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場づくり・コミュニティ

誰かの苦手は、誰かの得手に。

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長髪に四角いフレームの黒眼鏡。一見、ちょっと軽そう? というのが、全国の福祉施設などと連携して、日本各地に42店舗を展開している『久遠チョコレート』の代表・夏目浩次さんの第一印象。だが、多くの障害者の雇用を創出するだけでなく、開業8年目にして『久遠チョコレート』を年商16億円のブランドに成長させているように、障害者をめぐる日本の状況に物申している彼のビジョンは私たちに訴えるものがあり、そのことばと行動力は一聴一見に値する。

そんな夏目さんや、彼とともに働く人々の姿が多くの気づきを与えてくれるのが、鈴木祐司監督のドキュメンタリー作品『チョコレートな人々』だ。スタッフ570人のうち、心や身体に障害がある就労者が6割を占めるという一点をとっても、『久遠チョコレート』は一般企業と大きく異なる。
障害の有無、年齢、性別などの属性で生きる選択肢が狭められるのはどうなのか。誰かの苦手は別の誰かの得手かもしれないし、もちろんその逆もある。それぞれの凸凹を組み合わせることで、個々が自分の持ち分を発揮できる場所をつくる。それがこの20年間、夏目さんがやってきたことだ。
バリアフリー建築を学んでいた大学院時代、障害者の給与を知り、その安さに驚いた彼は2003年、愛知県豊橋市の商店街で障害者3人を含むスタッフとパン屋を始める。だが、パンは手間がかかる割に利益率が低く、売れ残りは廃棄しなければならない。これ以上、銀行からお金を借りられない厳しい状況も経験した夏目さんが出合ったのがチョコレートだった
難しくて手が出ない。最初はそう思ったチョコレートだったが、ショコラティエの野口和男さんの話を聞いて、仕事のイメージが大きく広がった。失敗しても温めれば、またつくり直すことができる。それは失敗してもいい、大事なのはもがくことだという夏目さんの考えにマッチしていた。アイデア次第で付加価値をつけられることも、チョコレートの大きな魅力だった。
評判は上がり、店舗数も増えた『久遠チョコレート』に、某大企業から看板商品テリーヌ6個入り1万箱の超大口注文が入る。ところが、準備がどこまでできているか、直前になって生産管理をしている人は誰もいない……。
「多様な人の雇用なんて夢物語なんですかね」。そんな弱音やうしろめたい話も、パン屋のオープン時からのつき合いで、取材者でありながら、工場が忙しくなると、パートの人と一緒に裏面のシール貼りを手伝っていたという監督の前では率直に語られる。時に弱音を吐こうとも、「あそこは軽度の障害者しか採用していない」と言われれば、その概念をぶち壊そうと、重度の障害者のためのラボを立ち上げる。課題を新たな雇用の場づくりへとつなげてゆくのが、夏目さんの強みだ。
障害者の姿がしっかりとらえられていることも、本作の特筆点だろう。彼らの表情や動きをじっくり追いかけるカメラを通して、これまで障害者という括りの中でだけ見ていた人を、ヒキタさん、アラキさん、スズキさんという個人として認識する。これもまた、作品が私たちに与えてくれる大切な気づきだと思う。
「障害が重度だから賃金が安い、そんなこと、昔の話になりますって」
 
社会に変革を起こす人の挑戦は、これからも続くはずだ。

『チョコレートな人々』

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2023年1月2日(月)より、ポレポレ東中野ほかにてロードショー、全国順次公開。
©東海テレビ放送
text by Kyoko Tsukada

記事は雑誌ソトコト2023年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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