瀬戸内の興居島(ごごしま)へ移住した南雲さんのその後を取材

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2022年7月には第二子が生まれ、4人家族に。
神奈川県横浜市から瀬戸内にある愛媛県松山市の興居島(ごごしま)へ、家族と移住した南雲信希さん。それまで横浜で飲食店を営んでいたが、新型コロナウイルスをきっかけに、「感染症によるリスクを避けたビジネスをしよう」と興居島でクラフトビール事業へ挑戦することを決めたのだった。
▼前回の記事はこちら(移住と新規事業を決めた詳細な理由など)
前回、南雲さんを取材したのは2022年4月のこと。クラフトビールの醸造所とできたてのビールを提供するお店づくりに向けて、まさにこれからお店の工事が始まり、ビール醸造について学び始めるタイミングだった。
そこから約一年経った2023年の春。ついに南雲さんのお店がオープンした。今回は、決して楽ではなかったオープンまでの道のりや、完成したビールのこと、移住先でお店を開くために大切なことについてお話を伺った。

島の人たちを巻き込んだお店づくり

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設計士さんや大工さんと協力してDIY。
お店のオープンへの道のりは、スタートから簡単にはいかなかった。醸造所兼お店となる古民家のリノベーションの工事が始まったのは、2022年7月。
当初の予定では2〜3月には始まる予定だったが、資源の物価高騰のため、見積もりが当初の予算計画と大きく変わってしまうことに。再度予算や設計の調整をしたため、大幅に遅れてスタートすることになった。さらに雨漏りの修繕に費用や時間がプラスされるなど、古民家ならではの大変さもあったという。
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興居島在住の姉妹が手伝いに来てくれた時の様子。
工事開始後は、コスト削減のため自分でペンキを塗るなど、できることに取り組んだ。さらに島の人たちに向けてリノベーションの見学会やDIYのイベントを開催。事業の準備段階から島民を巻き込むことで興味を持ってもらい、手伝ってもらうことでコスト削減にもつなげた。
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軽食とビールを味わえるお店(手前)と、醸造所(右奥)が併設されている。
2022年11月末に工事は無事に終了。築150年の古い建物を活かした、どこか懐かしい雰囲気のある醸造所兼お店が完成した。
南雲さんが一番気に入っている場所は、ビールを注ぐタップだという。
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こだわって作られたビールを注ぐタップ
南雲さん「取っ手は一つ一つ木工雑貨さんの手づくりで、形が全部違うんです。壁は土壁を塗っていて、版築(はんちく)仕上げという昔ながらの伝統的な製法になっています。入口を入ってすぐ見える、この風景が特に気に入っていますね」

愛媛の規格外のものを活かした、循環のあるビール造り

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リノベーション工事と並行して、ビール醸造の勉強にも取り組んだ。愛媛県内にある醸造所で約半年間、オンラインでの講義も交えながらビール造りを学んだという。
南雲さんが一年前から思い描いていたのは、地域で作られた規格外のものを使ったビールだ。
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青ミカンを頂いている花本さんの畑にて
南雲さん「なるべく地産の規格外のものをうまく活用できたらいいなと思っています。これまで都会に住んでいて、飲食店で働いていた経験もあり、大量生産・大量消費を目の当たりにしてきました。そこに違和感があったので、循環するビール造りを大事にしていきたいです」
そして現在、自身の醸造所で造ったビールは4種類。
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最初に造ったのは、伊予柑のWest Coast IPA(ウェスト・コースト・アイピーエー)興居島で作られた、出荷直前に間引いた伊予柑を使い、しっかりとした味わいの王道のIPAが完成した。
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2種類めはお米を使ったラガー愛媛県の日本酒にも使われるお米を使い、誰でも親しみやすい味に仕上げた。お米の使うことによって、スッキリとした味わいのビールになるという。
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3種類めは小麦を使ったHazy IPA(ヘイジーアイピーエー)。小麦を使うことでクリーミーな泡になり、少しとろみも出る。小麦は興居島にいる知り合いの方が作って余ってしまったものを活用した。
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4種類めはコーヒー豆を使ったビール島にある焙煎所のコーヒー豆を使い、濃い目に焙煎された麦と合わせて、香り豊かなコクのあるビールに仕上がった。
地域で規格外になってしまったものを使うことで、廃棄物の削減や地域の活性化に貢献でき、さらに人とのつながりも生まれる。南雲さんの循環のあるものづくりが、興居島の未来を彩っていくだろう。

オープン直前に感じた不安を原動力に変えてくれたもの

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建物の工事終了後、プレオープン期間が続いていたが、2023年4月上旬、「gogoshima beer farm(ゴゴシマビアファーム)」がついにオープンした。
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奥に見える畳の和室は、現在メンテナンス中。夏頃にはこちらの席も使えるようになり、本格オープンの予定となっている。
店内では地元の野菜を使った自家製ドレッシングのサラダや、愛媛県産の天然真鯛を使ったフィッシュ&チップスなどの軽食とともに、できたてのビールを提供している。さらに、醸造所が併設されているため、大きな醸造タンクが仕切られた窓越しに見えるところも魅力。
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前回の取材では新しいことへの挑戦に「不安はまったくない」と話す南雲さんが印象的だったが、オープンを目前にして「今は不安もある」と話す。
南雲さん「今まで予想外にいろんなコストがかかってしまったし、この先もコストは上がってくる。その中で上手くやっていくのは大変だと思うし、クラフトビールも増えています。製造業も初めてだし、得意ではない営業もどうやっていこうかと考えますし、本当に知らないことだらけ」
不安を伴う初めての挑戦。それでも、家族や応援してくれる人、協力してくれる島の人たちの存在、さらに興居島自体に感じている可能性が南雲さんの頑張る源となり、後押ししてくれているという。
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今後の目標は、建物内のまだ手を付けていない部屋を綺麗にして、一日一組限定で泊まれる民泊を始めること。さらに愛媛県松山に移住して起業したい人のサポートも考えているのだそう。
南雲さん「僕の場合、飲食業しか分からないですが、飲食店を開きたい人がいれば何かサポートできたらいいなと思っています。チャレンジする人が増えると嬉しいです」

移住先で事業を始める時に大切なのは、「歓迎されることをやること」

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最後に、地元の人と良い関係を築きながら新しい事業に取り組む南雲さんに、移住先で事業を始めるために大切なことは何か伺った。
南雲さん「興居島に限らず、可能性のある場所はたくさんあると思います。大切なのは、自分のやりたいことにマッチする場所を見つけて、歓迎されるようなことをやること。地域にお世話になるつもりよりは、お互い対等な関係で、こちらが力になれることを探して移住するといいんじゃないかと思います。そして、それをやり続けることじゃないでしょうか」
移住者だから、とお世話になるばかりではなく、自分が与えられることを見つけること。つい移住で得られるものに目が向きがちになるが、こちらが力になれることを探して行動し続けることで、南雲さんのように、オープン前から島の人たちに応援され、歓迎されるようになるのではないだろうか。

暖かい島で爽やかなクラフトビールを

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冬が終わり、暖かい風が吹くようになった瀬戸内に浮かぶ興居島。そんな季節にぴったりの爽やかなビールが誕生した。
今あるものを活かした空間とビール、そして人の温かさと循環のあるものづくり。それらが揃ったくつろげる心地よい場所。できたてのビールを味わいに、ぜひ「gogoshima beer farm(ゴゴシマビアファーム)」を訪れてみてはいかがだろうか。
《店舗情報》
gogoshima beer farm(ゴゴシマビアファーム)
住所:愛媛県松山市由良町803-1
営業日時:SNSでご確認ください
Instagramhttps://instagram.com/gogoshima_beer_farm
ホームページ・オンラインショップhttps://gogoshima.theshop.jp/
取材・文:さいとうえみり
写真:南雲信希

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