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指出一正の視点

特集 | サシデの視点

うるさいホテル

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春の桜が満開の時季、立て込んだ仕事の打ち合わせがあり、ぼくはある地方の中心となるS町のビジネスホテルに数日、滞在した。

困難を窮めるかもしれないとのぞんだその打ち合わせは、クライアントが意外にも同郷の出身だったこともあり、軟化し、思いのほかスムーズに進むこととなった。
滞在先のホテルもサービスが行き届いており、部屋には清潔感があって、春のあたたかい風と、折々の花の匂いもあいまったのか、その夜、ぼくはそのまちの繁華街に出て、山菜、海の魚などの地場の産物をつまみ、地産の日本酒をいくらか飲み、ほろ酔いで8階にある自分の部屋に戻った。

「ドスン、バスン、ズッシーン!」
異音と振動が起きたのは午前3時ごろだった。ドスン、バスン、ズッシーンと、部屋にハンマーが当たるような震えと音が上の階の部屋から走った。まるで備え付けの冷蔵庫を八つ当たりのように怒りや騒ぎで壁や床に投げている、そんな衝撃だ。これが2、3分おきに続く。
「こんな時間に、、、」と思いながらも、ビジネスホテルはさまざまな人が泊まっているのだし、何か理由があるのだろうと、人の怒声が聞こえるわけでもなく、そこまで不快を感じずに、その日はそのままベッドの中で、また眠りに落ちていた。
 (107629)

翌日の夜、やはり同じ時刻。午前3時20分。ふたたびぼくの部屋に、あの、冷蔵庫が飛び交うような音と振動が上の階から伝わってくる。さすがに気になったぼくは、フロントに連絡をしようとしたが、意外にも冷静な気持ちでこう気づいた。
「このホテルの最上階は8階だった。つまり、この部屋の上に部屋はない。屋上だけだ」
美しい春の夜に起きた、ぼくの不思議な体験。

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