漁獲量や環境に配慮し、適切な方法で獲られた魚介類は「サステナブル・シーフード」とも呼ばれます。フードジャーナリストの佐々木ひろこさん、専門レストランを立ち上げたシェフ・石井真介さんに「魚食の未来」などについて伺いました。
2017年にスタートして以来、『Chefs for the Blue』はさまざまな取り組みを行ってきた。NGOや研究者、政府機関などとともに学びを深めながら、持続可能な海を目指した自治体・企業との協働プロジェクトやフードイベントなども多数。そんな中、理事の一人である石井真介シェフが2020年に立ち上げたのが、『Sincère BLUE』だ。
店のオープンで社会変化を実感。 一方で課題も浮き彫りに。
『Chefs for the Blue』発足当初は、メディアの取材はほとんどなかったという。ほんの数年間で社会、そして消費者の受け取り方が大きく変わったと感じたという石井さん。一方で、運営ではさまざまな苦労があったという。
「MscやASCを中心とした認証魚を中心に使っているのですが、オープン当初は、入手が難しかったですね。取り扱いをしているという水産会社に連絡しても在庫がなかったり、小ロットでの取引をしてもらえなかったり。同じ魚でも、認証魚となると1割くらい高くなりますからね。ただ、この2年の間でもそのあたりは徐々に変わってきています。同様のコンセプトの店を出店する『Chefs or the Blue』のメンバーも増えていますし、持続可能な魚介類を普及させたいという、想いのある水産会社も出てくるようになり、協力してくれていますので」と石井さんは話してくれた。
佐々木さんも「海が危ないかもしれないという認識は、こういう高級店ではほぼ共通になってきましたが、飲食業界全体で見ると、まだほんの一部。ただ、5年前に『Chefs for the Blue』を始めた当初は、ほとんど誰も知らなかったので、そう考えると大きな変化を感じています。メンバーの多くは、大きなロットで使うことのできない席数の限られたレストラン。流通を本質から変えるには、課題はまだまだありますが、インフルエンサーとして重要な役割を担っていると思っています」。
「未利用魚」にある 大きな可能性に着目。
「未利用魚だから破格に安い値段で仕入れられる、というのは違うと思っています。石井さんのお店でも、未利用魚については長谷川大樹さんという、未利用魚に力を入れる仲買人からしか仕入れていません。長谷川さんは、神経締めや血抜きの徹底など、未利用魚にもちゃんと価値を付加していて、獲ってきてくれた漁師さんに対してもきちんとした対価を支払っています。そうすることで漁師さんも魚を大切に扱うようになりますし、少なくても高く売れるなら、いっぱい獲らないという選択をするようになるとも思うのです。料理人たちも、下処理がよくておいしく、高級魚に比べたら断然安い魚であるのなら喜んで使いますし。”三方よし“の関係が成り立つと思うんですよね」。
石井さんも、お客さんとの関係性の中で、未利用魚への期待について話す。「飲食店はお客さんとの距離が縮まっています。お客さんもコミュニケーションを求めていて、ただおいしいものを食べるだけでなく、店の世界観だったり、考え方に価値を見出されている人が多くなっています。ただ、お客さんは楽しい食事を目的に来店してくれていますので、SNS含め、発信の仕方は難しいところではありますが、オープン当初から反応はすごくいいですね」。
海や水産物を、そして 食の未来を守るために。
佐々木さんも、それに大きくうなずく。「やはり自然があってこその社会。自然が守られなかったら、すべてが崩れてしまうわけですよね。海を守ることは、地球が今後続いていくために不可欠なことなので、そんな海を守るためには食からのアプローチがすごく重要だと思っています。なぜなら、私たちは海の構成物をいっぱい食べていますから、食べるものをコントロールすることで海を守ることができるはずなんです。食料自給率の低下、タンパク質不足の危機も迫っている中、特に四方を海に囲まれた日本は、海や水産物を守ることが大切ですし、そこに未来があると思うのです」。
ささき・ひろこ●『Chefs for the Blue』代表理事。フードジャーナリスト。水産庁の水産政策審議会特別委員、ジャパン・サステナブルシーフード・アワード審査員なども。
(右) 石井真介さん
いしい・しんすけ●『Sincère BLUE』オーナーシェフ。フランスで本場の2ツ星、3ツ星レストランを経験。前身のレストラン『Sincère』でもミシュラン1ツ星を獲得。
記事は雑誌ソトコト2022年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。