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千葉から網走に移住して30年。地域愛が深くて尊い武内さんのお菓子づくり

山崎 陽弘(やまざき あきひろ)

山崎 陽弘(やまざき あきひろ)

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千葉県船橋市生まれの武内孝行(たけうち たかゆき)さんは1970年生まれの53歳。21歳の時、自転車で訪れた北海道・網走のユースホステルでヘルパーとして生活を始め、30年近く前から定住。このヘルパー生活中に出会い結婚した妻の協力のもと「流氷の丘カンパニー」を設立しました。地元産の生乳を原料にした看板商品「ミルクグラッセ」や「濃厚スコーン」は、手間ひまを惜しまずつくられた逸品で、2023年7月現在、網走市のふるさと納税返礼品にも選ばれています。今回は移住から今に至るまでの苦労やよろこび、ブランドにかける想いについて武内さんにお話をうかがいました。

目次

地域のことを学びたい。地域のために何かできないかを模索した移住後

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1993年、ユースホステルのヘルパーとして生活していたころに撮った1枚。ここでの生活が、人生の礎になった。
21歳のとき、自転車ではじめて北海道一周旅をした武内さん。大好きになった北海道の中でも、網走の雄大なオホーツクブルーの海と出会った人たちに、武内さんは惚れ込みます。後日、旅の途中でお世話になったユースホステルのヘルパーとして網走に戻り、そのまま地元の牧場に職を見つけた1996年、26歳のときに移住。新しい生活を始めました。
「農業生産法人に就職し、主に畑での作物づくりや和牛の繁殖に従事しました。その時に手掛けたビート(甜菜)栽培が、私の素材選びにとても活きています」と当時のことを振り返ります。
そして、網走で充実した生活をおくるうちに、移住直後から抱えていた思いが沸々と大きくなるのを感じたそうです。

「網走って、名前はよく知られている土地です。しかし、網走やオホーツクを代表する土産物や名産品がすぐに浮かばないことに疑問を感じていました。土産店に行っても、店頭には有名な『ROYCE’』や『白い恋人』ばかりが目立つ場所に置かれていますから。」

生活するなかで、網走への強い郷土愛が芽生えた武内さん。「網走のことを学びたい」「網走のために、地域のために何かできないか」という想いを胸に、2011年から東京農業大学オホーツクキャンパスの社会人講座で地域活性化について学んでいた時、人生の転機が訪れます。「地元網走に、自分の手で名産品をつくりたい」と考えるようになったのです。
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ユースホステルに近い、網走市の観光スポット「能取岬(のとろみさき)」。この雄大な風景に、武内さんは魅了された。
自分で生産の現場を知らないと胸を張って取り扱えないと考えた武内さんは、大学在籍中に酪農牧場へ転職し、生乳生産の現場を身をもって学びます。その後、同大学のMBA(経営学修士課程)で1年学んだのち、一念発起で2013年の秋に「流氷の丘カンパニー」を設立。地元の素材だけ使用した、地産地消の食品製造会社を立ち上げたのです。

「流氷の丘カンパニー」のこだわりは、「地域の素材」と「食の安全」

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製品1袋で300ミリリットル程度の生乳と、ビート糖をぎゅっと凝縮させた「お菓子な牛乳かい?」。小分けにされた袋が3つ入って362円(税別)
流氷の丘カンパニーでつくられる製品は、武内さんの完全手づくりです。

創業時に製品化し、今も看板商品のミルクグラッセ「お菓子な牛乳かい?」は、生乳から製品化まで実に5日もかかります。「生乳を殺菌して凝縮した物をカットし、ビート糖蜜に2日漬け込んで熟成、パッケージしています。すべてここの工房でつくっていて、1日に100袋が限界です。」

ひとくちサイズの小さな粒を口に入れると、舌の上でホロホロと崩れます。と同時に、口の中いっぱいに芳醇なミルクの香りと、ビート糖の柔らかい甘さが広がります。その濃厚な味には深いコクがあり、網走産牛乳のおいしさが凝縮されています。「生乳(乳牛から搾った無殺菌のもの)」からつくることにこだわっているから、この味が生まれると武内さんは話します。
生乳は、網走市内でオホーツクの潮風を受けたミネラル豊富な牧草で育った乳牛から搾られたもの。武内さんが本当に安全と思えるものだけを原料にしています。
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安全・衛生面においても、細心の注意を払う武内さん。
生乳以外にも、地域の素材を活かした製品づくりにこだわりを持つ武内さん。小麦粉はオホーツク産きたほなみ小麦のドルチェを用い、ビートグラニュー糖もオホーツク産。黒ビート糖や一部商品に用いられている醤油も網走産です。

「網走市のあるオホーツク地方は、あまり知られていないのですが、素材の宝庫なのです。地域のポテンシャルを存分に生かした素材だけを用いてつくっています。ほかにも、卵アレルギーの方にも安心して食べてもらえるよう、工房内では卵を取り扱う製品を一切つくらないよう心がけています。」と胸を張って話してくれました。

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オホーツク産の小麦粉とバター生地に「お菓子な牛乳かい?」を練り込んでつくられた「網走プレミアムスコーン」は、単包装のもので1個185円(税別)
畑から工場まで、すべて自らの眼で見て納得した物だけを厳選したという武内さん。素材だけではなく、生産過程も安全性に配慮した製品をつくっています。

網走市の「ふるさと納税」返礼品にも選ばれた、武内さんのお菓子。商品を通じて「笑顔を届けたい」

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昨年夏、網走から旭川を走るJR石北本線「特急大雪」の車内販売コーナー。代表である武内さんも自ら「売り子」となって、車内を売り回ったという。(写真は武内さん提供)
「流氷の丘カンパニー」の販路は、オホーツク近郊の道の駅がメインですが、最近は各種イベント・催事でもお目にかかることが増えてきました。2018年からは、網走市のふるさと納税返礼品にも選ばれています。
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取材当日「道の駅 流氷街道網走」にて。販売コーナーの入り口近くの目立つ位置に「流氷の丘カンパニー」の商品が置かれていた。
「たくさんの人に、オホーツクの食材を食べてほしいという気持ちがあります。休みの日には妻の力添えも得ながら、ジャムやチーズといった新製品の開発も行っていますが、私だけではこれが精いっぱい。売れ行きに対して、生産が追い付かない状況です。ありがたいことなのですが、申し訳ない気持ちでいっぱいです。それでも、自分で食べて『おいしい』と思えるものしか買っていただけないと思っています。だからこそ、妥協のないお菓子を届けたいのです。自分が大好きな人に食べてもらいたい。私のつくるお菓子とともに、笑顔を届けたい。そして笑顔になってもらいたい。そう思いながら、ひとつひとつ手づくりして、袋詰めしています」と語る武内さん。その熱い思いと地道な努力が今、確実に実を結んでいます。
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(武内さん)とてもやさしい味に仕上がっているので、子どもから高齢の方まで、ぜひ多くの方に食べてほしいです!
●店舗情報:
【流氷の丘カンパニー】
ホームページ https://www.ryuuhyou.com/
Twitter    https://twitter.com/ryuuhyounooka
Instagram    https://www.instagram.com/ryuhyyo_company/ 
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毎年2月になると、網走の海は流氷で埋め尽くされる姿が見られる。写真に映るのは武内さんの妻の純子さん。(写真は武内さん提供)
【取材後記】
取材を行った6月中旬は、さわやかな風が流れる新緑の季節でした。冬になると網走の海岸には流氷が押し寄せ、厳冬の中に幻想的な光景が広がります。季節を問わず感動的な姿を目の当たりできるオホーツク・網走に、ぜひ一度足を運んでみませんか。
※記事内で紹介した商品は取材当時の情報のため、在庫状況・価格などが異なる場合があります。
文・撮影:なーしぃ(本名:山崎陽弘)
1975年、大阪生まれ。32歳の時に「趣味のオートバイで訪れ、その雄大さに魅了された」北海道・道東に移住。現役の男性看護師として地域医療・福祉分野に尽力するかたわら、15年を越える北海道生活を個人ブログ「なーしぃのひとりごと」で発信している。私生活では、妻と2人の子どもと暮らす。

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