人生は予測不能だが、やり方次第で「思い描く方向にもっていける」という楽しみがある。10年前の3月11日、東京で平穏な暮らしをしていた新婚夫婦が体験した東日本大震災。その後、暮らし方を見つめ直して北海道へ移住したがうまくいかなかった。時を経て語ることのできる自らの「移住失敗談」を特別にお話ししてくれました。なお、当時の記憶を元にお話いただいたので、現状と異なる可能性があることと、プライバシー保護のため一部イメージ画像を利用していることご了承下さい。
実例紹介。移住失敗となる7ポイントとは?
正直な話、仲間やお世話になった人たちに壮大なお別れ会を開いてもらい、3年で戻ってきましたとは言いにくかったです(笑)。
そう語るのは、10年前に北海道に夫婦で移住をしたものの、生活が軌道に乗らずに東京へ戻ってきた、高橋ちこさん(仮名)。ちこさんは、同じように移住を考えている人に自分たちの失敗から学んだ経験を伝えることで、移住へのイメージを掴んで実行に移してもらえたらと願う。リモートでの生活がスタンダードになった今、都会を離れて自然の中で心穏やかに暮らしたいと考える方も増えていることでしょう。でも、現実はこんなはずじゃなかった!という体験談を知って、移住前の参考にしてほしい。
Q:ご夫婦が移住を決めた理由を教えてください。
ちこさん:10年前、東日本大震災を東京で経験しました。福島原発事故の影響で都内でも放射性物質の拡散が確認されました。新婚だったこともあり、これからの夫婦生活や子供を産みたいと思う気持ちから、自然豊かで震災の影響がそこまで出ていないであろう北海道で暮らしてみたいと真剣に考えるようになったんです。
移住先に選んだのは、以前二人で旅行した北海道小樽市だった。決意してからわずか半年ほどで移り住んだご夫婦だが、小樽での生活に3年で終止符を打った。ご夫婦が感じた「定住に至らなかった理由」とはなんだったのでしょうか。次ページでご紹介します。
移住失敗の体験談
理由①:仕事を選べず給料減少
夫の仕事は市役所や現地ハローワークに相談して移住前に決めた。資格があったので介護職限定で探していたので、限られた事業所の中から選択。給与面が減収したため、移住後1年経っても思ったほどゆとりのある生活を送れていないと感じた。私自身は夫の扶養範囲で近所で接客のアルバイトをしていた。
理由②:車2台ないと厳しい現実
公共交通機関が、都会に比べて乏しい中、移住してから購入した車は1台。そのため、自転車か歩いて通える場所でアルバイトを決めた。特に冬は車がないと、移動範囲が限られるので、買い物は週末にまとめるかオンラインを利用。
理由③:地元の人との交流が不得意だった
田舎では地域の結びつきが深いところが多く、地区会館での集会や地域活動への参加要請もそれなりにあった。若い移住者は特に歓迎される反面、プライベートな部分への質問も多く交流の仕方が難しく感じた。その土地ならではの風習や文化を積極的に知ろうとしなかったことで、最初は優しかった近所の方の態度が変化したことも……。住んだ地区では1月1日に新年会があり、参加できないことを伝えるのが心苦しかった。
理由④:家選びの失敗
全国の自治体によっては移住者を対象に、ある一定条件のもとで住居を紹介してくれるサービスもあるが、私たちは家賃重視で探したため、地元の不動産屋さんとメールのやりとりを中心に決めた。東京では叶わなかった猫と暮らす一軒家に憧れて築40年の借家を選択。現地を訪れた時は初秋だったので寒さに気づけず、生活をしてから冬の寒さを体感した。
今となれば気がつきそうな話ですが、当時は見た目や広さを優先した結果。冬は2階は寒くて使わず、ほとんど1階のリビングで過ごしていたので居住スペースは東京での暮らしと変わりませんでした!
理由⑤:生活費が都会と大差ない
移住前は家賃や食費が安く済み、経済的負担が軽くなると考えていた。しかし、自動車の維持費、冬の光熱費が予想より多く、経済的ゆとりは無くなってしまった。関東への飛行機移動も含めると、東京で生活していた時の方が出費は少なかった。
理由⑥:ペットの医療機関が遠い
田舎でも地方都市はペットの医療機関が充実しているところが多いが、当時自分たちが住んでいた地域ではペットの医療機関の数が少ないという問題もあった。
自分たちの場合、動物病院が近くになくて、猫が体調を崩したときの病院選びと通院が大変でした。
理由⑦:雪かきの大変さ
雪かきは大変だよと、事前には聞いていましたが、実際のイメージは付いていなかった。家の前の道路までは除雪が来るが、道路の除雪で跳ねられた雪が山になり、タイヤが埋まって車が出せないという事態がたびたび。通年をどう過ごすかのイメージも住む地域によっては下調べしておくことが重要ですかね。
私たちの課題はこんな感じでしたが、他にもお子さんがいる場合は学校見学や近くにどんな習い事ができる場所があるかなど教育環境も十分にリサーチすることをオススメします。
このような課題を抱えながら、一生暮らしていけるか、改めて考えた結果、ちこさんの妊娠をきっかけに親族のいる東京へ戻ってくる決断に至ったという。「田舎のイメージが好きでも、そこで暮らすとなるとライフスタイルに合うかという部分が大事です。移住者向けの体験住宅で何日か過ごしてみるのも大事だと思います。」
移住失敗を経ての現在の生活は?
現在は東京の飲食店で仕事をしているちこさん。北海道で知り合った農家さんから野菜や米を直売してもらうルートを店に紹介して、店では北海道の食材を頻繁に扱うことになったという。「自分がずっと住むことは叶わなかったけど北海道は大好きな場所なので関わっていたい。顔の見える生産者さんの作るものを応援したい気持ちは変わりません。時期をみて子供を連れて遊びにも行きたいです。」そして旦那さんは引きつづき、介護のお仕事を東京で続けているそうです。
移住した3年間があったから、自分たちのやりたいことに確信が持てたという。「私たちに足りなかったのは、移住する目的が不透明で現地のリサーチも不足していた点。もちろん田舎には都会にはない魅力もたくさんありますが、生活がある以上はいつまでも旅気分ではいられませんでした。」
最後にちこさん、移住を考えている人に、何かお伝えしたいことがあればお願いします!
できる限り何度も足を運んで仕事も決めてから行くことをオススメします。
都道府県や各自治体では移住ポータルサイトの開設や、移住サポートセンターを主要都市など各地に配置していて、就職に関するさまざまな相談を受け付けています。そういったところで情報を得ておくこともできますし、地域おこし協力隊という制度もいいですよ。
地域おこし協力隊
地域おこし協力隊は、都市地域から過疎地域等の条件不利地域に移住して、地域ブランドや地盤産品の開発・販売・PR等の地域おこし支援や、農林水産業への従事、住民支援などの「地域協力活動」を行いながら、その地域への定住・定着を図る取組です。隊員は各自治体の委嘱(いしょく)を受け、任期は概ね1年以上、3年未満です。出典元:総務省
田舎暮らしは近隣の方との付き合いがとても大切です。
あくまで個人的主観ですが、人付き合いがあまり得意でない人は過疎化の進む人の少ない地域より、北海道であればまずは札幌など地方都市への移住の方が合うかもしれません。
一度きりの人生、自分や家族の望むカタチを整理して、なりたい将来を書き出すところからはじめてみてください!あなたが描いた夢が、体験を通して実現していきますように。ちこさん、貴重なお話をありがとうございました。